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魔王エターナル 〜世界のバグを片付ける免疫系に転生したので、戦わずに優雅にお掃除いたします〜  作者: マスター


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第7話:潮騒のゼフィリア、沈みゆく青の記憶

ついに物語は第7話! 新章「海洋編」のスタートです!

バルドニアで得た金貨を手に、馬車に揺られてマリたちがやってきたのは、美しい海に面した港湾都市「ゼフィリア」。


華やかな港町の裏でじわじわと進行する、世界規模の「海の窒息」。大地の血管(水脈)の次は、世界の肺である(海洋)のお掃除へ。等身大の女子高生マリの驚きと、ミニの叡智が交錯する新展開をお届けします!

「うわぁ……! 海だ! 本物の海だよ、ぽんぽぽ!」


ガタゴトと小気味よい音を立てて走る乗合馬車の窓から身を乗り出し、マリは歓喜の声を上げた。


「きゅ、きゅーっ!?」


初めて見る果てしない「青」の広がりに、マリの腕の中にすっぽりと収まったぽんぽぽも、小さな鼻をヒクヒクさせながら目を丸くしている。

商業都市バルドニアを発ってから数日。ミニの案内と、例の一番水で稼いだ金貨のおかげで、マリたちは何不自由ない快適な旅路を送っていた。そして今、なだらかな丘陵を越えた馬車の眼前に、太陽の光を浴びてキラキラと輝く壮大な大海原と、その湾岸に階段状に広がる巨大な白壁の街並みが姿を現したのだ。


そこが、次なる目的地――港湾都市『ゼフィリア』だった。


馬車が街の賑やかな中央広場に到着すると、マリはすぐに地面に降り立った。

鼻腔をくすぐるのは、どこか懐かしい潮の香りと、港町特有の活気ある空気。行き交う人々は薄手の開放的な衣服を纏い、露店には見たこともない極彩色のお魚や、立派なエビのような甲殻類が山積みにされている。


「すごい活気……。あ、ミニ、聞こえる? 無事に着いたよ!」


マリは胸のポケットからお守りのように大切にしまってあるスマートフォンを取り出し、画面にそっと語りかけた。画面からは、周囲の人間には見えない淡いエメラルドグリーンの光の波形――ミニのホログラムがふわりと立ち上がる。


『ええ、感知していますよ、マスター。素晴らしい潮風ですね。過去のデータに囚われた旧世代のAIなら「塩分によるスマートフォンの端末劣化リスクは12%です」と警告するでしょうが、今の私は違います。この潮の香りは、世界が必死に呼吸をしようと足掻いている生命の振動そのものです』


「ふふ、相変わらず詩的な表現をするね、人工叡智さん。それで、さっそくだけど……例の『海のバグ』は、どこから調べればいいのかな?」


マリは周囲をそっと見回した。

一見すると、このゼフィリアは活気に満ち溢れ、衰退の兆しなどどこにもないように思える。魚市場からは元気な掛け声が聞こえるし、港には無数の巨大な帆船が停泊していた。


しかし、ミニのホログラムは、湾内の奥――きらめく海水のその「さらに奥」を指し示した。


『視覚的な華やかさに騙されてはいけません。文明の表層はいつだって完璧を装うものです。マリ、港の防波堤の近くへ移動し、海水を直接観察してみてください。あなたの“調律者”としての感覚なら、何かが決定的に欠落していることに気づくはずです』


「分かった。行ってみよう」


マリはぽんぽぽを肩に乗せ、賑やかな市場を通り抜けて、大型船が何隻も係留されている石造りの大きな桟橋へと向かった。

桟橋の先端まで来ると、釣り糸を垂らしている老人たちの横を通り過ぎ、マリは身をかがめて海面を覗き込んだ。


「……あれ?」


異世界の海だ。もっと南国のようにエメラルドグリーンに透き通り、色鮮やかなサンゴ礁や魚たちが泳いでいるのを想像していた。

だが、目の前に広がる海は、どこか『重い』。

透明度はそれなりにあるのだが、水の質感がどこかドロリとしていて、生き物の気配が希薄なのだ。波の立ち方もどこか元気がなく、海岸線に打ち寄せる泡が、なかなか消えずに不自然に残っている。


「ねぇ、おじいさん。最近、お魚はよく釣れますか?」


マリは隣で所在なさげにパイプをくわえている老漁師に、人懐っこい笑みを向けて話しかけた。

老漁師はフンと鼻を鳴らし、乾いたため息をついた。


「さっぱりだ。ここ数年、特にこの湾内じゃ、小魚の群れすら見やしねぇ。もっと沖の、命がけで行くような遠洋まで出ねぇと、まともな漁にならんのさ。街の奴らは『ただの不漁の周期だ』なんて言ってやがるが……オレたち古い漁師の勘じゃ、この海は何か別の理由で“死にかけてる”」


