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第三章 「予言」

 ザドウィル王国。それはゼンロ大陸の東に位置する南北二つの島からなる島国で、数十年前建国されたばかりの新しい王国である。それは、現国王の名前が、そのまま国の名前になっていることからも察せられる。要するに、今の国王が初代なのである。

 南の島は平民の居住区、北の島はまるまる一つが王城という特殊な地形の国である。北の島「レイクエント城」は、世界で最も巨大な城の為、テルフ同盟の会議は基本的にここで行われる。

 ちなみに、ゼンロ大陸から見てエンリアル王国はザドウィル王国のさらに東側に位置している。

 そのためエンリアルへと向かうトランプ一行は中継地点としてこのザドウィル王国に立ち寄る事となった。


―レイクエント城西の港―

 「ふぅ~。やっとあの恐ろしい船酔いともおさらばですね。ホントに参りましたよ、今回ばかりは。」そう言って久々の揺れない地面を満喫するアトル。海を振り返ると、船が出る前と同じく青く美しかったが、今のアトルにとっては恐ろしくさえ映った。

 「そんなお前に言って置くが、ゼンロからここまでの距離よりも、ここからエンリアルへの距離の方が数倍長いぞ。」アトルができるだけ考えない様にしていたことをズバリ指摘するゼッタ。

 「・・・今はその事は考えたくないです。」辛そうな声で言うアトル。船酔いから解放されたとは言ってもまだ全快ではない。その証拠に、彼の顔はまだ青ざめている。

 「全く、情けないぞアトル。そんなことで来るアルカナとの戦いに勝ち残れるとは思わないことだ。」と厳しい事を言うのはカーラだ。どうやらある程度調子は戻ってきたみたいだ。

 「そんなこと言われましても・・・」船酔いは馴れの問題だから、気力やなんかで何とかなるものではない。もしかしたら、カーラはこの前部屋から追い出したのをまだ根に持っているのかもしれない。

 「それにしても・・・」ゼッタが海の反対側を振り返って、呟く様に感嘆の声を上げる。

 「これが噂に聞く世界最大の城、レイクエント城か。」

 アトルも振り返って見る。確かに壮大だった。目の前には高さ数十メートルの灰色の堅牢な城壁がそびえ立ち、その中央には観音開きの巨大な城門が見える。

 左右に目を向けるとその城壁が延々とどこまでも続いていて、終わりがまったく解らない。上に目をやれば数え切れないとてつもなく高い塔が並ぶのが見える。

 どこをとっても今まで見たことのあるどの城よりも巨大だった。話によれば、この城を建造するために、ザドウィル王国の殆どの国民が自主的に協力したのだというから、この国の結束の堅さが窺える。

 「それでは、トランプの皆様。」ここで、召し使いの少年が三人の注意を引く。「これから、国王陛下の部屋へとご案内させていただきます。」召し使いはそう言ってついて来るように促し、城門へと誘導した。

 「なんだ、ここから直接東の港に行くのでは無いのか?」カーラが召し使いに尋ねた。確か、当初の予定ではそうなっていたはずだ。

 「国王陛下が、折角の異国からの客人を、挨拶もせずに行かせてしまうのは失礼だから、せめて少しでいいからあなたがたとお話がしたいとおっしゃるものですから。」召し使いが答えた。

 「ですが、我々は早くエンリアルに行かないと・・・」アトルは焦ったように言う。エンリアルでは既に幾つもの村が被害に遭っているのだ。できるだけ早く行かなければ、また犠牲が増えてしまう。

 「しかし、国王直々の申し出を断る訳には行かんだろう。」ゼッタは仕方なさそうに言った。「それに、やつらが村を襲う周期から考えれば一分一秒を争う、という程の状況ではないようだしな。」

