妖怪の山へ行こう!
目の前には、外見的に自分よりも2,3歳年下の少女が夕日を背に仁王立ちしている。
?「彩人よ、無事に帰りたくばこのわしを倒してみせよ」
まだ発育途中の胸を張って尊大な態度をとる少女。
どうしてこうなった?
話は少し前まで遡る。
side~彩人~
人里の一件から3日ほど日が経った。
朝食を作りながら、今日の修行について考える。
彩「今日も剣術の稽古かな。あれなら、霊力・魔力を総合的に鍛えられるし何より接近戦は能力が使いやすいからな」
霊力で身体を強化しつつ、時折魔力で作った弾幕を混ぜながら咲姫、あるいは舞花と仕合をする。
二人はかなりの実力を持っていた。始めに二人に仕合をしてもらったのだが、霊力で強化しないと目で追いきれない速度で斬り合っていた。
正直、この二人に追いつける気がしない。(剣術的な意味で)
二人の指導が良かったのか、もともと才能があったのか、3日でかなり形になってきたようだ。
かなり手を抜いている状態の二人と切り結ぶくらいまでは上達した。
ちなみに、いきなり二刀流は厳しいとの事で基礎である一刀流から始めた。
咲姫を使うときは舞花が、舞花を使うときは咲姫が相手をする。
ついでに剣術用スペルも2枚作った。
舞花「彩人様、ご飯炊けたよ~」
咲姫「魚も焼けましたよ~」
彩「じゃあ、ご飯をお椀に盛って、魚は皿に大根おろしと一緒に装って」
二人は、「は~い」と返事をしてそれぞれ動く。
今は二人に料理を教えている。
二人が自分の料理を初めて食べた時、とても感動したようで料理を教えて欲しいと言ってきた。
別に断る理由も無いので、快く了承しそれから料理を作る際は毎回手伝うことにした。
霊夢も自分の負担が減ると言うことで大賛成だった。
出来た料理を居間へと運び、霊夢を起こしに行く。
全員そろったとこで、いただきます、と合掌し朝食を食べ始めた。
霊「それで、今日はどうするつもりなのよ?」
霊夢が味噌汁を飲みながら訊いてくる。
彩「今日はそうだな、午前中は剣術の稽古、午後は山に出かけようと思う」
霊「そう、妖怪の山に行くなら天狗には気を付けなさい。あんた達なら大丈夫だろうけど、見つかると面倒よ?」
そう言って、食事に戻った。
彩「そうなのか?わかった、気をつけるよ」
そんな会話を朝食時にしていた。
午前の修行を終え昼食を食べた俺と姉妹は、妖怪の山の麓まで来ていた。
ここが妖怪の山か、なんだかそれなりに強い妖力を感じる。
咲姫「なにやら、山の中が騒がしいですね。どうします?」
咲姫が言うように、七合目に近いあたりで妖怪たちが騒いでいるようだ。
彩「それじゃ、見つからないように気配を消して頂上まで行ってみようか」
そう言って、三人は歩き出した。
歩き始めて約二時間、どうにか見つからずに頂上まで来れた。
しかし、道中はなにやら天狗と思われる妖怪が誰かを探しているようだった。
おかげで、結構時間が掛かった。
舞花「うわ~、いい眺めだね~。あっ、あれ人里だよ!」
そう言って、舞花がはしゃぐ。
確かに山の頂上から見下ろす幻想郷は絶景だった。
緑の絨毯と表現してもいい雄大な自然、その中で必死に生きる動物達。
あの日、夢で見た光景が今は眼下に広がっている。
彩「綺麗だな、すごく綺麗だ」
思わず、そんなことを呟いた。
?「そうじゃろ?ここの景色は幻想郷の中でも上位に入るほどの絶景なのじゃ」
俺でも、咲姫達でも無い声が響く。
咲姫達は刀に手をかけ、戦闘態勢をとる。
俺は、構えもせず声の主がいる方を向いた。
?「人間が付喪神とはいえ妖怪を従えて、バタバタしているとはいえ天狗たちの目を掻い潜り、山の頂上まで登ってこれるとはのう」
そこには、艶のある肩くらいで切り揃えた黒髪が特徴の美少女が木の枝の上に座っていた。
おそらく天狗であろう少女、-背中から立派な翼が生えている-はこちらを見て愉快そうに笑った。
咲姫が戦闘態勢のまま叫ぶ。
