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自称コンサルタントのギャルが僕を魔王にしようとしてくる  作者: 結生


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コミュ障にシェアハウスはハードルが高い

「よし、着いたぞ」



 ゼラを連れて僕の家の前まで帰ってきた。



「結構かかった。空港から遠すぎない? 川越って田舎なの?」


「仕方ないだろ。電車止まってたんだから、時間かかって当たり前」


「でも、トラブルあった駅ってもっと下りの方だったじゃん。途中まで動かせばいいのに、なんで全駅で運転見合わせしてたの?」


「東上線だから」


「JRでもこれたでしょ」


「電車賃たっけんだわ」


「でもこんだけ時間かかるなら、そっちの方がよかった」


「だって、すぐ動くって言ってたんだもん!」


「運転再開時間から、1時間以上待たされたけどね」


「ゆるせねーよなぁ!」


「ま、電車の愚痴はこの辺にして、早く入ろ。うち、移動で疲れたから少し休みたい」


「そうだな、じゃ、入れよ」



 扉を開け、いつものように家の中に入る。



「おかえりなさい、ご主人」



 すると、これまたいつものように梗夜(きょうや)君が出迎えてくれた。



「ただいま。それと、前から言ってた新しい住人を連れてきたよ」


「新しい住人? どこですか?」


「どこって、僕の後ろに……うお!」



 後ろを振り返ろうとしたら、背中が強い力で押されてて振り返ることが出来なかった。



「何してんの?」



 どうやら、ゼラが僕の背中に隠れていたみたいだ。

 気が付かなかった。ずっと隣にいるもんだと。



「おい、後ろに隠れてないで、あいさつしなさいな」


「ごめん……ちょっと、無理……」



 ゼラは梗夜(きょうや)君に聞こえないくらい小さな声でそう囁いた。



「え? なんで?」


「いや、なんか、その、初めて会う人とどう話していいか全く分かんない」


「普通に名前とかいうだけだから。ほら」



 僕はしがみついているゼラを引きはがし、梗夜(きょうや)君の前へ連れ出した。



「初めまして、神代梗夜(かみしろきょうや)だ」



 梗夜(きょうや)君は名を名乗り、右手をゼラの前に差し出した。

 それを見て、どうしたらいいか分からないゼラは梗夜(きょうや)君の右手と僕を交互に見ていた。

 いいからさっさと自己紹介しろ。と目線で送っておいた。



「あっ……あ、……………………で……す」



 すると何事かを呟いた後、すぐさま僕の後ろに戻った。

 え? なに? 今なんか喋った?



「なぁ、握手だけでもいいからしなよ。梗夜(きょうや)君、出した右手をどうすればいいか分からずに固まってるよ」


「え、今、うちめちゃくちゃいい感じの自己紹介してきたんだけど、聞いてなかったの?」



 逆になんでこの人は自信満々でそんなこと言ってんの? 何も聞こえなかったが?

 顔真っ赤で肩プルプルしてただけだぞ。

 でも、まぁ、多分これはあれだな。

 いつもの人見知りだ。

 ゼラの人見知りは前から知ってたけど、ここまで酷かったとは。

 さっきまで僕と普通に話せてたから、大丈夫かと思ってたけど。

 いや、違うよね。



「………………」



 そこで気が付いた。

 僕の袖を掴むゼラの手が少し震えていた。

 そうだよね。怖いよね。

 今日までずっと部屋に閉じこもりっきりで僕以外とは誰とも関わってこなかった子が、飛行機に乗って家から遠いここまで来たんだもん。

 それだけで不安がいっぱいなのに、まだよく分からない人たちと共同生活をするってなったら、こうなるよね。



「ごめん、梗夜(きょうや)君。今はちょっと……」


「はい、自分は大丈夫ですよ」



 ゼラのことを察してくれた梗夜(きょうや)君は笑って頷いた。



「今日のところは、みんなに僕から紹介するから。先に部屋に行こうか。疲れてるでしょ?」


「…………うん」


「後それから、もう僕の前で変な見栄は張らないでよ」


「…………分かった」


「それじゃ、案内するよ。ゼラの部屋は2階にある僕の部屋の隣。そうだ、梗夜(きょうや)君。しばらくしたら、ゼラの荷物が宅配で届くと思うから運んでもらってもいい?」


「承知しました」







 ゼラを部屋へ案内した後、適当な飲み物を持っていくついでに今リビングにいる人たちにゼラのことを教えておこうと思った。



「ってことで、さっき新たな同居人が来たよ。今は部屋で休んでるけど」



 現在、リビングにいるのは3人。プリムラ、メイさん、風真さんだ。



「ねぇねぇ、女の子なんだってぇ~? どうなの? 可愛い? 美人? おっぱいでかい?」


「セクハラで訴えますよ。エロ真さん」


「いや、違うって誤解だから」


「今のどこに誤解がありました?」


「だからさぁ、一緒に住むってのに顔も分からないのはおかしいだろう? もしかしたら、不審者かと思っちまう」


「確かに、そこに甚平姿でうろつくおじさんがいらっしゃいますわね。不審者のようですので警察に通報しないとですわ」


「待って待って! メイちゃんのそれは冗談に聞こえないからさぁ!」


「でも不審者には違いないと思いますけど?」


「ホント誤解だって。ただどんな見た目の子かなって。新しく来た子がどんな子なのか知らないと色々配慮できないでしょ?」



 ああ、そういう事。

 この人、意外にちゃんと考えてたんだ。ゼラのこと。

 ゼラが不登校で、数年引きこもっており、誰とも接点を持たなかったという事情は既にみんなには伝えている。

 風真の言葉はそれを踏まえてのものだったのだろう。



「見た目ってことだと、めちゃくちゃ長い黒髪に左目は蒼っぽかった。右目は梗夜(きょうや)君が好きそうなデザインの眼帯をしてたから分かんない。あと、角と尻尾が生えてた」