 アトルもそれで承知したらしく、そのあとは何も言わなくなった。

 そして、一行はレイクエント城へと入った。


 レイクエント城内部には、いくつもの中庭があり、昼の間は、その中庭から差し込む太陽光を随所に設置してある鏡に反射させることで建物内の明かりを得ているようで、奥まった部屋の中でも思いの外明るいようだ。

 鏡を置く位置や向きの精密さを考えれば設置するのはかなり大変だっただろうが、設置が済んでしまえば、かなりエコノミーなシステムである。

 特に、太陽光を噴水の水に反射させる技法は中々のものだった。噴水からの光は水の流れに合わせて揺れるため、幻想的で見飽きることがない。

 しかし、噴水そのものは何で動かしているのだろうか。

 しばらく歩いた後、一行はある木製の扉の前で立ち止まった。国王の部屋はおそらく城の中心にあるだろうから、城の大きさを考慮すればまだここが国王の部屋という訳では無いはずだ。

 少ししてその扉が開くと、中にあったのは飾りっ気のない小さな部屋だった。召し使いに中へ入るように言われた時は、ここでなにをするつもりなのだろうとトランプはいかぶったが、その答えはすぐに分かることとなる。

 「それでは皆様、少し揺れますのでご注意ください。」トランプが中に入り終わった後、召し使いが忠告する。

 「揺れる?一体どういうこと・・・」アトルが言い終わる前に、召し使いは部屋の奥にあるレバーを下に降ろす。

 すると、突然部屋が大きく揺れた。揺れは数秒の間続いたがその後は軽く足元が振動する様な感覚になる。

 「隊長、一体これは・・・?」アトルは反射的にカーラに聞いた。普段の癖でまずカーラに聞いてしまったが、流石に彼女でも初めてきた国のことなど分かる訳無いだろう、

 そう思っていたら・・・

 「これは、横向きのエレベーターのようだな。本物は初めて見たが・・・」カーラはあっさり答えて見せた。しかしスピルナはもちろん殆どの国ではエレベーターなど存在しないため、アトルにはカーラの言っていることが全く解らない。

 「すいません隊長、エレベーターってなんですか?」アトルがカーラに説明を求める。

 「要するに、この部屋丸ごと我々を運んでいるのだ。」カーラはそんなことも知らないのか、とでもいうような声で説明する。やはり最近のカーラはどこかツンツンしている。

 「しかし動力がわからんな。一体このエレベーターは何の力で動かしているのだ?」今度はカーラが召し使いに質問する。

 「海中に設置してあります巨大な水車でございます。」召し使いが答える。「この島の海中にある横穴に常に流れ込む特殊な海流で水車を回し、その回転エネルギーでベルトを引っ張り、それで滑車のついたこの部屋を引っ張っているのです。また、中庭にある噴水も、この回転エネルギーを利用して動かします。」

 「ん~・・・」アトルは分かったような分かってないようなだったが、要は城が広くて歩いて中心まで行くのはとてつもなく大変なので、こうして部屋ごと外部からの力で運んでしまおうということのようだ。

 「成程、海流か。中々面白い事を考えたものだ。島国ならではの発想だな。内陸国のスピルナでは思いつけない動力源、というわけだ。」とカーラ。何気に上から目線なのが気になるが、そこは触れない方がいいだろう。

 「でも、スピルナにもこんなのがあればいろいろと楽でしょうね。」アトルはうらやましそうに言った。「でも、そしたら何のエネルギーで動かすことになるんでしょうか。」

 「そんなに言うなら、アトルが自分で動かせばいいだろう。」ゼッタが冗談混じりに言う。

 「・・・そ、それはさすがに困ります。」何人もの人が入った部屋を一人で動かすなど、想像するだけで恐ろしい。

 それから少しして、エレベーターはまた大きく振動して止まった。


 エレベーターを出ると、そこはさっきいた回廊よりもさらに数段豪華な回廊であった。回廊の端に整然と並ぶ名の有る彫刻家が彫ったと思しき彫刻の数々は、明らかに国王の間が近づいていることを物語っている。