咲姫「あなたは何者ですか?危害を加えるつもりなら容赦はしません」
咲姫と舞花は今にも斬りかかる勢いだ。
それを手で制して、二人の前に出る。
彩「いきなり喧嘩腰になってしまって悪かった。俺は、彩人。こっちは咲姫と舞花だ。君は天狗・・・だよな?」
とりあえず、いきなり戦う事になるのは避けたかったので自己紹介と詫びをする。
その態度に少女は目を丸くし、また愉快そうに笑った後、こちらの質問に答えた。
凪「お主なかなか面白い奴だな。いかにも、私は全ての天狗のトップにして天狗の里の長、天魔の孫娘、涼風凪じゃ」
その威風堂々とした態度は、なるほど、上に立つものの風格が見え隠れしていた。
彩「凪か、いい名前だな。それで?俺達に何か用かな?」
名前を褒められたことがうれしかったのかフフンと自慢げに笑う。
凪「いや何、ここで日ごろのストレスを発散していたところに付喪神を従えた人間が来たものだからな、つい話しかけてしまったのじゃ」
どうやら、敵意は無いようだ。二人も戦闘態勢を解除する。
彩「そうなのか。ここであったのも何かの縁だし、一緒にお茶でもどうだ?」
そういいながら、外から持ってきたシートを広げ作ってきた団子とお茶を用意する。
凪はますます愉快げに笑い、下に降りてきた。
凪「本当にお主は面白い奴じゃな、せっかくじゃし頂こうかの」
こうして、人間と付喪神と天狗のお茶会が始まった。
そのころ、天狗の里では・・・
天狗1「凪様は見つかったかっ!?」
天狗2「どこにもいませんっ!!もしかしたら、里にはすでにいないのでは?」
天狗3「えぇぇぇい!いったいどこに行ってしまわれたのか?」
凪が居なくなったことで上層部の天狗は焦り、大規模な捜索が行われていた。
とばっちりを受けたのは、哨戒任務を主とする白狼天狗と機動力に優れる鴉天狗たちである。
?「まったく、凪様もうちの上司たちも困ったものですね~。とばっちりを受けるのはこっちなのに」
そう文句を言うのは、黒い翼を持つ鴉天狗の少女だ。
?「まったくですね、凪様ももう少し自重して欲しいです」
それに同意するのは白い狼の耳と尻尾を持つ白狼天狗の少女。
二人は同時にため息を吐き、凪の捜索を開始する。
?「仕方ないですね、さっさと見つけて取材に戻りますか。行きますよ椛」
そう言って空へと飛び立つ鴉天狗の少女。
椛「あ、待ってくださいよ~。文様~」
椛と呼ばれた白狼天狗の少女はあわてて後を追いかける。
そんなことは露知らず、4人はお茶を啜りながら、雑談をしたり凪の愚痴を聞いたりしていた。
凪「それでな、大天狗は酷いんじゃ。何かにつけて『あなたはこの里の長となるのだから・・・』とか言うんじゃよ~」
彩「うんうん、それは大変だね~」
どうやらこの少女、日々の窮屈な日常に嫌気が差し、時折脱走してはここに来ているらしい。
凪の祖父にあたる天魔は厳しくも話が通じるようで、ある程度のことには目を瞑っているらしいがそれは大天狗の責任になるため彼らは気が気でない。
凪「分かってくれるかっ!!お主はいい奴じゃの~」
そう言いながら、肩を組んでくる。
凪は団子を一口食べ、顔を綻ばせた。
凪「しかし、この団子はうまいの~、本当にお主が作ったのか?」
どうやら、気に入ってくれたらしい。
やっぱり、喜んで食べてもらえると作ったほうとしては嬉しいものだ。
彩「たくさん作ったから、お土産に持っていくか?」
凪「ぜひ頼む」
そんな話をしていると咲姫が棘のある声で、
咲姫「ちょっと凪、彩人様にくっつき過ぎよ!」
と言ってきた。
凪「む?別に良いではないか。何か問題でもあるのか?」
それに舞花が、
舞花「アハハ、お姉ちゃん焼きもち妬いてる~」
咲姫「なっっっ!?///]
咲姫の顔が赤く染まる。
凪「お主は随分好かれておるようじゃの~」
凪がこちらを悪戯っ子のような目で見てくる。
彩「そりゃ、家族だし。こいつらが嫌がる様な事をする趣味は無いから当然だろ?」
何をこいつは当たり前のことを言っているんだ?
