従う者
お待たせしてしまい、申し訳ない。
もう少し執筆速度が向上すれば良いんだけど・・・
それでは、どぞ~
side~彩人~
彩「!!?」
階段を昇る事、もう何段駆け上がったか数えるのも嫌になるほどの段差を文字通り飛び越え、ようやく黒幕が居るであろう門が見えてきたのだが・・・。
咲姫「な、何なのあれ?」
舞姫「お姉ちゃん・・・・なんだかすごく、怖いよ」
ようやく見えてきた屋敷、その内部から突然桜色の光が漏れだし、同時に今までは気配程度だった嫌な感じは感覚として明確に感じ取るまでの密度となって屋敷からあふれ出していた。
彩「クソッ!霊夢!魔理沙!」
悪態も吐きつつ、俺は門を潜り抜け嫌な気配―明確な死の匂い―が最も濃い中心部へと飛ぶ。近づけば近づくほど気分が悪くなり、吐き気がする。咲姫も舞花も今は刀の姿に戻り黙っている。それでも霊夢や魔理沙の事が気に掛かり、二人の姿を探した。能力で死の匂いの流れを遠ざけながら進んでいく。
こんな状態でなければ絶景であろう古き良き日本庭は、雰囲気も相俟ってどんな墓地よりもおどろおどろしい場所に見える。そんな庭を駆け抜けながら、角を曲がると其処に二人の姿を発見した。一瞬の安堵の後、俺は二人のさらに奥に在る巨大な桜の木と桜色に輝く女性が苦悶の表情を浮かべながら巨木に取り込まれようとしている光景を目の当たりにした。
彩「霊夢!魔理沙!」
霊「彩人!?」
魔「遅いぜ、彩人!」
二人に声をかけると、同時に振り返り霊夢は驚いた風に、魔理沙は安堵した風な表情をみせた。
彩「なにあれ?」
霊「分からないわ、魔理沙のマスタースパークを受けて無傷だったから仕切り直ししようとした瞬間に」
魔「あの桜の木が開花し始めたんだ。そしたらアイツがいきなり苦しみ始めて、あんな風に」
三人で女性の方を見る。おそらくあの人が妖夢の主、幽々子さんって人なんだろう。桜の木は今のところ五分咲きというところだ。
幽々子「あぁ!っくぅぅぅ!」
そして幽々子さんの身体が徐々に透け始めてもいた。それと同時に嫌な気配がさらに強まる。
霊「ちょっと、なんかヤバそうよ!」
彩「悠長に様子を見ている場合じゃないな。でもどうすれば良いんだ?」
前情報も無いまま下手に動いても事態が好転するなんてのは小説や映画だけの話だ。現実はそんなに優しくない。でも、動かなければ事態が変わらないこともまた事実。
彩「霊夢、魔理沙!とにかくあの木を止めるぞ!」
霊「分かったわ」
魔「そういうのは得意だぜ」
俺は右から、魔理沙は左から、霊夢は真正面に陣取り、それぞれスペルカードを構えた。今回は非殺傷なんて生易しい事は言っていられない。殺す気は無いけど全力で力をぶつける。
彩「流星『スターダスト・レイン』!」
霊「霊符『夢想封印』!」
魔「恋符『マスタースパーク』!」
空から無数の星型弾幕が降り注ぎ、色とりどりの大きな霊力弾が幽々子さんを避けて桜の木に飛んでいき、高密度の光線は範囲を狭める事で光線の密度と貫通力を増やして木を焼き尽くさんと襲い掛かった。しかし・・・、
彩「はぁ!?」
霊「なんなのよ、コイツ!」
魔「ありえないぜ・・・」
三方向からの一撃は桜の木に届く前に結界によって阻まれた。そうこうしているうちに、桜は七分咲きにまでなっており、先ほどよりさらに薄くなった幽々子さんは今にも消えてしまいそうな程儚い印象を受けた。
そんな時、
妖「幽々子様ぁ!!」
妖夢が叫び声と共に俺達の横を通り抜けて、抜刀していた二本の刀で桜の木に襲い掛かった。
妖「きゃあっ!」
