楽園の巫女と普通の魔法使い
連投かと思ったら日付が変わっていた・・・だと?
side~彩人~
大ちゃんがチルノを抱えて戻ってくるのを確認した俺は立ち上がり服に付いた汚れをはたき落とす。
ルーミアも立ち上がり同じ動きをする。
さて、一悶着あったがそろそろ神社に向かうとしよう。
彩「さて、いいかげんそろそろ神社に向かうか」
ル「そうだね~、紅白もいい加減起きてると思うし~」
そう言うとチルノの介抱をしていた大ちゃんがこちらの言葉に反応した。
大「あっ、もう行かれるんですね。本当にチルノちゃんがご迷惑をおかけしました」
と、深く頭を下げてきた。
彩「さっきも言ったけど気にしてないって。それよりチルノが起きたら伝えてほしいことがあるんだけど」
そう言って大ちゃんに伝言を預けた。
大「分かりました。チルノちゃんが起きたら伝えておきますね」
彩「ありがとう。それじゃ、またな」
ル「またね~」
大「はい、また何時でも来てください」
それを聞いた俺とルーミアは別れを告げ、神社に向けて歩き出した。
大ちゃんは見えなくなるまで大きく手を振っていた。
side~チルノ~
チ「あれ?・・・ここは?」
何時寝たんだっけ?と思いながらアタイは体を起こした。
大「あっ、チルノちゃん起きたんだね」
チ「大ちゃん・・・?」
隣を見ると大妖精ことアタイの友達の大ちゃんが居た。
頭が覚醒するにしたがって先ほどの記憶が思い出される。
確か、人間と弾幕ごっこしていてそれで最後のスペルを唱えようとした直後に背中に衝撃が走ったのだ。
そこまで思い出し、アタイは俯いた。
チ「そっか・・・アタイ、負けたんだ・・・」
負ける要素などひとつも無かった。
が、アタイは負けた。
目の辺りが熱くなり、溜め込んだものが押し出ようとしている。
大「違うよ、チルノちゃんは負けてないよ!」
チ「えっ?」
アタイは大ちゃんの言葉が信じられなかった。
実際にあの人間はここに居なくて、アタイは倒れていた。
普通は負けたと思うだろう。
大「実は彩人さんから伝言を預かっているの」
彩人とはあの人間の名前だろう。
そういえば、名前を聞いてなかったなと思いながら
チ「なんて、言ってたの?」
アタイはあの人間がなんて言ってたか気になり大ちゃんに詰め寄った。
大「『すっげぇ楽しかった。また今度遊ぼうな、そのときは決着つけようぜ。それまで今より強くなっていい子にしてろよ』って」
アタイはそれを聞いた瞬間、胸の辺りが熱くなった。
周りは妖精ってだけで自分のことを馬鹿にする。
それが悔しくて、情けなくて強くなろうとした。
でも、ぜんぜん届かない。
負けるたびに馬鹿にされる。
今回もそうだと思った。
だけど違った。
アタイと戦って、楽しいっていう奴は今まで居なかった。
逆にあっちのほうから、またやろうって言われたのは初めてだった。
チ「ふふふっ」
アタイは笑った。
可笑しくて、うれしくて今までこんな気持ちになったことなど無かった。
チ「面白い人間だったね」
大「とてもいい人だったよね」
アタイは強くなるって決めた。
見返すためではなく、次に会ったときもあの人間と楽しく遊ぶために。
チルノの目には力強い光が灯っていた。
side~彩人~
俺目の前にはひとつの試練が立ちはだかっていた。
彩「ここをのぼるのか・・・?」
途中、鳥居が見えたからここに神社があるのは間違いない。
が、神社に続くであろう階段が問題なのだ。
そこまで高い山ではないが、階段はキツイ。
ル「早く行こうよ~」
ルーミアが急かしてくる。
ここで考えても仕方がないのでとりあえず登ることにする。
少年登山中...
