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分の悪い賭け

私はかえってきたーーー


?「おや?これは珍しいね。人型を保っている魂なんて何時以来かねぇ」


?「まぁ、なんだって良いさ。ここは三途の川、あたいは見ての通り水先案内人。あんたを閻魔様のところまで連れて行くのがあたいの仕事さ」


?「うん?自分はまだ死んでいないって?自分の姿を良く見てみな。半透明で足が無いだろ?それは肉体が生命活動を停止して魂が肉体を離れた証拠さ。あんたみたいに人型を保った状態ってのは珍しいんだけどね」


?「え?あんたはどうして死んだかって?それはあたいには分からないよ。これから会いに行く閻魔様・・・映姫様って言うんだけどね、そのお方なら分かるだろうさ」


?「さ、そろそろ出発しようじゃないか。偶には真面目に働いてる所を見せないとまたお説教されちまうし」


?「え?顔が青いって?あはは~まぁ、ね。あんたも機会があれば受けてみるといいよ」


?「それじゃ、船賃をもらえるかな。多分どこかにあると思うけど」


?「あったかい?それじゃあ・・・・・・うん、ちょうど六文あるね。さ、乗っとくれ、出発するよ」


?「どのくらい掛かるかって?それはあんたがどれだけ善行を積んできたかで変わるから一概には言えないね。もしかしたらあんたのほうが辿り着く前に消えちまうってこともあるしね。あぁ、消えるって言っても輪廻の輪から外れるって事じゃないから安心していいよ」


?「それじゃあ、着くまでの間にあんたの人生でも話しておくれ。つまらなくったって良いさ、あんたの人生はあんたにしか語ることはできないんだからね」


?「・・・・・・へぇ、あんた外からここに来た人間だったのかい?それならその珍しい格好も納得がいくね。・・・・・そういえば、あんたってどことなく似ているね」


?「誰にって?いやさ、あっちの時間軸で数年前だったかな?一人の魂が閻魔様の秘書っていうか補助員としてここに配属されたんだよ。その人に似てるんだよ」


?「ここの財源ってのがさ、どれだけその魂が善行を積んできたかで決まるんだよ。転生する際に記憶とかと一緒にその人の善行も悪行も浄化される。その浄化した善行がここの収入になるのさ」


?「で、その人が積んできた善行っていうのが常人の数十倍、それこそ聖人君子に追いすがるほどの質だったって話さ。その魂から得られる収入は是非曲直庁の活動資金の数年分に相当するらしいね」


?「地獄の沙汰も金次第って言うだろ?うちも財政難だったから十王様達も喜んだんだ。でもその人は輪廻転生されずに今は映姫様の下で働いている」


?「何故かって?当時は財政難と同じくらい・・・いや、それ以上に人手不足が深刻だったんだよ。で、浄瑠璃の鏡でその人の有能さに目をつけた映姫様は自分の下で働く事を提案したんだ」


?「その人、何か条件を提示したらしいけどそこまでは知らないよ。そんな経緯があって約100年の間、映姫様の下で働く事になったんだ。その人に似てるんだよ、あんた」


?「と、もう着いたのか。あんた結構善行積んできたみたいじゃないか」


?「これだけ早いなら心配いらないよ。あの門を潜って真っ直ぐ行けばそのうち映姫様のところまでいけるはずさ」


?「それじゃあ、これでお別れだね。楽しかったよ」


?「またなって・・・、もう会うこともないだろうに不思議な奴だ。でも、ほんと雰囲気とかそっくりだったね。名前はなんて言ったかな?」


?「あぁ、そうそう。外で亡くなったって言うのに何でかこっちの三途の川に来てしまった珍しい魂。名前は確か・・・」







?「狂咲(くるいざき)彩花(あやか)だったね」










?「ふむ、どうやら小町は真面目に仕事をしているようですね」


?「ああ、気にしないでください。此方の話です」


映「私が幻想郷の閻魔を勤めています、四季映姫・ヤマザナドゥと申します。以後お見知りおきを」


映「それでは早速、貴方の人生を見せてもらいます」


映「これは・・・・・貴方は多くの善行を積んできたようですね。あちらでも此方でも多くの人を助け、また多くの人に助けられて生きてきた。しかし、残念な事に若くして貴方は死んでしまった」