しかし、その刃は届く前に結界に弾き飛ばされる。それでも妖夢は諦めずに何度も何度も結界に斬りかかっていった。
咲夜「彩人、なんなのこれは?」
彩人「咲夜か、見ての通りあれが今回の黒幕なんだけど・・・・・どうやら様子がおかしい」
咲夜「えぇ、嫌な感じが強くなったと思ったらあの子が急に飛び起きてこっちに飛んで行ったから急いで追ってきたのだけど」
さっきから妖夢が刀で結界を斬りつける音だけが響き渡る。その表情は鬼気迫るものがあり、同時に泣き出しそうな顔にも見えた。
彩「とにかく、あれを止めないと面倒な事になるって俺の勘が継げているんだ」
霊「奇遇ね、私もよ」
魔「あんなの野放しにはできないよな」
咲夜「お嬢様と妹様の害になるんだったら、ここで止めていたほうが無難ではあるわね」
さっきは皆バラバラで攻撃したからきっと貫通力が不足していたんだと思う。だけど普通に同時攻撃したって技同士が打ち消しあって威力が下がる場合もある。それなら、一番威力の低い攻撃からタイムラグを極力小さくして連続でぶち当てれば或いは届くかもしれない。
イメージするなら削岩機、いくら硬かろうが同じ場所を絶え間なく打ち続ければ何れ砕くことが出来る事と同じだ。
そのためには、4人じゃ足りない。さっき攻撃を加えてみた限り四人でぎりぎりいけるか否か、少し不利かもしれない。
彩「妖夢っ!」
妖「・・・・・あ・・・や・・と・・・・さ」
へたり込んでいる妖夢に駆け寄る。何度も何度も斬りつけては弾かれていた刀は刃こぼれこそしていないものの、それを握る妖夢の真っ白な手は赤く腫れ上がっていた。その痛々しさに思わず顔を顰める。
妖「このままじゃ、幽々子様が・・・」
うわ言のように妖夢の口から零れた言葉。
彩「このままじゃ、どうなるんだ?」
妖「このままじゃ、幽々子様が消えてしまうんですっ!あの桜は絶対に咲かせてはならないと私の師匠が常々おっしゃっていました。私がそれの意味を知ったのは蔵である書物を読んだからです。でも、私は幽々子様があの桜を咲かせたいと仰ったから、願ったから、それで幽々子様が消えると分かっていても私はそれを叶えて差し上げたかった」
彩「主が消えると分かっていて、あえてそれを教えなかったの?」
妖「師匠からは、絶対に幽々子様にはこの事を教えるなと言われていましたから。・・・・・・私は間違っていたのでしょうか?」
まるで捨てられる事を理解した子犬のような目で此方を見上げてくる妖夢。
彩「さてね、従者の事なんて俺にはわからない。何せそういう経験をすることなんて無かったからな。そこんところはもっと適役が居るだろ?それでも、俺だったら」
一拍置いて桜の木を見るすでに八分咲きから九分咲きになろうかというところ。もうあまり時間は残されていない。幸いというか、幽々子さんの透明化は止まっているみたいだけど。再び妖夢に視線を戻す。
彩「俺だったら、自分の主が馬鹿なことをしようとしてるんだったら、ぶん殴って話を聞いてもらうかな?ま、相手にもよるだろうけどそこんところは臨機応変にな」
ニッ、と笑って妖夢に手を差し出す。キョトンとした妖夢はそれでも律儀に俺の手を取ってくれた。
彩「妖夢がした事が正しかったのか悪かったのかなんて俺には分からないけど、そういうのは自分の主に直接聞いてみたらどうだ?主が正しいと言うなら正しい。悪いと言うなら、それを教訓にして次に活かせば良いだろ?そういうもんだと思うけど、あんまり宛てにすんなよ?素人意見なんだから」
ふと、咲夜の方に視線をやると肩を竦めてやれやれと言っているようなしぐさをされた。従者はそんなに甘くは無いわよ、って言ってるのか?