 さらにそこをしばらく進むと、樫の樹でできた重厚な門が行く手に現れる。門の脇には完全装備のいかにも屈強そうな衛兵が構えている。そして、門そのものに施されている執拗とも言える様々な飾り付け。

 今度はアトルもカーラに聞く必要は無かった。

 「ここが我等が国王、ザドウィル陛下の謁見室でございます。」召し使いは説明したのち、右側の衛兵になにやら指示する。

 すると、衛兵は頷いて、右手に持つ柄の長い矛の石突を地面に当てて大きな音を立てる。

 どうやらそれが扉を開けるための合図だったらしく、数秒後、門は軋み音を上げて内側に開いた。


 門の内側にあったのは、だだっ広い部屋であった。

 しかし予想に反し、彫刻などの装飾品のない簡素な部屋であった。

 どうやら玉座は部屋の一番奥にあるようで、トランプはそこまで歩いて行った。

 果たしてそこには、玉座があった。

 そこに座るザドウィル王は、思いの外若かった。多めに見て三十といったところか。紺色の瞳が特徴的である。

 そして玉座の左側には一人の女性が立っていた。服はザドウィルの物と違って質素で飾り気がない。こっちの瞳は明るいブルーだ。歳は大体二十前後という感じだ。トランプの三人には、それが誰なのか解らなかった。もし妃かなにかの貴人であれば、もっと豪華な椅子に座って、もっと豪華な服を着ているはずだ。ならば、彼女は一体誰なのだろう。

 「スピルナ精鋭部隊トランプ、只今到着致しました、ザドウィル国王陛下。」カーラが言い、他の二人とともに国王の前にひざまづく。

 「よしてくれよ、そんな。堅苦しいじゃないか。」ザドウィルは困ったように言った。その反応はとても一国の王の物とは思えなかった。「君達は通りすがりとはいえ立派な客人なんだ。なにもひざまづく事ないだろう。」

 そう言うザドウィルの表情や声からは国王の威厳など微塵も感じなかった。

 「はぁ・・・」あのカーラでさえもこれにはどう対応していいか分からない。

 「とにかく、まずは立ち上がって名乗りなさい。」ザドウィルはもどかしげに言う。

 その言葉に一番に反応したのはアトルだった。

 「僕は、スピルナ公アルデバラン・アルトの息子、トランプ戦闘員アトル・アルトと申します。」

 「トランプ副隊長ゼッタ・ベルク。」次に短く名乗ったのはゼッタであった。

 「カースナグ・ゴートの娘で、トランプ隊長のカーラ・ゴート。」最後に、カーラが名乗る。

 カーラが名乗ったその時、アトルには一瞬ザドウィルの表情が一変したような気がした。しかしそれはほんの少しの間だけで、その後は元の少し頼りなげな人懐っこい表情に戻る。

 「そうか。わたしは知っての通りザドウィル王国の国王、ザドウィル・オケアノスだ。最も、見ての通り国王などわたしごときには過ぎた大役だがね。」ザドウィルは苦笑しながら言う。どこかおおらかな所のある人当たりの良さそうな人だった。そして、左の女性を指して続ける。

 「それと、紹介するよ。彼女は、わたしの姪で、我が国の巫女でもあるクリヤだ。控えめな性格だが、よろしくたのむよ。」

 クリヤと呼ばれたその女性は丁寧にお辞儀をした。三人もつられる様にお辞儀を返す。

 「本当はもっと贅沢できるような立場なんだが、この国には巫女は質素でなければいけないという掟があるんだ。最も、クリヤはもともとそういうことには興味がないみたいだがね。」ザドウィルが説明した。