「は、生えてたって、え? 彼女、魔族なのかい?」


「みたい。でも大丈夫でしょ。日本は中立国だし、魔族もちらほらといるし」


「確かに魔王軍の所属でなければ、当たり前のように日本に来ることも移住することも可能だ。だが、少し気になることがある。憐太郎(れんたろう)、お前は彼女のことをゼラと呼んでいたが、本名を知っているか?」



「本名? ゼラニウム・グリーヴニルって言ってた」



 パリンっ!

 ティーカップが地面に落ちて割れる音がした。



「え! ちょ、大丈夫!?」



 僕が声をかけるが、誰も反応しない。いや、固まってしまっていた。

 え、何この空気。

 風真さんは目を見開いたまま僕の方を見てくるし、いつも掃除にはうるさいメイさんが落としたティーカップに見向きもしない。

 プリムラだけは興味なさげにスマホとにらめっこをしていた。

 これってあれだよね。驚いているってことでいいんだよね。

 てか、なにに? 驚く要素あった?

 ゼラの名前言った瞬間、この反応だったってことは、みんなはゼラのこと知ってるのかな?



「あ、あの~……」


「手が滑ってしまいましたわ。すぐに片します」


「あ、うん。で、それで、今何に驚いたの?」


「すみませんわ。うっかりティーカップを落として、驚いてしまいましたの」



 なんか話逸らそうとしてきてる気がするんだけど。なんで?



「それよりさぁ~。あの子またしてるんでしょ? 早くいってあげなよ」


「え、あ、うん……」



 プリムラに言われるがままにリビングを後にして、二階へと向かった。

 なんだか、いつものプリムラと少しだけ雰囲気が違って見えたけど、気のせい、か?



  *



「さてと、どうしたものか」



 憐太郎(れんたろう)がリビングから出ていったのを確認し、プリムラ、メイ、燕時(えんじ)の3人は神妙な面持ちでテーブルにつく。



「少年の言っていた外見的特徴と名前からして、」


「まず間違いなく、魔王の娘ですわね」


「プリムラちゃん、君は彼らの関係を知っていたのかい?」


「うんん、ぜーんぜんしらな~い」


「仕方ありませんわ。魔王の娘に関する情報は魔王軍の中でもごく一部。魔女で知っているとすれば、わたくしのような王族くらいのものですわ。逆に風真燕時(かざまえんじ)はどうして魔王の娘について知っていたんですの?」


「元とは言え、勇者軍諜報機関のトップをやっていたんでね。噂程度には聞いていた。が、どれも確証の得られるものじゃないってんで、勇者軍ではそこら辺の情報は曖昧になっている」


「メイが聞いている魔王の娘、ゼラニウム・グリーヴニルの情報を貰えるか?」


「分かりましたわ。と、言っても、わたくしが知っていることは先ほど唯野憐太郎(ただのれんたろう)が言った特徴と名前くらいですわ。彼が言っていた通り、ゼラニウム様は長年引きこもっていたため、目新しい情報がないのですわ」


「そうか。疑問が尽きないな。彼女がここへ来た目的や実力、魔王の狙いや魔王軍への影響力などなど。だが、1つ分かっているのは最近起きている大規模侵攻。あれは娘を日本に送る為に日本から勇者軍の目を逸らすためのものだろう」


「そうですわね。攻め方からして時間稼ぎ程度でしたし、今すぐに世界を獲ろうとは考えてはいませんわよね」


「なら、大規模侵攻のことは置いておいて、彼女を今後うちでどのように扱うかを決めようか」


「まず、ゼラニウム様の正体がバレないようにしませんといけませんわね。特に唯野憐太郎にも」


「少年にだけは教えないのかい?」


「ゼラニウム様がここにいるのは唯野憐太郎がいるからですわ。その唯野憐太郎が魔王の娘であることを知ったら、怖がってゼラニウム様を追い出しかねませんわ」


「そうだね。これはある意味チャンスでもある」



 メイと燕時の考えは一致していた。

 ゼラをクローバー陣営に加える。

 魔王の娘を配下に置ければ、他の陣営に対し大幅なアドバンテージを得られるだろう。

 そう思っていた2人だったのだが。



「あの、お姉さま? いかがなさいましたか?」


「なにがー?」


「いえ、あの、ですから……」



 いつものプリムラであれば、魔王の娘なんて肩書の少女がやってくれば、陣営に加えそうと画策するものだが、先ほどから興味なさげな態度を取り続けている。

 そのプリムラの不自然さにメイは首を傾げるが、それを問いただすことは出来なかった。

 けど確実にこれだけは言える。


 その日のプリムラは明らかに不機嫌だった。


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