人形遣い
前回のあらすじ
にゃんにゃんお!
side~彩人~
彩「さて、霊夢と魔理沙も復活した事だし先に進むか」
咲夜「そうね、お陰で大分時間を食っちゃったわ」
霊「彩人があんなことするからでしょ!」
魔「そうだぜ」
彩・咲「「いや、強盗紛いのことをしている方が悪いだろ(でしょ)」」
そう言うと、二人ともバツが悪そうに目を逸らす。
まあ、自覚している分だけまだマシかな・・・
彩「さて、橙。 俺達はこの異変を解決しに行くからここでお別れだ」
橙「分かった、ちょっと寂しいけど彩人様なら大丈夫だよね!」
彩「ああ、任せとけ!」
橙の頭を帽子越しに撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めた。
彩「それじゃあ、またな」
そう言って、俺達は飛び立つ。
行き先は、この春度が導いてくれるはずだ。
マヨイガから何時の間にか抜けると、また雪が降り始めてきた。
魔「おっ? また雪が降り始めてきたな」
そして、相変わらず風の吹いてくる方角からは春度も混ざっていた。
霊「あっちの方角ね、行きましょう」
咲夜「ちょっと待って、あれは何かしら?」
咲夜の視線の先には、なにやら人影が浮かんでいた。
その人影はキョロキョロと落ち着きの無い動きをしており、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしていた。
霊「なんか怪しい動きね、取りあえず近づいて見ましょう」
で、だんだん近づくにつれてその人影の正体がはっきりしてきた。
まず、小さい。
明らかに人里の子供より小さいサイズ。 というか、掌に乗るんじゃないか、という大きさだ。
そして、手に持っているのはその体型に似合わないランス型の槍。
頭に紅いリボン、青を基調とした服、金色の髪、そしてその人形が何であるかを決定付けたのが・・・
上海「しゃんは~い・・・」
その特徴的な鳴き声というか、声。
間違いなく、アリスの人形だ。
魔「あれ、アリスの人形じゃないか」
霊「なんでこんな所に?」
咲夜「アリス? ああ、あの人形遣いね」
魔理沙が言うあたり、どうやら間違いないようだ。
魔「おまえどうした? アリスは一緒じゃないのか?」
上海「!! シャ、シャンハーーイ!」
俺達の姿を見た途端、上海が飛び込んできた。 魔理沙ではなく俺の方へ・・・
彩「おっと、なんだお前、迷子か?」
上海「しゃんは~い...」
上海はシュンとしながら、小さくコクリと頷いた。
彩「そっか、それじゃあ俺達と来るか? 後でアリスのところに連れて行ってあげるからさ」
上海「!! シャンハーイ!」
そう言うと体全体でその喜びを表現しているようで、一頻り飛び回った後俺の頭の上に落ち着いた。
咲夜「貴方って、なんにでも好かれるのね」
咲夜が呆れたようにため息をつく。
魔「確かに、人妖問わず子供には好かれるし、動物だって彩人には結構懐いてたな。 そんで今度は人形か」
霊「或いは、そういう能力でも持っているんじゃないの?」
咲夜「好かれる程度の能力かしら?」
霊「かもね」
新たに上海を仲間に加え、さらに奥へと進んでいくと少しずつではあるが風が冷たくなくなってきた。
?「・・・・・・・・・・・・」
魔「ん? またあそこに誰か居るぜ」
彩「あの人も何かを探しているようだな」
遠くに見える人影も先ほどの上海と似たような動きをしていた。
霊「って言うか、あれアリスじゃない?」
霊夢の一言でよーく見てみると、人形みたいな少女が焦ったように何かを探すようにキョロキョロとあたりを見渡していた。
なるほど、確かにあれはアリスだ。
彩「ほら、あそこにお前の主人が居るから行きな」
上海「シャン、シャンハーイ!!」
上海は俺の頭の上から一直線にアリスの下へと飛んでいった。
上海「シャンハーーイ!!」
アリス「あ、上海! もう、どこに行ってたのよ!! 心配したんだからね!!」
アリスは飛んできた上海を受け止め、表情をコロコロと変えていた。
アリス「彩人が見つけてくれたのね、ありがとう」
彩「いや見つけたのは魔理沙、俺はここまで運んできただけだよ」
アリス「そう、ともかくありがとう」
