太陽の花そして愛しいモノ
今回は前回の続きです。
それでは、どぞー
side~彩人~
霊夢と一緒に昼食を摂った後、ある場所を探しに散歩へ出かけた。
午前中に見せてもらった幻想郷縁起に書いてあった場所を目指して空中散歩を楽しんでいる最中だ。
人里を除けばあとはほとんど森、あっちに居た時は人工物に囲まれていたためよりいっそう綺麗に見える。
そういえば、あいつは元気でやっているだろうか。
もう会えないかも知れない彼女のことを思いながら飛んでいると緑の中に一箇所だけ黄色で埋め尽くされている場所が見えてきた。
そこが今回の目的地、確か太陽の畑という名前だったはずだ。
なにか、注意事項が書いてあったような気がするが思い出せないので気にしない。
その場所に降り立ち、俺は声が出なかった。
そこには、あっちの世界ではまず見る事が出来ないほどにたくさんの向日葵が咲いていた。
それも、一輪一輪がとても力強く美しい。
まさしく、太陽の花にふさわしい姿であたり一面に咲き誇っていた。
彩「・・・すっっげぇ」
咲姫「・・・綺麗」
舞花「・・・わぁ」
それしか声が出なかった。
あまりにも美しくてしばらく三人でこの景色に見惚れていた。
だからだろう、こちらを狩る者の目で見ている少女に気づけなかったのは・・・
?「気に入ってくれたかしら?」
不意に声を掛けられ、弾かれたように咲姫と舞花は人型になり戦闘態勢をとる。
それを苦笑しながら手で制し、声を掛けられた方を向く。
二人は警戒こそしてるものの、構えを解いた。
振り向くと、そこには深い緑色のクセが強い髪、白いブラウスと赤いチェックのスカートを身につけた女性が日傘を差して優雅に微笑んでいた。
彩「はじめまして、俺は彩人。こっちは咲姫と舞花。」
とりあえず、自己紹介をしておく。咲姫と舞花も軽く会釈をする。
?「あら、これはご丁寧に。私は風見幽香よ」
彼女も自己紹介に応じてきた。
どうやら、話が通じない相手じゃなさそうだ。
彩「ここの向日葵は綺麗だな、すごく気に入ったよ。幽香が手入れをしているの?」
幽香「そうよ、この子達は私の大事な家族だもの。私の【花を操る程度の能力】で操って元気な状態を保っているの」
幽香はうれしそうに笑いながら向日葵たちの方を向いた。その顔は愛しいものを見るかのような表情だ。
思わず、笑みがこぼれる。
唐突に笑ったからだろう、幽香が怪訝そうにこちらを見ている。
彩「いや、どうしてここの向日葵が綺麗なのか、少しだけ分かった気がしてね」
幽香「へぇ、聞いてもいいかしら?」
彩「幽香がここの向日葵に注いだ愛情の分だけ、美しく咲くんだと、そう思うよ」
その言葉に少しだけ目を開き、それからさっきよりもうれしそうに笑い、
幽香「ありがとう」
一言だけ、お礼を言った。
それからは特に話す事も無く、向日葵達を観賞していた。相変わらず、二人は警戒していたが。
30分くらいそうしていただろうか・・・そろそろ散歩の続きをしようと幽香に声を掛ける。
彩「それじゃ、そろそろお暇するよ」
そう言って、背中を向け飛ぼうとしたが・・・
幽「あら、もう行くの?もう少しくらいいいじゃない」
と言って引き止められた。
彩「俺は最近、幻想郷に来たばかりでね。ここの地理を把握しておくために散歩の続きをしたいんだ。また今度じゃダメかな?」
なるべく、やんわりと断る。だが・・・
幽香「ダメね」
言葉と同時に異常なほどの殺気が放たれる。
それと同時に幻想郷縁起での注意事項を思い出した。
太陽の畑に居る妖怪、風見幽香。
幻想郷最古参の大妖怪であり、能力【花を操る程度の能力】はそれほど強くも無いが、妖力と身体能力が並外れて高く、戦闘におけるセンスは天性のものを持っている。
花を愛するがゆえに花を蔑ろにする輩は命が無いに等しい。