30分後、ようやく鳥居までたどり着いた。
今さらだがルーミアを降ろせばもう少し楽だったな、と思っても後の祭りである。
彩「ここが、博麗神社か・・・」
なんというか、自分の世界の神社と対して変わらない。
とりあえず賽銭でも入れるために、賽銭箱まで行った。
通貨が同じだとは思わないがこういうのは気持ちが大事だ。
ルーミアにも硬貨を渡し一緒に投げ入れる。
シャランシャランと鈴を鳴らし、二礼二拍一礼と願いを言った。
彩「これからも面白可笑しく暮らせますように」
ル「おいしいものがたくさん食べれますように。それと、・・・」
ルーミアの最後のほうはよく聞こえなかったが、頬が少し赤いような気がした
一通り参拝を終え、巫女さんが居るとの話なので探そうと・・・
?「ご参拝ありがとうございます。その願い叶うといいわね」
ズシャアッっとまるで狙ったかのようなタイミングで、紅白の巫女服?を着た少女が境内の裏の方から飛び出してきた。
疑問系なのは、腋が露出しているからだ。
?「博麗神社に賽銭が入っているところなんて始めて見たぜ。お前もなかなか稀有な奴だな」
巫女さんの後から、どっからどう見ても魔法使いな格好をした金髪の少女が歩いてきた。
彩「俺は、狂咲 彩人。好きに呼んでくれ。こいつはルーミアだ」
と、とりあえず自己紹介しておく。
霊「彩人ね、私はこの博麗神社の巫女をやっている博麗霊夢よ」
魔「私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ」
お互いに、自己紹介を終えると魔理沙が聞いてきた。
魔「そいつ妖怪だろ?なんで妖怪が人間と一緒に居るんだ」
霊「理由しだいじゃ退治するわよ」
霊夢はルーミアに向けて殺気を飛ばす。
俺はルーミアの前に立ち、
彩「こいつは俺をここまで連れてきてくれたんだ。だからそんな怖い顔しないでくれ」
俺はそう頼んだが、
霊「分からないわよ?油断させて後ろからガブッって食べるつもりかもしれない」
霊夢が手を口に見立てて、ジェスチャーをする。
その言葉にルーミアは何か言い返そうとしたが、その言葉を遮り
彩「それでも俺はルーミアはそんなことしないって信じてる」
魔「その根拠は、何なんだぜ?」
今度は魔理沙が聞いてきた。
その瞳は何かを期待しているようだった。
俺は悪戯を思いついた子供のような表情で自信を持って言い切った。
彩「勘だっ!!」
その瞬間、音が離脱した。
霊夢や魔理沙、ルーミアまでもがぽかんと口を開けて固まっていた。
そんな中、俺は言い切った爽快感と達成感に浸っていた。
先に沈黙を破ったのは魔理沙である。
魔「あっはははは!お前面白い奴だな~。霊夢、お前の専売特許無くなっちまったな」
そう言ってまたからからと腹を抱えて笑った。
霊「うっさいわね~、確かに面白い奴だとは思うけど。こんなところで立ち話もなんだし上がりなさいよ、ルーミアも」
呆れたような口調、だがその顔は楽しげに笑っていた。
どうやら、魔理沙の期待に応えられたようだ。
そのことに安堵していると、背中に衝撃が走った。
見ると、目に少し涙を浮かべたルーミアが首に手を回し後ろから抱き付いてきていた。
ル「彩人、ありがと!」
彩「どういたしまして」
俺はルーミアの涙をそっと拭ってやった。
縁側に腰掛け出されたお茶を一口飲み一息つく。
む、うまいな。香りもいいし、入れ方が上手いな。
などと、感心していると
霊「それで、何だってこんなところまでやってきたのよ」
俺が一息ついたところを見計らって霊夢が聞いてきた。
魔「そうだぜ、わざわざ賽銭を入れるためだけに来たわけじゃないんだろ?」
魔理沙も興味があるらしく、こちらを見てきた。
彩「あー、それは俺をここに連れてきた張本人に聞いたほうがいいだろうな」
そういうと、二人はルーミアのほうを見た。
ルーミアは茶菓子を頬張っている。
彩「ああ、ルーミアじゃないよ。紫、居るんだろ?」