そう言って笑うアリスの目尻には微かに涙の粒があったが、それは触れる必要もないだろう。
よっぽど大事なんだろうな・・・
魔「何だって、こんな日に外になんて出たりしたんだ?」
アリス「どこかのぐーたらさんが動かないから、私なりにこの異変を調べようとしたのよ。 そしたら、上海と逸れちゃって・・・」
あぁ、なるほどね・・・
というか、やっぱりか・・・
彩「ごめん、俺がもっと早く霊夢を焚きつけていたら・・・」
アリス「貴方のせいじゃないわ、それにちゃんと見ていなかった私も悪いのだし・・・」
まったく、家の家主には困ったもんだな。
アリス「それじゃ、私は帰るわ。 それと、この先の大きな門の辺りから春度が漏れているみたいよ」
そう言い残して、アリスは上海を連れて帰っていった。
彩「はぁ.......霊夢」
霊「なによ」
彩「いや、言うだけ無駄だからいいや」
俺は、アリスが教えてくれた方角を見て考える。
なんだか嫌な感じだ、微かだけどなにか得体の知れない、気味の悪いモノが流れてくる。
それが何か、と聞かれても困るのだがこの先にあるものはもしかしたらごっこ遊びの範疇を超えているかも知れない。
この異変、前回のようにはいかないかもな・・・
彩人の雰囲気がほんの一瞬だけ変わった事など霊夢達は知るよしも無かったが、それに気付いた者が居た。
舞花「(彩人様・・・?)」
咲姫「(なんだか、一瞬彩人様の雰囲気が変わったような?)」
今の今まで刀の姿で控えていた咲姫と舞花、二人は微かながらも彩人の微妙な変化を感じ取ったのだがそれを口に出す事はしなかった。
気のせいかも知れないと思った事と、何より人型になると寒いからである。
霊「彩人ー、置いていくわよ」
何時の間にか霊夢達は大分遠くに居て、考え事をしている間に距離が離れていたようだ。
彩「今行くよ」
彩人は霊夢達を追いかける。
ひらひらと舞う春度を掌に集めながら・・・・・・
その頃、とある場所にて・・・・・
?「本気で言っているのですか?」
?「もちろんです」
書斎、そう表現するのは簡単だがそこはあまりにもおかしかった。
まず大きめの机がそこにはあり、そこでは山のような書類を次々に処理している少女とその机を挟み書類を処理している少女と向かい合うように、一人の女性が立っていた。
それだけならばいい、問題はそこには壁が無いと言う事。
しかし、不思議とその空間は暗くなかった。
厳密に言えば、先が見えないほどに広い空間の中に机と少女と女性だけが居た。
少女は書類を処理する手を止めずに、淡々と言葉を吐く。
?「確かに出来ない事はありません。 貴女はそれだけの事が出来る権利を有しています。 しかし、それを実行するという事がどれだけ貴女自身に影響を及ぼすか分からないのですよ? 最悪、消滅するかも知れません」
少女は処理する手を止め、その女性の瞳を見据える。
?「重々承知しています。 しかし、私はそれでもなお、あの子に伝えなければいけないことがあるのです」
その女性の瞳にはとても強い輝きがあった。
断固として揺るがない強い意志とそれとは裏腹な柔らかい笑みを浮かべた女性は言葉を続ける。
?「もしかしたら真実を知って、あの子は壊れてしまうかも知れない。 だけど、これを知らないままでは、あの子は本当の意味で強くはなれない。 だから私はあの子に真実を告げるのです、自分の存在を賭けてでも」
その表情は、生きとし生けるもの全てに共通する子供を見守る母親のそれだ。
?「貴女がそこまでする理由はなんですか?」
そう問いかける少女の顔は薄い笑みを携えている。
少女はその問い掛けに対して女性が何と答えるのか知っているのだ。
知っていて、あえて聞いた。
対する女性も薄い笑みを浮かべ、
?「愚問ですね・・・」
一度言葉を切り、目を伏せる。
今、女性は何を思っているのか・・・
それは女性にしか分からない。
次に女性が言う言葉を聞くまでは・・・
?「愛しているからに決まっているではないですか」
少しの淀みも無く、女性は言い切った。
?「フフフッ、そう言うと思っていました」
少女はさも楽しそうに、鈴を転がしたように笑った。
今回の話はどうでしたか?
楽しんでいただけたら光栄です。