その反応が面白く無かったのか、若干不満げに、
凪「つまらん反応じゃの~、わしは咲姫のような反応を期待してたんじゃが」
ぶー、とでも聞こえてきそうな感じで頬を膨らます。
そんな事言っても事実だしな~。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、太陽は西に傾いていた。
彩「さて、いい時間だし、そろそろ帰るか」
早く帰って夕飯の仕度をしないと霊夢に怒られる。
凪「ぬ?もう帰るのか?まだいいではないか」
凪が上目遣いで引き止めてくる。
正直グッとくるがまだ死にたくないのでやんわりと断る。
彩「いや、家の家主が恐いからさ今日は帰るよ。凪もじいちゃんとか心配してると思うから早く帰ったほうがいいよ」
できるだけ相手の機嫌を損ねないように説得する。
凪「それはそうじゃが、わしはまだお主と一緒に居たいんじゃ」
多分深い意味は無いよね、そうだと信じたい。
あぁ、後ろの咲姫と舞花から黒いオーラが出ているような気がする。
彩「また、遊びに来るからさ。今日のところは帰ろう、な?」
凪は俯いている。
俯いたまま凪がとんでもないことを言いだした。
凪「ならば、わしと勝負してわしが勝ったら一緒に居てくれるな?」
・
・
・
は?どうしてそういう話になった?
そして冒頭に戻る。
凪「ルールはどちらか一方が被弾したら負け、簡単じゃろ?」
凪「さあ、どこからでも掛かって来るがいい」
自信満々に仁王立ちしている凪。
彩「いやいや、なんで戦う話になっているんだよ」
まったく訳がわからない。
頭を抱えていると、凪が当然だ、とでも言うように、
凪「簡単なことじゃ、わしはお主と一緒に居たい、お主達は帰りたい。どちらも引かないならば、これはもう戦って敗者が勝者の言う事を聞く方が手っ取り早いし、両方納得できる」
なるほど、一理あるな。
その理由に納得していると、痺れを切らした凪が、
凪「こないのならばこちらから行くぞ!!」
弾幕を展開してきた。しかも、一つ一つが早い。
彩「しょうがないな、咲姫!舞花!」
俺が呼ぶと、両手に刀が出現した。
迫りくる弾幕を最小限の動きで避け、或いは斬り伏せる。
二刀流で戦うのは初めてだが、やるしかない。
凪「なかなかやりおるな、ならこれはどうじゃ?」
そう言って懐からスペカを取り出す。
凪「風刺『風針連華』」
凪を中心に4つの花が現れる。
目を凝らすと、無数の針状の弾幕で花の形を作っており、一本一本が竜巻を纏っている。
それが自分目掛けて射出される。
竜巻を纏っているため、いわゆるジャイロ回転になっているので速度と貫通力が桁違いに上がって、岩なんかやすやすと貫いて来る。
あんなのまともに食らえば蜂の巣確定だろう。
なのでこちらもスペルを唱える。
彩「月花『月明かりの道標』」
これはルーミアと一緒に作ったスペルで、俺の能力を利用して弾幕の流れを読み、安全地帯を一瞬で割り出す回避重視のスペルだ。
自分が通った後は弾幕が出現して相手に向かって飛んでいく。攻撃も忘れてないよ。
避けきられたのが意外だったのか少々驚いている。
凪「けっこう本気のスペルだったんじゃが、掠りもしないのはちとショックだの~」
そう言いながらも顔は楽しそうに笑っている。
こちらとしては、あまり時間が無いので一気にケリをつける。
凪「ではでは、お次はこれじゃ」
そう言ってスペルを唱えようとしたところを遮って、
彩「悪いが急いでいるんでね、次は無い!」
スペルを同時に2枚発動させる。
彩「流星『スターダスト・レイン』、狂咲『桜花爛漫』」
凪の周囲に無数の桜の花びらが展開し動きを止め、空から星が降ってきて凪に次々と襲い掛かる。
今回はピンポイントで発動させたため範囲は凪の半径2メートル程度だ。
もちろん、攻撃力は極限まで下げた。多分、でこピンくらいの威力だろう。
凪「はっ?えっ?きゃあああああああああああああああ!」
次々と被弾していく。
威力を下げておいたから霊力も魔力も減ってないけど、2枚同時使用は疲れるな。
スペルが終了し、凪の姿が見えた。
彩「俺の勝ちだな?」
凪のところまで近づき確認する。
凪「あんな反則気味のスペルを2枚同時に使うなんて・・・彩人は意地悪じゃな」
少し涙目になりながら拗ねた風に凪が言う。