映「貴方の死因ですか?貴方は死の呪いを受けたのです」


映「そう、呪いです。それも強力な、一瞬で人の命を奪うほどのものを」


映「西行妖、貴方達が復活を阻止したあの桜の木は妖怪です」


映「それも無差別に死の呪いをばら撒き、周囲に居る全ての生命を奪っていく恐ろしい妖怪です」


映「貴方達が復活を阻止したお陰でこれ以上被害が広がる事はありません。しかし、その代償として貴方は死んでしまった」


映「貴方のような素晴らしい人が若くして命を散らしてしまうのは非常に残念です」


映「しかし、それも自然の摂理。人が死ねば生まれ変わる。水が高いところから低いところに流れるように、それは当たり前の事」


映「あぁ、審判の途中でしたね。失礼しました。えぇ、文句なく無罪ですよ」


映「どうしたのですか?」


映「あっちに残してきたものがある?未練の無い人なんて居ませんよ」


映「それに、貴方はすでに死んだ身。生き返るなんて事は出来ません」


映「どこに行く気ですか?そちらは三途の川ですよ」


映「どきません。貴方はすでに死んでいるんです」


映「えぇ、絶対です。閻魔の名に懸けてそこは譲れません」


映「私を倒してでも通るつもりですか?貴方がお強い事は知っています。が、私には勝てません」


映「この空間に居る私は能力を十全に発揮できます。万に一つ、億に一つも勝ち目はありません。それでも戦うというのですか?」


映「そうですか、致し方ありませんね。少し痛いですが我慢してくださいよ?」


・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・


映「だから言ったでしょう?私には勝てないと」


映「もう諦めなさい。これ以上続けると貴方は消滅してしまいますよ」


映「・・・・・・それほどまでに生き返りたいのですか?」


映「かけがえの無いモノ、ですか」


映「はぁ・・・貴方も諦めが悪いですね」


映「でも、そういうの嫌いじゃありませんよ」


映「どうしても生き返りたいのなら、方法が無いわけではありません」


映「はい、嘘ではありませんよ」


映「かなり分の悪い賭けですが」


映「生き返るというよりも転生するのです」


映「えぇ、魂を浄化せずにです」


映「ただし同じ種族、すなわち人間には転生することが出来ません」


映「貴方は生まれ変わるわけですからね」


映「さらに、貴方には我々十王が用意する十の試練の何れかに挑戦していただきます」


映「その試練を乗り越えることができたならば、魂をそのままに人間以外の生物に転生することが出来ます」


映「ただし、途中で脱落した場合は強制的になんらかの生物に転生します」


映「えぇ、正規の手順通りにです。ただし、何に転生するかは完全にランダムです」


映「さらに言うと、試練を乗り越えて転生できる権利を得たとしても転生先もランダムです」


映「上手くすれば自我のある、例えば妖怪に転生できます。しかし、ミジンコになる可能性だって十分にあるわけです」


映「この十の試練は過去に達成できた人は居ません。そもそも挑戦する人が少ないですから」


映「少ない理由ですか?激痛を伴うのですよ。魂を新しい身体に合うように変化させる際に激痛が伴うのです」


映「ほとんどはその激痛に耐え切れず、精神を崩壊させて強制転生されてましたね」


映「この扉の先が十王の試練、その何れかが待ち構えています」


映「どうです?止めておきますか?」


映「即答、ですか。よほど現世に残してきたものが大切なのですね」


映「え?私の大切なものですか?」


映「・・・・・・考えた事もありませんね」


映「って、私のことはいいのです。今は貴方の事ですよ」


映「本当に行くんですね?入ったら最後、後戻りは出来ませんよ?」


映「分かりました。今度来る時は、きちんと生を真っ当してから来てください」


映「はい、それではさようなら」








映「またな、なんて閻魔に言うようなセリフでは無いでしょうに」


?「映姫様、彼は行ったんですか?」


映「小町?仕事はどうしたのですか?」


小「いやぁ、ははは。ちょっと様子が気になっちゃって」


映「はぁ・・・・・・まったく貴女って人は。いいですか、だいたい貴女はいつもいつも」


小「ちょちょちょ、ちょっとストップストップ!映姫様、お説教は勘弁してください。ほら、すぐに戻りますから」


映「ふむ、まあいいでしょう。彼は行きましたよ。今頃相当な激痛が彼を蝕んでいることでしょう」


小「アイツ、大丈夫ですかね?」


映「それは分かりませんが、なんだか大丈夫な気がしますね。何故でしょう?」


小「あの人の縁者だから・・・ですか?」


映「いえ、酷く曖昧なので表現が難しいですね」


?「映姫さん、小町さん」


小「おや、噂をすればなんとやらだねぇ」


?「あの子は行ったのですか?」


映「えぇ、つい先ほど。本当に会わなくて良かったのですか?」


?「はい、今のあの子に会えばきっと揺らいでしまうでしょうから」


?「せっかく素敵な人達に囲まれているんですもの、私は遠くから見守る事が出来るだけで十分です」


映「貴女がそう言うのなら私からは何も言いません。さぁ、小町はそろそろ持ち場に戻りなさい」


小「はいぃ!そ、それじゃあ、また後で」


?「はい、お仕事頑張ってください」


小「あいよ」


映「貴女も、仕事は終わったのですか?」


?「えぇ、今日の分は全て終わりましたよ?」


映「貴女が来てからというもの、小町がサボって時間が空くことよりも貴女が率先して仕事を終わらせてくれるお陰で時間が空くことのほうが多いように思えますね」


?「ふふふ、偶にはそういうのもいいではありませんか。あぁ、そうだお茶にしましょう。可愛い映姫さんの大好きなチョコレートケーキを作ったんですよ」


映「お茶にしましょう!さぁ、すぐに!」


映「って、さりげなく頭を撫でながら可愛いって言わないでください!」


?「あら?でも、実際可愛いのだから仕方ないじゃないですか」


映「そう言う問題ではありません。私は貴女の上司で貴女は部下なのですよ?わかっていますか?」


?「十分過ぎるほどに」


映「上司に向かって可愛いなんて普通は言いません」


?「でも、幻想郷では常識に囚われてはいけないのでしょう」


映「ですが、それとこれとは話が別です」


?「可愛いは私の正義です」


映「だから~~っ!!」







?「私にできることはここまでよ、後は貴方次第。貴方が出来る事を精一杯やり遂げなさい」











?「私はいつも貴方を見守っているわ」










?「頑張りなさい、彩人」

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