 口数が少ないのも、巫女だからだろうかとトランプの面々は推測した。巫女というのも、スピルナには無い文化である。

 「それで、君達はこれからエンリアルに向かう途中だそうだな。」ザドウィルが話を進める。

 「はい。ご存知の通り、エンリアルにいる賊の討伐に赴く途中でございます。」ゼッタが返答する。実際、ザドウィル自身もテルフ同盟の会議には毎回参加しているのだから、知っていて当然である。

 「そうか。」それでもザドウィルはまるでそれが初耳であるかのように反応した。おそらくはトランプと打ち解けるための軽い話題、という事だったのだろう。

 「既にエンリアルの村が幾つも全滅の被害に遭っているそうだが、早く解決することを願っているよ。ところで、ここにはどれくらい滞在する予定なんだい?」

 「それは・・・」カーラは少し言いづらそうに言う。「折角ですが、エンリアルに現状を考えると、できるだけ早く行くのが妥当かと。」

 「ああ、すまない。少し意地悪な質問をしてしまったね。気を悪くしないでくれ。君達としては今すぐにでも行きたい所だろうね。無論、無理に引き留めるつもりがある訳じゃない。」ザドウィルは慌てて謝る。

 「ですが、一つだけお願いがあるのですが、よろしいでしょうか。」ふと思いついて、アトルが切り出す。カーラとゼッタも何を言うつもりかとアトルに注目する。

 「一つといわず、いくつでも言ってみなさい。」ザドウィルはいかにも役に立てて嬉しいと言うように急かす。

 「エンリアルの賊に関して、陛下の意見を聞きたいと存じます。」アトルが言った。

 その言葉に後の二人も納得した。

 「ふむ・・・望むならいくらでも力を貸すが、部外者のわたしの意見など当てにできないと思うぞ。」ザドウィルは少し困ったように答える。

 「だからこそ、第三者であるザドウィル陛下のお考えを伺いたいのです。それに陛下はトランプ派遣を決議した同盟会議の時その場にいらしたのですから、何か気付いたことがあればと思いまして。」とアトル。

 「なるほど・・・」感心したようにザドウィルが言う。「いいだろう。具体的に何が知りたいんだい?」

 「それでは、例の賊の目的については、どう思われますか?」カーラが尋ねた。「現在解っている情報からすると、略奪が目的とは私には到底思えないのですが。」

 カーラは賊の正体がアルカナであることはあえて口にしなかった。同じテルフ同盟加盟国とはいっても、所詮は他国。スピルナの精鋭部隊が同盟国で襲撃事件を起こしているなどとという事が知れれば、同盟間にどんな歪みが出るか分かったものではない。

 いずれ明かされることになるとしても、今は下手には言わないのが賢明だ。

 「たしかに、聞いた話では、荒らされた村でも物が盗まれた形跡などは無いそうだね。だとすれば、何らかの私怨か、もしくは・・・陽動と言ったところか?」ザドウィルは少し考え込んだ後に意見した。

 「陽動・・・ですか・・・」その言葉にアトルは不意に不安を感じ始める。

 もし、このエンリアルでの事件が、アルカナがトランプをおびき出すために仕組んだ罠だとしたら・・・。実際、アルカナの全員がエンリアルにいるという保障はどこにもない。

 もしこれが陽動だとしたら、その最終目的は間違いなくトランプのいない隙をついたスピルナの国家転覆だろう。

 長く続いたスピルナ動乱が終わってやっと平和を取り戻してまだ間もないスピルナで、それだけは絶対にあってはならない。しかし、今スピルナに戻れば、アルカナはさらにエンリアルの村を荒らしつづけるだろう。それもまた絶対に避けたい。

 ならば、どうすれば・・・。

 「アトルさん、何も思い悩むことはありませんよ。」アトルの動揺を察してか次に言葉を発したのは意外にもクリヤだった。その抑揚のない透き通った声を聞いたとき、アトルはどこか心を見透かされたような気持ちがして、多少なりとも悪寒さえ感じた。