確かに、周囲は桜の花びらで上から星が降ってくればまず逃げ道は無い。
魔理沙のマスタースパークと同じ位の火力が無いとまず回避できないだろう。
普通に二枚同時に使ったら、霊力・魔力不足で倒れるだろうけどね。
俺は凪の頭を撫でながら、
彩「また、遊びに来るから。今度は、団子の他にもおいしい物を作ってきてあげるからさ・・・」
それじゃダメかな?、と凪に問いかけた。
凪「わしは負けたんじゃ、今更止めはせん。じゃがな、約束じゃぞ。必ずまた遊びに来るんじゃぞ。団子とかも忘れるな!」
しぶしぶだが、帰らせてくれるようだ。
これは、約束を守らなかったら後が恐いな。
そんな事を思いながら帰路に立つ。
彩「それじゃ、またな凪」
大きく手を振って博麗神社に向けて飛んだ。
その途中・・・
彩「なぁ、何で二人とも腕を絡ませてくるんだ?飛びづらいんだけど」
何故か二人は、俺の腕に自分の腕を絡ませて胸を押し付けるように抱きついてくる。
意外とあるんだな・・・。
そう思ってしまうのは悲しい男の性か。
咲姫「何でもないです」
舞花「何でもないよ~」
理由を聞いてもはぐらかされてしまい、結局神社に着くまで二人は腕を絡ませたままだった。
side~凪~
不思議な人間だった。
そして面白い。
妖怪、それも天魔の孫娘と聞いても態度が変わらず、まるで友達に話しかけるような気軽さで自分と接した人間。
まさか、お茶に誘われるとは思わなかった。
初対面の妖怪をお茶に誘うなんて、つくづく面白い。
しかし、せっかくの誘いなのでご馳走になった。
中でもあの団子は絶品だったな。
団子は、柔らかくも独特の弾力があり、ほのかに甘い。
その上品な甘さを損なわないように味付けされた醤油だれ。
お土産にと、20本程もらったので後でお爺様にも差し上げよう。
それに奴と話していると不思議と心が落ち着いた。
なんというか、安心できるというか、和むというか、多分どっちもだろう。
今思えば、この時から奴、彩人に惹かれていたのかも知れない。
通りで、あの姉妹からの視線が厳しかった訳だ。
凪「クスクス、次会うときが楽しみじゃ」
思わず、顔がにやける。
今の顔を大天狗が見たらきっとお小言が始まるだろうな。
?「やっと見つけましたよ~、探すこっちの身にもなってください」
鴉天狗の少女が空から降りてくる。
凪「む?文か。それならば、わしの待遇改善を大天狗に要求してくれ」
文と呼ばれた少女はため息を吐きながら、
文「大いなる権力の前に私が何を出来るって言うんですか?」
至極まっとうな事を言う。
?「はぁ、はぁ、やっと追いついた」
今度は狼の耳と尻尾がついている少女が降りてきた。
凪「おお、椛も一緒だったんじゃな」
何とか息を整えた椛は文句を言ってきた。
椛「まったく探すこっちの身にもなってください。いつも、とばっちりを受けるのは私たちなんですから~」
と、若干涙目になっている。
凪「すまん、すまん。ほら、これをやるから機嫌を直してはくれぬか?」
そう言って、彩人特製の団子を二人に手渡す。
しかし、団子を訝しげに見つめるだけで、口をつけようとはしない。
文「この団子、どうしたんですか?」
どうやら何故団子を持ってるかが気になったらしい。
凪「いやな、頂上まで登ってきた人間と付喪神にお茶に誘われてなお土産にもらったのじゃ」
それを聞いて、二人は目を丸くして驚いた。
椛「えっ?いつ侵入されてたんだろ?」
文「天魔の孫娘と普通にお茶ができる人間・・・これは、スクープの予感ですね!」
しかし、反応は正反対で椛は焦り、文は目を爛々と光らせている。
凪「とにかく、食べてみるのじゃ。絶品じゃぞ」
二人はそれぞれ団子を口に入れると顔が綻んだ。
凪「どうじゃ?美味いじゃろ?」
椛「おいしいです!今日の疲れなんて吹っ飛んじゃいました!」
椛は千切れんばかりに尻尾を振っている。
文「確かに、これほどのお団子は始めて食べました」
文も驚いているようだ。
その反応に満足し、
凪「さ、そろそろ帰るかの。文、椛、いつまでも余韻に浸っていないで帰るんじゃ」
二人を置いて空へと舞い上がる。
文「あっ!待ってくださいよ~」
椛「置いてかないで下さい~」
二人はあわてて追いかける。
凪「(次はいつ会えるかの~♪)」
少女は、興奮を抑えられない子供のように空を翔けて帰っていった。
感想・誤字訂正待ってます。