普通の一日
大変長らくお待たせしました!
今回は、なんてことはないある一日を書いてみました。
それでは、どぞー
side~彩人~
紅霧異変から一ヵ月が経った。
まだまだ残暑が厳しいが、時折吹く風は爽やかでだんだんと秋を感じられるようになってきた。
そんな今日この頃、博麗神社の境内では金属音が響き渡っていた。
彩「はっ!」
咲姫「あまいです!」
彩人の一閃を難なく受け流し、カウンターとばかりに切り上げる。
それを読んでいたかのように半身でかわした彩人は、さらに一歩踏み込む。
しかし咲姫は彩人が踏み込むと同時に、サイドステップで刀の軌道上から脱出し逆手に持ち替えた刀で彩人の首を狙う。
すでに刀を振るう態勢に入っていた彩人に回避行動が出来るはずも無く、刀は彩人の首の皮に触れるか触れないかの距離でピタッと止まった。
咲姫「私の勝ちですね、彩人様?」
刀を引きながら咲姫は嬉しそうに笑う。
彩「あ~、また負けた~」
地面に倒れ、仰向けのままで彩人は本気で悔しそうな顔をする。
すると、彩人の刀が消え舞花が現れた。
舞花「でも、私もお姉ちゃんも徐々に本気を出し始めているからそんなに落ち込むこと無いよ、彩人様?」
しゃがんで彩人の顔を覗き込むように笑い掛ける。
ただでさえ丈が太ももくらいまでしか無いのに、そんな風にしゃがんだらいろいろと見えてしまう。
最初は、内心ドギマギしていたがそれももう慣れてしまった。
ここのところほぼ毎日のように腕に抱きついて寝たり、甘えるように腕を絡ませてくることが多い。
具体的に言うと、初めて幽香のところに行った次の日辺りからだ。
一回注意してみたのだが、二人ともまるで捨てられる寸前の子犬のような顔になったので早々に諦めた。
そういったスキンシップのせいで、ちょっとくらい見えそうになったからといって動じなくなったのだ。
彩「ま、確かに最初に比べたら大分イメージ通りに動けるようになってきたから進歩はしてるんだろうけどさ、やっぱ悔しいもんは悔しいんだよ」
頭を掻きながら、立ち上がる。
俺って昔から負けず嫌いで、勝つまではやめない傾向が強かった。
だから、早苗との勝負は初めてのもの以外は大抵勝っている。
舞花「彩人様!他の女の子の事考えているでしょ?」
舞花が膨れっ面でこっちを見てくる。
顔と顔の距離がかなり近い。
これが女の勘って奴なのかな?
彩「ごめんごめん。 それで、何だっけ?」
咲姫「この後はどうしますか? 今日は霊夢さんが出かけると言っていましたからお昼は私達だけですよ?」
そういえば、今朝そんな事を言っていた気がする。
確か、結界がどうとかで紫の家に泊まるらしい。
という事は、今日は三人だけか。
彩「そうだな、偶にはのんびりとお茶でも啜りながら過ごすのも悪くないんじゃないか? 二人がどこか行きたい場所があるなら付き合うけど?」
今日は珍しくどこかに出かけるという気分じゃないし、それなら咲姫たちとのんびり過ごすのも悪くない。
最近は結構騒がしい日が続いていたから偶にはいいだろう。
咲姫「いえ、私は特に行きたいところはないですね」
舞花「わたしも~」
どうやら今日は神社でのんびり過ごす事に決まったようだ。
彩「それじゃ、お茶の用意でもしようか」
お茶と茶菓子を取りに台所へ向かった。
彩「あ~、お茶が上手い」
三人は縁側でお茶を啜っていた。
右から、舞花・彩人・咲姫の順番で座っている。
爺臭いって? ほっとけ。
こういうときこそ日本人に生まれて良かったって思える。
お茶菓子には団子に始まり、饅頭や煎餅、大福を用意した。無論、俺特製だ。
舞花「なんだかこうして、のんびりとお茶が飲めるっていいね」
確かに、賑やかなのもいいが偶にはこうしてのんびりとお茶を啜るのもいいものだ。
彩「最近は修行や幻想郷の地理を覚えるためにあちこち出回っていたからな」