基本的に太陽の畑に近づかなければ害は無く、人里にも偶に現れるが機嫌を損ねなければ紳士的ではあるが、近づかない方が吉。
とか書いてあった気がする
咲姫と舞花は、相手に呑まれたのか足が震えているも、俺を庇うように立つ。
その姿がとても愛しくて、心が温かくなる。
俺は二人の肩に手を置き、
彩「二人とも、無理すんな。ここは俺に任せろ」
優しく、諭すように声を掛ける。
二人は悔しそうな顔をして、刀の姿になった。
何故、幽香の殺気を受けても平気でいられるかというと、フランと全力で弾幕ごっこしていたおかげである。
全力なので、互いに自然と殺気立ってくる。しかも吸血鬼が相手だ。その殺気は幽香と同等かそれ以上だ。
最初はホントに恐かった。全身の血液が一気に冷えていくような感覚、蛇ににらまれた蛙ってこんな感じなのか、とか思う余裕も無かった。
でも、そこは適応能力の高い人間、実力がつくにしたがって次第に殺気にも慣れていき、自分から殺気を出す事が出来るようになっていた。
彩「殺気を出すにしてもずいぶんと殺る気満々だな?」
字は間違ってないよね?それくらいの殺気は感じる。
幽香「安心して、命までは取らないわ。でも、負けたら私の奴隷になりなさい」
えー、なんだかすごいこと言われたような気がします。
なに?負けたら幽香の奴隷?遠慮したいね、誰かに縛られるの嫌いだし。
彩「一応、理由を聞いてもいいかな?何で俺?」
幽香「私は貴方が気に入った、それだけよ。妖怪は自分の欲に忠実なの」
そう言って笑う幽香、目は笑ってないが。
人間の本能は警鐘を鳴らしている。
こいつはダメだ、勝てる相手じゃないと。
しかし、戦わずして逃げられるほど甘い相手でもない。
正直、恐い。いくら力があっても人間である以上妖怪には恐怖を感じてしまう。
でも、不思議と負けるとも思わなかった。
幽香「さて、そろそろ始めましょう?いくわよッ!!」
言い終わると同時に幽香が消えた。違う、消えたように見えるくらいの速さで移動しているんだ。
能力を発動し、自分の時間の流れを早くする。
周りの時間を遅くする場合とほとんど一緒だがこちらのほうが燃費がいい。
幽香は背後から傘で薙ぎ払う動作に入っている。
幽香の背後に移動し、能力を解除した。
あ、霊力で身体能力を上げるのも忘れてないよ。
時間の流れが戻ったところで、さっきまで自分がいた場所を傘が豪音を立てて通過する。
うわっ、当たったら即死だな。ソニックブーム起きてるし。
幽香は驚いたように目を見開き、そのまま距離を取った。
幽香「貴方、いったい何をしたの?」
完璧に捉えたと思ったのだろう、少しばかり動揺が見える。
彩「この戦いが終わったら、教えてやるよ」
そう言って今度はこちらから仕掛ける。
が、本気では打ち込まない。
いとも容易く避けられ、カウンターとばかりに掌底が飛んでくる。
腕の袖をとり勢いを利用し、合気道で遠くに投げる。
かなり遠くまで飛んだが態勢を立て直す前に一気に距離を詰め斬りかかる。
が、それを傘で防がれた。
幽香「へぇ、人間にしてはなかなかやるじゃない」
幽香が楽しそうに笑う。
彩「そいつはどうも、幽香はこの程度なのか?」
対して、こちらはわざと挑発する。
幽香「!!・・・ふふふっ、ますます気に入ったわ」
幽香の姿がぶれた。さっきは普通の動体視力だったが今は強化しているので見える。
幽香が果敢に攻めてくるがそれをかわし、受け流し、距離を取る。
けっしてこちらからは攻撃しない。
まだだ、もっと遠くへ離れないと。
不意に攻撃が止んだ。
幽香が苛立ったように、声を荒げた。
幽香「貴方、本気でやっているの?」
どうやら、手加減していると思われたらしい。
幽香は少し失望しているようだった。
彩「う~ん、これだけ離れればいいかな?」
幽香「?、何を言って・・・!!」
彩人たちがいる場所は、太陽の畑からかなり離れた森の上だった。