 「ですが・・・」アトルは言葉に詰まる。実質的には、スピルナを取るかエンリアルを取るか、と問われているのと同じだ。悩むなと言う方が無理だ。

 「ご心配なさらずとも、彼等は五人ともエンリアルにいますよ。それに、貴方のお父様が五人いるトランプの内三人だけを派遣したのもそのためでしょう?」落ち着き払った声でクリヤが喋った。その顔からは、感情と呼べる物は全て欠如している。

 その言葉に今度はアトルだけでなくトランプ三人とも背筋に悪寒が走った。『ような気持ち』などではなく、本当に心を見透かされている事に気付かされたのだ。普通に考えて、アトルが何に関して悩んでいるのか、ここまで的確に予測できるはずはない。

 そもそも、エンリアルからの報告では、賊は五人でなく四人となっているはずだ。

 それだけでなく、派遣員を三人と決めたのがアルデバラン公であることまで、彼女は的確に言い当てて見せたのだ。

 「よしなさい、クリヤ。」ザドウィルは、先程までの彼からは想像しがたい、静かだが強い口調でクリヤを止める。するとそれを聞いたクリヤはまるで白昼夢から醒めたように突然、顔に表情が戻った。

 「すいません、ザドウィル様。アトルさんが困っているようだったので、つい・・・」クリヤは恥じ入ったように顔を俯ける。

 「済まなかったね、君達。」ザドウィルが今度はトランプに向かって言う。「気にしないでくれ。これは彼女の癖でね、相手を混乱させることになるから、止めるように普段から言ってるんだが・・・」

 「癖、と言うと、クリヤさんは・・・他人の心が読めるのですか?」アトルが尋ねる。

 「いや、厳密には、そうではない。ただ彼女には、『預言者』の力があるのだよ。」ザドウィルが説明する。「簡単に言えば、占いに似た能力だ。まあ、実際はもっとずっと奥深い物なのだが、そのあたりのことを話すときりがないのでね。」

 「『預言者』の力、ですか・・・」アトルはその言葉を反芻する。なぜか、論理的な部分ではなく、自分でも分からない心の奥底が揺さぶられるような感じがした。

 しかし、それはともかくとして、もしクリヤの『預言』という能力によって語られていることが本当なら、アルカナは今五人ともエンリアルにいるということが分かった。それに、たとえそうで無かったとしても、クリヤが指摘したもうひとつの言葉が意味しているのは、アルデバラン公が敢えてトランプを全員派遣しなかったのは、非常時に備えるためだと言うことだ。

 それを考えれば、今自分達が行くべき場所は・・・。

 「それで、彼女の言葉から何か分かったかね?」ザドウィルが聞いてくる。「クリヤの『預言』は、しゃべっている相手にしか分からないように要点だけしか言わないから、わたしにはなんの事を言っているのかさっぱりだが。」

 「あ・・・」アトルはザドウィルのその言葉を聞いて現実に引き戻される。どうやら、気付かない内に大分考え込んでいたらしい。「えぇ、おかげさまで、必要なことは解りました。僕達は、できるだけ早くエンリアルに発たせていただきます。」

 「そうか・・・それはよかった。」ザドウィルはどこか残念そうに言った。「東の港の船の用意は既に済んでいる。いつでもエンリアルに向けて出られるようにさせてあるよ。またエレベーターに乗ることになるから、オルに案内させよう。」

 そう言ってザドウィルは、手を数回叩いて、部屋の外に待たせていた先程の召し使いの少年・オルを呼び出した。

 「それでは、お暇させていただきます。」カーラがそう告げて、三人は頭をさげた。

 「そうだ、もう一つ・・・」トランプの帰り際にザドウィルが呼び止める。「万事済んだ後には、またいつでも来てくれたまえよ。君達とはもっとゆっくり話がしてみたいからな。」

 その言葉に、アトルはもう一度頭を下げた。しかしその実、今のアトルの頭の中は迫る恐ろしき船酔いの予感でいっぱいであった。


四章に続く

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