散歩のついでに道を覚えたり、いきなり幽香に絡まれてそのままガチバトルに発展したり、異変解決後は紅魔館にもちょくちょく顔を出すようにしている。
美鈴と組み手をしたり、パチュリーに魔法を教わったり、咲夜と料理をしたり、レミリアとフランと妖精メイド達と遊んだり。
たまにフランとの遊びのはずが、ガチバトルに発展してしまう事もあり、その度に咲夜に怒られたりしているが・・・
彩「そういえば、いつも一緒に居るようであまり相手をしてあげられていなかったな」
二人はいつも俺について来るけど、咲姫達との時間はあまり多くは無かったように思える。
咲姫「そんなことないですよ、私達は彩人様の側に居たいだけですから」
舞花「そ~そ~、だからそんなに気にしなくてもいいよ」
二人はそう言っているが、これは俺自身の気分の問題だからそうもいかない。
彩「ん~~、そうだ!」
いきなり掌をポンと叩いて、声をあげた彩人を不思議そうに見る二人。
彩「それじゃあ今日は、俺が出来る限り二人の要望を叶えるよ」
うん、これは名案だ。
一応、主従関係の立場なので遠慮している部分もあるかも知れないし、何より二人のために何かしてあげたい。
舞花「本当!!」
嬉しそうに身を乗り出してくる舞花とは対照的に、
咲姫「え? でも・・・よろしいんですか?」
若干、遠慮気味に上目遣いで聞いてくる咲姫。
共通している部分は二人とも目が期待の眼差しでこちらを見ていることか。
彩「うん、俺が出来る範囲でね。 内容によっては却下する場合もあるからね」
そんな事は滅多に無いと思うが・・・
舞花「それじゃあねぇ、もっとくっついてもいい、彩人様?」
彩「ん? それくらいならいいよ。 ほら、おいで」
嬉しそうに舞花が抱きついてきた。
それを柔らかく受け止める。
それこそ密着と言ってもいいくらいぎゅ~~~っと抱きしめてきた。
咲姫「あっ、いいな~舞花は」
そんな舞花を羨ましそうに咲姫が見つめているのを見逃すような彩人ではない。
彩「ほら、咲姫もおいで」
咲姫の肩に手を回し、少し強引だが抱き寄せる。
咲姫「キャッ! もう、彩人様///」
言葉とは裏腹にその顔は嬉しそうだ。
二人の頭を撫でていたのだが、大きな妖力が二つ近づいて来たことに気付くと体を離し臨戦態勢を取った。
咲姫「!! 彩人様、何か来ます!」
一方は東側から、もう一方は北側から近づいてくる。
先に降り立ったのは、赤いチェックのスカートにブラウスの上から同じ柄の上着を着て、日傘を差した女性だ。
幽香「ごきげんよう、彩人」
太陽の畑の管理者、風見幽香だった。
あの日からたま~に神社に遊びに来るようになり、その度に喧嘩したりお茶を飲んだりしている。
彩「こんにちは、幽香。 今日はゆっくりしたい気分だから、喧嘩はかんべんな」
幽「別に私だっていつも戦いたいって思っているわけじゃないわ。 今日はお茶しに来たのよ」
優雅に笑うその姿は、確かにいつもの獲物を狩る目ではない。
先日、フランと友達になった時のような優しげな表情をしている。
彩「そっか。 霊夢は居ないけど、ゆっくりしていきなよ」
幽香に座るように促し、台所へ行こうと立ち上がると強い風が吹き、すぐに治まった。
凪「彩人~、遊びに来たのじゃ~」
もう一つの大きな妖力の持ち主は、天魔の孫娘である凪のものだ。
彩「凪、また抜け出してきたのか?」
まったく、確かに頭の固い連中に囲まれて生活するのは大変そうだけど少しは周りの事も考えてほしいな。
凪「私にそれを要求するなら、大天狗に待遇の改善を認めさせるのじゃな」
さらっと心読むなよ・・・
凪「それはさておき、風見幽香殿とお見受けするがあってるかの?」
幽香「そういう貴女は、天魔の孫娘の涼風凪ね」
二人は笑い合ったまま動かないが良い知れぬ雰囲気を醸し出している。
これは、一悶着あるか?