そういうと、奇妙な音を立てて空間に亀裂が走った。
亀裂は音を立てず広がっていき、中から俺をここに連れてきた張本人、八雲紫が上半身だけの姿で出てきた。
紫「はーい、意外と早かったわね」
相変わらず胡散臭い雰囲気と笑顔を貼り付けてそう言った。
彩「ま、運がよかったんだろ」
俺はそれにおどけたように返した。
魔「彩人って、外から来たのか?」
魔理沙が珍しいものでも見るかのように聞いてきた。
彩「気づかなかったのか?」
魔「ここら辺じゃ見かけない奴だな、とは思っていたが外から来た奴なんて初めて見たぜ」
こちらをじろじろと見てくる。むず痒いな。
霊「ちょっと、紫。また、何か企んでいるんじゃないでしょうね」
霊夢は外から来たことにあまり興味が無いのか、あからさまに嫌そうな顔をして紫を見る。
紫「あら霊夢、流石ね」
どうやら予感が的中したようで、霊夢はさもめんどくさそうな顔をしている。
彩「それは、俺がこの世界で暮らすことに関することか?」
多分これが理由だろう。
つか、落とされる前にそう言われたし
紫「あなたも理解が早くて助かるわ」
紫はうれしそうに笑う、胡散臭さは消えないが。
紫「あなたには能力が備わっている。それは現代ではとても危険なもの。ここはそういったものを全て受け入れる楽園」
楽園ね、少なくともあちらの世界よりは断然こちらのほうがいい。
彩「俺は、あちらの世界には戻れないのか?」
別にあちらの世界に未練は無い。無いが後腐れの無いように後始末だけはしたかった。
不意に服の袖が引かれた。
見ると、ルーミアがまるで迷子にでもなったかのような表情を浮かべていた。
その瞳は不安の色に揺れている。
ル「帰っちゃうの?」
声と手が震えていた。
俺は少し反省しながら、ルーミアを優しく抱き寄せて頭を撫でてやった。
彩「大丈夫だよ。ただ少しだけあっちの世界で後始末するだけだから」
どうやら不安は取り除けたようだ。
ルーミアは抱きついて頭をグリグリと押し付けてきた。
ルーミアの頭を撫でながら、話を進めた。
彩「それで、どうなんだ?」
紫「少しの間なら大丈夫よ」
なら、俺の答えは決まっている。
彩「俺は、この世界で生きていく」
その答えに紫は満足そうに笑い、
紫「そう。なら、あなたにはここで、1年間ほど修行してもらうわ」
彩「ここでって霊夢のところでか?」
紫「そうよ、ここで弾幕の打ち方と空の飛び方、能力の使い方を学んでもらうわ」
その言葉に霊夢は、
霊「それは別に構わないけど、報酬はあるんでしょうね」
ジト目でにらみつける霊夢に紫は、
紫「向こう1年間のお酒と食材の提供でどうかしら」
霊「乗ったわ!!」
その変わり身の早さに関心していると魔理沙が聞いてきた。
魔「彩人の能力って何なんだぜ?」
彩「さあ?わかんね」
その言葉に紫は、
紫「目を閉じて自分の中に意識を集中してみなさい」
言われたとおりにやってみると、すぐに見つけることができた。
彩「【流れを司る程度の能力】と【夢を繋げる程度の能力】か」
魔「どんな能力なんだ?」
彩「おそらく流れに関係するものは例外なく操れるとかそんなんだろ。夢を繋げる程度の能力についてはよくわからん」
魔理沙はなんだよそれー、と文句を言っていたが分からんものは分からん。
彩「ああ、それとなんか力みたいなのが二種類ほどあったな」
紫「それは霊力と魔力ね」
紫によると霊力は身体能力の向上や物へ付加能力を付けることができるらしい。
魔力は自然に干渉しないで現象を起こしたりするのに向いているが基本的にはどちらも同じように扱えるらしい。
ちなみに霊力と魔力が半分ずつ、総容量としては霊夢に少し劣るくらいだそうだ。パネェ・・・。
今後の方針も決まったし、そろそろ後片付けに行きますか。
彩「紫、1週間ほどあっちの世界に連れてってくれ」
紫「わかったわ、それじゃ行きましょう」
霊夢と魔理沙、ルーミアにしばしの別れを告げ少年は世界から消えるために元居た世界に帰っていった。
あぁ、とても眠い・・・