サンタを演じている
この雑多な国で生まれたからには、いつかは誰もが直面する疑問。
――サンタクロースは実在するか。
結論から言ってしまえば、俺にとってはサンタクロースがいるかなんて、どうでもよかった。
ただ、もしもサンタクロースがいたとしたら、そいつがとんだ差別野郎だという事は良く知っている。
テレビのニュースに流れる少年少女にはプレゼントなんて渡さないくせに、でっぷりと肥えたクソガキにはテレビゲームを渡していくのだ。
まったく、嫌なシステムだ。
ついでに言うなら、一年で一度しか仕事をしないくせに、子供の人気者というのも気に食わない。それなら毎日ゴミ拾いをしている近所のオジサンの方が、何倍も素晴らしいと思う。
結局、人間なんてものは自分にとって都合の良い方ばかりに目がいくものだ。
商店街ではクリスマスセールに全力を費やし、ご家庭では子供のプレゼントで悩み、恋人達にとってはどこでどう過ごすかが重要なのだろう。
別に悪いって言っているわけじゃない。経済効果大、家族仲を取り持つイベント、二人の想い出、どれもこれも重要だ。――ただ、俺が嫌なだけ。
何故って? 嘘っぽいから。
……子供の頃に、幼稚園や保育園に通ってた人なら分かると思うが、俺が通っていた保育園でもクリスマスパーティというものがあった。
ひねくれたガキであった俺は、サンタクロースなる真っ赤な服を着た奇妙なロリペドショタ野郎が何の理由もなくプレゼントを撒き散らす事に、当然疑問を抱いていたワケだ。
でも、そのパーティでクソガキは救われた。
何故って? サンタの正体が分かったからさ!
真っ白いヒゲに、白と赤の帽子で誤魔化していたその御仁。
それは良く知っている人だった。
近所でよくゴミ拾いをしているオジサン。
その人が『やあ、やあ、皆、良いコにしていたかな?』と太く柔らかい声で話しながら、大きくて白い袋を持って、のっしのっし、と歩いてくる。
――ああ、この人ならサンタでいいや。
ひねくれていても、やはり純真な心をもっていた少年の俺は、自分が素晴らしいと思っていた大人がサンタクロースであることに救われたのだ。
そしてその日、そのパーティの後に俺は絶望する。
何故って? サンタの正体が分かったからさ!
パーティ後のお昼寝の時間。
あまりの嬉しさに寝付けなかった俺は、先生と遊んでもらおうと職員室に向かった。
そこにはサンタのオジサンと園長先生がニコヤカに話をしていた。
『いやー、子供達は大喜びですよ。少ないですけど、色をつけて振り込んでおきますから、また来年もよろしくお願いしますよ』
『こちらこそよろしくお願いしますよ、園長先生。それにしてもプレゼント、大変ですね、今の子達は大抵のものじゃ喜ばない』
『いやまったく。保護者の方から多少お金を集めて、ようやく喜んでもらえる状況なんですよ。私達の頃は菓子で十分に嬉しかったものですけれど……』
サンタの正体。それは給料を貰って仕事をするサラリーマンだった。
それから暫くした後、俺は世界が滅びる事を神に懇願する。
何故って? 俺が認めたサンタが、クソッタレだったからさ!
中学に上がった頃、母親が『ねえ知ってる?』と俺に話しかけてきた。
反抗期真っ盛りの俺は、『なに?』とぶっきらぼうに答えたと思う。
『近所のゴミ拾いオジサン、逮捕されたんですって!』
『はっ!? なんでよ?』
『それがね、少女売春、援助交際ですって。かれこれ10年近くやっていたらしいわよ。人は見かけによらないってホント! 恐いわよねー。買う方も買う方なら、売る方も売る方よねー』
俺の保育園に来たときのあのお金。サンタを演じて、夢を与える仕事をして得たお金。あのお金で少女を買ったのだろうか。もしそうだとしたら、あのお金は少女の何を満たす事に繋がったのだろうか。
そして大学に進学した俺は生活費のため、サンタの格好をしてアルバイトをしている。
最近出来た彼女をテーマパークに連れて行くためでもあった。
『好きな人が出来たら一緒にテーマパークに行きたかったの』という彼女。
入園料は割り勘だが、中で使うお金は自分が出して、甲斐性を見せてやりたいと思う俺。
雑踏のざわめきの中で、客を呼び込んでいる時、ふと思ってしまう。
――誰もが皆、サンタを演じている。
女を買うために、サンタの格好をしたあのオジサン。
夢を叶えるために大学にいき、生活するためにサンタの格好をする俺。
やっている事は一緒だ。
そこに貴賎や価値観がまとわりつくとはいえ、自分の望みのためにサンタになる。
――夢って、お金になるんですよ。
最近、大学の教授に言われたことだ。将来の夢を叶えようと思ったら、勉強する。本を買うにしても、学校に行くにしても、お金がかかる。夢を与えるテーマパークにしても、お金になる。夢は夢であるから簡単には諦められない。とてもお金がかかる。逆を言えば、お金が動く。
「あっ! サンタさんだー!」
少女が俺を指差して、お母さんだろう女性の服の裾を引っ張る。
その少女に微笑みながら手を振り返す、似非サンタ。
この少女は、俺が時給幾らで雇われているなんて知らないだろうし、考えもしないだろう。
そしてそのまま大人になって、サンタのアルバイトを俺と似た時給でするかもしれない。そしてサンタを演じて、また別の子供に喜びを与えていくのだろう。
……それが悪いとは言わないさ。正当な労働に対する、正当な報酬を貰って何が悪いというのだ。オマケに小さな女の子に喜びを与えられる、最高のアルバイトじゃないか。
……ただ何故か、その喜びがお金で売り買い出来てしまうのが寂しいと思っただけ。
俺は善人でないから、無償でサンタクロースになりたいなんて思わないだろう。
だから『喜びを与えられる』なんてのは本当にオマケ。アルバイトの副産物。アルバイトがなければ、絶対に無かった喜び。時給が悪かったら絶対になかった喜びだ。
……そして夢を買うために、夢が夢でなくなっていくのが少しさびしかった。
それから俺はイヴもバイトに入り、次の日、彼女と泊まりで遊びに行った。
テーマパークにもサンタクロースがいた。
時給幾らだろうと思ってしまった自分。
それでも、その日のデートはとても楽しかった。
きっと、来年もサンタクロースを演じるだろう。
何故って? 時給がいいから。