幽香「貴方・・・向日葵に被害が出ないようにわざと?」
彩「向日葵は、俺が好きな花の一つなんだよ。あんなに綺麗に咲いているのに傷つけたくはないからね。さ、そろそろ本気でやりますか?」
そう言って、スペカを構える。
幽香は傘の先端をこちらに向けて言った。
幽香「まだるっこしいのはもういいわ。全力でいくわよ?」
傘の先端に妖力が集まっていくのが分かる。
それも、そんじょそこらの雑魚が束になっても、及びもつかない様な量と質だ。
だからこちらも、霊力と魔力を練り上げる。
ただ力任せに練るのではなく、二つが互いに寄り添うように調節しながら練り上げる。
俺も幽香も
互いの力の奔流が余波となって干渉しあう。
二人は合図をあげるまでもなく同時に叫んだ。
幽香「魔砲『マスタースパーク』!!」
彩「薫風『桜花の嵐』!!」
幽香の先端からは、魔理沙と同じ極太のレーザーが射出される。だが、威力は桁違いだ。
対して俺は、突き出した手の平から桜吹雪を放つ。
桜花爛漫をレーザーのように放つ技だ。
さすがに、使い勝手が悪いので改良した結果がこれだ。
こちらの方が断然使い勝手と燃費が良い。
二つのレーザーはぶつかり合い、拮抗している。
幽香「クッ、アァァァァァァァ」
彩「らぁぁぁぁぁぁぁぁ」
お互いの全力がぶつかり合い、爆発が起きた。
同じ位の力がぶつかり合ったため、暴発したのだ。
幽香も俺も、互いに疲労困憊でこれ以上続けるのは少々無理があった。
彩「今・・回は・・・引き分け・・・か?」
息も絶え絶えに言う。
幽香「そ、そう・・ね、今日はもう・・・やめましょう」
幽香もそれに賛成なようだ。
そうと決まれば、さっさと神社に戻ろう。
疲れた・・・霊夢のお茶が飲みたい。
彩「じゃ、またな」
幽香「ええ、また」
幽香に別れを告げ、神社へ帰った。
その日の夜・・・
風呂から上がって、自分の部屋に戻ると布団の上に咲姫と舞花が座っていた。
二人とも俯いていて表情が見えない。
不意に舞花が口を開いた。
舞花「私達、何のためにいるのかな?」
声が震えていた。
おそらく、昼間何も出来なかったことで落ち込んでいるのだろう。
あれは、仕方ないと思う。
幽香に立ち向かう事が出来る奴がここにどれだけいるだろうか。
だから、別に気にしなくてもいいのだが・・・
咲姫「今回、私達は何も出来ませんでした。相手の迫力に呑まれ、ただ、下がることしか出来ませんでした。」
二人の頬を雫が伝う。
舞花からは嗚咽が聞こえてきた。
咲姫は嗚咽をかみ殺しているのが分かる。
俺は黙って聞いていた。
咲姫・舞花「「彩人さま・・・」」
二人の声が重なると同時に初めて顔を上げた。
二人は捨てられた子犬のような瞳をしたまま・・・
咲姫・舞花「「私達は、貴方の傍にいてもいいのですか?」」
震えた声で、勇気を振り絞って紡ぎ出した問い。
俺のためにここまで悩んで、苦しんで、自分自身を追い詰めて・・・
ああ、本当に愛しい奴らだ・・・
俺は二人に近づき優しく抱きしめる。
二人の体がビクッと震えるがそれも一瞬。
彩「ごめんな、苦しかっただろ?辛かっただろ?でも安心しろ、咲姫も舞花もここに・・俺の傍に居ていいんだよ。いや、違う・・・俺の傍に居てくれ」
俺のために思い悩んで、それでも自分の隣に居ていいのか?と聞いてくれた少女達
俺は今最高に幸せだ。
だから、この愛しい少女達を優しくだけどしっかりと抱きしめる。
絶対に離さないように。
二人は堰を切ったように泣き出した。
俺は二人が泣き疲れて眠るまで、頭を撫で続けた。
幻想郷に紅い霧が蔓延し始めていた。
ここまでが序章です。
次回からいよいよ紅霧異変に入ります。
やっとか・・・長かったな。
その前に、キャラ設定書くかも。
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