彩「暴れるのはいいけど、神社に被害の出ないようにしてくれよ」
じゃないと、俺が霊夢に殺されはしないだろうけど怒られる。
怒った霊夢は怖いからな・・・(遠い目)
以前、帰りが遅くなった時には陰陽玉が飛んできてそれを回避したところに夢想封印が飛んできた。
流石の俺でも視近距離からじゃ避けられないぜ。
あの時はまだ時間操作も上手く出来ないときだったし。
ちなみに、今でも勝てる気がしない。
幽「ふぅ、今日は戦いに来たわけじゃないから止めておくわ」
珍しく、本当に珍しく幽香から身を引いた。
あまりに珍しかったので、思わず固まってしまうほどだ。
幽香「何よ、そんなに私から下がったのが珍しい?」
若干拗ねたようにジト目でこちらを見てくるが、これは仕方ないと思う。
だって、あの幽香が自分から戦わないって言ったんだぜ?
明日は槍でも降って来るかね?
凪「そんな事よりもお茶が欲しいの~」
凪は凪でさっさと縁側に座って、お茶菓子を頬張っている。
彩「はいはい、少し待っててな」
お湯を沸かして、人数分の湯呑みを用意する。
あれ? お茶っ葉が残り少ないな。
明日霊夢に言っておこう。
お茶を注いで、縁側まで持っていくとなにやら騒がしい。
凪「それで、彩人とはどこまで言ったんじゃ?」
幽香「一つ屋根の下で暮らしていて、何も無いわけ無いわよね~?」
咲姫「なっ、なっ!/////」
舞花「別に、いつも一緒に寝てるくらいだよ」
凪と幽香が咲姫たちをからかっているようだ。
咲姫は顔を真っ赤にして、トリップしている。
あいつら、何をやっているんだか・・・
凪「なぬ!? 三人でか!?」
舞花「そうだよ~。 彩人様は温かくて、良い匂いがして、とても安心できるんだよねお姉ちゃん?」
舞花は恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに笑う。
咲姫「ふぇっ!? あっ! そ、そうね///」
幽香「ふ~ん、そう。 それを聞いたらますます欲しくなったわ」
獰猛な獣のような目をする幽香。
いや、マジで洒落にならないから。
彩「俺は誰の物にもならないぞ?」
一人一人にお茶を配りながら答える。
だって、縛られるのは嫌いだし。
幽香「あら? 力ずくで従わせるに決まっているじゃない」
こわっ! これが妖怪の本質か?
欲に忠実ってのは聞いてたけど、マジで気を付けないといけないかも。
彩「悪いけど、そう簡単にはやられないよ?」
幽香「あら、それは残念♪」
まったく、冗談なんだかそうでないんだかイマイチ分からないな。
ふと、空を見ると太陽は相変わらずギラついていたが、何時の間にか真上へと移動しており思い出したかのようにお腹が食べ物を要求していた。
彩「もうこんな時間か、結構しゃべっていたんだな」
幽香「あら本当だわ、時間が経つのが早いわね」
凪「彩人~、お腹が空いたのじゃ」
あれだけ茶菓子を食らってまだ足りないのか?
用意した茶菓子の3分の1を凪が消化しており、器には半分しかない。
彩「ちょっと待ってろ、今昼食を作るから。 幽香も食べて行くだろ?」
幽香「それじゃ、お言葉に甘えようかしら?」
そういえば、幽香に料理を振舞うのは初めてだな。
俺の料理は気に入ってくれるかな?
そう思いながら台所へと向かう彩人の口には笑みがこぼれていた。
後日、喧嘩を吹っかけて来る幽香の攻撃は今までにないくらい苛烈だった。
何度も言いますがほのぼのって難しいですね。
やっぱり、ルーミアやフランとか小さい子達と絡ませた方がそれっぽくなるのだろうか?
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