妖「そう・・・ですね、そのためにもまずは幽々子様をお助けしなくてはいけませんね」
落ちていた刀を拾い、未だ光を放ち続けている幽々子さんを見つめる妖夢。
妖「彩人さん、ありがとうございます。幽々子様、今すぐお助けしますからね!」
そう言って、駆け出そうとする妖夢の首根っ子を掴んで止める霊夢。首が絞まったのか声にならない小さな悲鳴をあげて咳き込む妖夢に霊夢は容赦の無い言葉を浴びせる。
霊「あんたさっき散々斬りつけて傷一つ付けられなかったこともう忘れたの?妖精じゃないんだから頭使いなさいよ。今から作戦話すから良く聞きなさい。さぁ、どうするの彩人?」
霊夢の言葉に妖夢の目線が目まぐるしく変わる。最初は首根っこを捕まれた事による怒りから結界に傷一つ付けられなかった事実を突きつけられ落ち込み、頭使えと言われてさらに落ち込み、作戦があると聞かされて少しだけ持ち上がったら最後にこっちに丸投げした事でジト目になった。まぁそれは置いといて・・・。
彩「時間も無いから各自の役割だけ話すよ。機会はおそらく一度きりだから失敗は許されない」
全員が頷くのを確認して、俺は作戦を説明した。
彩「・・・つー訳だ、もう時間も残っていない。さっさと仕掛けるぞ」
最初に動いたのは妖夢だ。
妖「人符『現世斬』!」
構えた姿勢から目にも留まらぬ速さで結界の目の前まで肉薄し、両手に持った刀で結界を斬りつける。だが、結界はビクともしない。
咲夜「メイド秘技『殺人ドール』」
妖夢が離れるのと同時に咲夜がスペルを唱える。何千本ものナイフが一箇所に向けて次々と結界に当たっては弾かれている。それでもまだ結界はビクともしない。
霊「霊符『夢想封印』!」
咲夜のナイフに被せるように霊夢がスペルを発動する。先ほどよりも大きな霊力弾がナイフが当たっていたところに寸分の狂いも無く殺到する。霊力弾が一つ当たるたびに結界が波打ったように震えるがまだまだ余裕そうだ。
彩「次は俺か、薫風『桜花の嵐』」
最後の霊力弾が当たる直前に俺はスペルを唱えた。燃費や火力に面で最も優秀な広範囲殲滅型スペルカード、掌に収束された霊力と魔力は無数の花びらとなって結界を打ち破らんと突き進んでいく。霊力弾を後から押すような形で結界へと当たる。ここでようやく結界が軋みを上げ始めた。
ミシミシ、ピキピキと硬いものが圧力に耐え切れなくなるように悲鳴をあげる。もう少し、あとほんの一押しだ。
彩「魔理沙!バトンタッチ!」
魔「合点承知の助だぜ!恋符『マスタースパーク』!」
空中でハイタッチを交わして魔理沙に引き継ぐ。ミニ八卦路に膨大な魔力が収束していき、今日一番のマスタースパークが結界へと直進していった。今日三発目だけど魔理沙は大丈夫なのか?
そんな心配とは裏腹に魔理沙は最初から全力でミニ八卦路に魔力を込めている。
ビシッ、ビキビキビキ!!
遂に結界にヒビが入り始めた。いける!このまま押し切ってしまえば、近いうちに壊す事ができる。そう思っていたのだが、急にマスタースパークの威力が著しく落ち、だんだんと光線が細くなっていった。
霊「ちょっと魔理沙!どうしたのよ!?」
魔「悪い、魔力切れだぜ・・・」
霊「はぁ!?」
やっぱり相当無理していたんだな。魔力が尽きて落ちそうになってる魔理沙を霊夢が支えている。結界はもう一息で壊せそうだったのに中心から遠い部分で急激に修復が始まっていた。このままじゃ間に合わなくなる。俺はさっきの反動で動けないし、咲夜では力不足だ。せっかくここまで持ってきたってのに・・・・・万事休すか?
妖「幽々子さまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そんな時、妖夢が叫びながら結界へと突進していった。刀を地面と水平に構え、最もヒビが入っている部分に自分の刀を突き刺した。あれだけ妖夢の刀を弾いていた結界は降り積もった雪にスコップを差し込んだ時のような音と共に深々と突き刺さった。
ガラスが崩れるような音と共に結界の崩壊が始まり、桜色に輝いていた幽々子さんの色が元に戻り透明になっていた体も元に戻った。
妖夢は刀から手を離し、ゆっくりと落ちてくる主の身体をしっかりと抱きかかえた。
妖夢「幽々子様ぁ・・・・・」
幽々子「・・・・・んぅ?あら、妖夢?どうして泣いているの?」
妖夢「よかった・・・よかった・・・です・・・・・・ふぇぇぇぇん」
幽々子「あらあら、良く分からないけど妖夢は泣き虫さんねぇ」
胸に抱きついて泣く妖夢を幽々子さんは困ったような顔をしつつも、慈愛に満ちた表情で包み込む。なんだか主従っていうより姉妹とかの方がしっくり来る光景に思わず頬が緩んでしまった。
咲夜「これで一件落着・・・・かしら?」
桜の木を見てみると、あれだけ咲き誇っていた花びらは結界が破られるのと同時に全て霧散し空中に溶けるように消えていった。あとには花の咲いてない枝だけの桜の木が寂しげに佇んでいるだけだった。あの嫌な気配も嘘のように感じない。
これでようやく異変が終わったのかな。長かった冬は終わりを告げ、短いだろうけど後はリリーが春を知らせてくれるだろう。
俺は帰る為に霊夢達の方を振り向いた。今二人の邪魔をするような無粋な真似をする趣味は無いし、後は宴会をすればすべてが丸く収まる。幻想郷に住み始めてもうすぐ一年になるし、今後の事も考えなくちゃいけない。やる事は山のようにあるけれどとりあえず目先の用件を片付けてしまおう。
そうして霊夢達の方へ一歩踏みしめた瞬間・・・・・・
俺の視界は暗転した。
異変はこれで終了・・・だがまだ終わらない。