Lotus9 会いたくないのに……
彼に惹かれている私がいるのは確か。こんな気持ちになったのも本当に久しぶりだった。けれど、いくら気持ちに気付いてもこれまで味わった快楽からは簡単に抜け出せやしない。だから、あんな事になるんだ……
「れーん? ちょっと、蓮子?」
「……」
あれから数日過ぎた休日の事、今度は渉が私の部屋に朝っぱらから上がりこんでいた。そして何か色々話していたけれど、私はとても相手に出来る状態では無かった。
それは、あんな事があったから……
―――あの日
“あれ、蓮子チャンだ〜偶然だね”
“……”
驚いて何も言えないでいる私に、彼は今の状況などお構い無しに声を掛けてきた。その後ろでは大人の女性が余裕の笑みを見せて待っている。今度こそ彼女かと思っていたけれど小声で囁いた彼の言葉は
“彼女じゃ無いからね”
笑ってそう言うと、彼はそのまま女性の腰に手を回して中へと入っていった。
―――
その女性がまた彼女じゃないのはいいけれど、それより私がこうして沈んでいるのは彼に先生と一緒にいるのを見られたということ。彼が教師とか妻子持ちとかはもちろん知る筈も無いけれど、それでも他の男性とああしてホテルから出たのを見られたのは本当に最悪。今までこんな事をしてきた罰なんだと実感しています。
「それでさ〜蓮子、夏海がまたみんなで会いたいって言うんですよ」
やっと耳に入ってきた渉の言葉はまた最悪な内容だった。だって、みんなという事はもちろん彼も来る訳でしょ? 今一番顔を合わせたくないのに、どうしてこんな時にそんな話が出てくるかなぁ。
「琉依も賛成してるし!」
――――最悪。それは何も気にしていないという証拠だけれど、こっちは顔を見るのも怖い。視線だけでも何か責められている気がしてならないから。
「私、忙しいから……」
「うん、だから今日会うことにしたから!」
……はっ?
「それに、今日はこの間言っていた梓も来るから! って、いててててててっ」
無意識に私は渉を殴っていた。なんでそんな事をするのかなぁ……この男は! 今日という今日は本当にこの男が憎いと感じた。それでも渉の強引さに負けて、結局はしぶしぶ承諾した訳で。槻岡さんのためだけれど!
そして、場所はまた“N・R・N”で会うことになった。今回は私のたっての希望で渉と一緒に行ったけれど、店には槻岡さんと写真に写っていた小柄な女の子が待っていた。
「蓮子チャン!」
槻岡さんが駆け寄ってくる。そして遅れて近付いてきた子は私に一度頭を下げると
「あ、あの倉田梓です。初めまして」
恥ずかしそうに言っている間も彼女の手は槻岡さんの服をしっかりと掴んでいた。その仕草が、同じ年とは思えない可愛さで一瞬気が抜けてしまった。
「萩原蓮子です、よろしくね」
私が挨拶すると彼女は笑顔を見せてくれた。これは男だったら完全に落ちているな。
「最高! やっぱり俺の梓はかわいいな」
その声と共に急に彼が現れたかと思うと、背後から梓ちゃんを思い切り抱き締めていた。突然の彼の出現に驚いた私だったけれどそれ以上に驚いたのは
「きゃあああああ!」
梓ちゃんのこの絶叫だった。そんな梓ちゃんを見ても、止める事無く更に抱き締める彼。彼の大きな体の中で必死になってもがいている梓ちゃんの姿は本当に可愛らしかった。
そうじゃなくて!!
「あっ、渉と蓮子チャン来たんだ」
可愛らしい梓ちゃんのお陰で、すっかり忘れていたよ彼の事。一番顔を合わせたくない彼はこうして今、私の目の前に立っている。ひたすら梓ちゃんを抱き締めた後、彼の視線は私へと向けられた。
自然に話すんだ、大丈夫……
「久しぶり、蓮子チャン!」
えっ?
あまりにも自然すぎる彼の挨拶に思わず固まってしまった。自然すぎると言うか、ホテルで会ってしまったことなんか無かったかのような彼の態度に驚きを隠せなかった。私にとっては一大事な事でも、彼にとっては大した事では無いのかも。
「うん、久しぶり……」
笑顔を見せる彼に、私は複雑な気持ちを隠しつつ作ったぎこちない笑顔で返した。
この作品を読んで下さりありがとうございます! 梓もここで出しました! やっぱり琉依との絡みもいれとかないと……という意味も込めて。