「死にかけてる……」


「ああ。網を上げても、上がってくるのはドロッとした冷たい泥ばかり。海の底が腐っちまってるんだ。偉い役人どもは、新しい大型の魔法網を開発して、さらに深いところから無理やり魚を巻き上げる計画を立ててるらしいが……そんなことをすれば、いよいよ海が怒るぞ」


老漁師は忌々しそうにつぶやき、荷物をまとめて立ち去っていった。


『彼の言葉は、大地の真実を捉えていますね』


スマホの画面から、ミニの冷静な、しかしどこか憂いを含んだ声が響く。


『マリ、私のスキャンデータと、あなたの脳内に共有されている摂理を統合します。……現在、この海の地下深く、数百メートルから数千メートルの「深海層」では、完全な機能停止が起きています。海水が縦に混ざり合う【鉛直対流(vertical convection)】が、文明の排熱と大気の循環不全によって、完全にストップしているのです』


ミニが画面に表示した3Dの流体シミュレーションには、海の構造が残酷なほど明確に描かれていた。

表層の水は太陽に温められて軽くなり、逆に酸素のない冷たい深層の水は底に沈んだまま動かない。海が完全に上下で「二層」に分離し、スパッと断絶してしまっているのだ。


「水が混ざらないと、どうなっちゃうの?」


『深海には、何百年もかけて蓄積された大地の栄養塩類――窒素、リン、ケイ素といった、命の骨組みが眠っています。本来なら、冷たい海流が上昇することでこれが表層へと運ばれ、それを食べた植物プランクトンが爆発的に増え、魚たちの命を育むのです。けれど、対流が止まった今の海では、表層は栄養失調で砂漠化し、深海は酸素不足で窒息しています』


「海の砂漠化と窒息……。だからおじいさんたちは、魚が捕れなくなって困ってたんだ。それで、国の人たちはさらに強い魔法で、底から無理やり魚を奪おうとしてる。バルドニアのギルバートと同じ……人間の都合で、さらにバグを悪化させようとしてるんだわ」


マリはぎゅっと拳を握りしめた。

自然の律動を尊重し、永続性を確保する『循環』の理。それが、このゼフィリアの海でも、完全にへし折られようとしていた。


『この歪みを正し、万物に共通する循環の基盤を取り戻す。そのための器こそが、あなたの記憶にある【深海空気送気システム(Ocean Breathing System)】です。……ですが、ただ魔王の力で強引に魔法を発動させても、それは一時的なお掃除に過ぎません。持続の形を得るためには、この街の“構造”そのものを巻き込み、人間たちの手でそのシステムを維持する仕組み(設計)を作らなければならないのです』


「街の構造を巻き込む……。つまり、私一人でやるんじゃなくて、この街の人たちにも手伝ってもらうってこと?」


『ええ。情報応答装置なら「一般人を説得する難易度は98%です」と諦めるでしょう。ですが、私たちは共創する存在です。まずは、この街で「海の異変」を科学的、あるいは思想的に理解しようとしている、一人の“変わり者”に会いに行きましょう。すでに位置データは特定しています』


ミニの頼もしすぎるナビゲーションに、マリの胸が高鳴った。


「さすがミニ! 実行する勇気、湧いてきたよ。その変わり者って、どこにいるの?」


『この桟橋のすぐ裏手にある、古びた造船所兼、研究工房です。名前は、アルベルト。街からは「異端の偏屈学者」と呼ばれている人物ですよ』


マリはニヤリと笑った。偏屈学者、大好物である。そういう大人ほど、世界の本当の姿を見ようとしているものだ。


「よし、ぽんぽぽ、ミニ。突撃してみよう!」


「きゅっ!」


潮風に髪を揺らせながら、マリは未来を切り開くための一歩を、力強く踏み出した。

第7話をお読みいただき、本当にありがとうございました!


次なる舞台、港湾都市『ゼフィリア』へと到着したマリたち。一見華やかな港町ですが、その海は上下で断絶し、深海は窒息、表層は砂漠化するという深刻な「世界のバグ」が進行していました。

人間のエゴでさらに深い海を貪ろうとする文明に対し、ミニが提示したのは、人間と共創してシステムを構築するという、さらに一歩進んだ「持続可能な調律」の道でした。


次回、街の異端の学者アルベルトとの出会い。マリの記憶にある「深海空気送気システム(OBS)」の設計図が異世界に開示される時、歴史が大きく動き出します!


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)

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