幼少期
生後10ヶ月。離乳食が始まったソールにとって、食事はもはや単なる栄養摂取ではなく、「供給ラインの品質管理」だった。
母マギア(大魔導)が、魔力で温度を完璧に調整した特製スープを運んでくる。
(……ほう。今日のスープは昨日より粘度が5%高いな。マギアさん、これはジャガイモの裏ごしが甘いのか、それとも水分量の計算ミスか? 僕の嚥下コスト(飲み込む苦労)を考慮したレシピに変更していただきたい)
ソールは「あー」と口を開けながらも、舌の上で食材の粒を厳密にサンプリング(検品)。
もし納得がいかない味だと、スプーンを握りしめてジッとマギアの目を見つめる。
「まあ! ソールったら、なんて真剣な顔で味わっているのかしら。まるで宮廷の毒見役か、美食の批評家のようだわ!」
マギアは感動して、さらに魔法理論を駆使した「究極の離乳食」の開発に没頭し始める。ライト家の食卓が、0歳児の無言の圧力によって三つ星レストラン級に跳ね上がった瞬間だった。
赤ん坊の仕事は「泣くこと」だが、ソールはそれを「緊急連絡(インシデント報告)」としてのみ使用した。
(おむつが濡れたな。不快指数は70%。だが、今は午前3時。父さんも母さんも深い眠り(レム睡眠)の真っ最中だ。ここで全力で泣くのは、人的リソースの無駄遣い……)
ソールは、隣でスヤスヤ眠るアリアを見る。
アリアは時々、前世の「病弱だった頃」の夢を見ているのか、少しうなされていることがあった。
(……アリア、大丈夫だよ。今は僕がいる)
ソールは自分の小さな手を伸ばし、アリアの頬をそっと撫でる。
さらに、自分の中に溜まった過剰な魔力を、あえてアリアが吸いやすいように「最適化」して流してあげる。
(よし。これでアリアの体調は安定する。僕の魔力も減って一石二鳥だ。これぞWin-Winの関係……)
ソールの「完璧なセルフマネジメント」により、ライト家は「夜泣きゼロ」という、子育て世代が涙を流して羨むホワイトな環境を実現していた。
3. 初めての「有給休暇」
たまに父エルドが、厳しい剣の修行から帰ってきて、ソールを抱き上げる。
「よーし、ソール! 今日は『垂直限界突破』だ!」
(父さん……。それはあやすというより、遠心力トレーニングですね。だが、たまには思考を止めて、外部の力に身を委ねる『リフレッシュ休暇』も必要か……)
ソールは無表情のまま、エルドによって天井近くまで放り投げられる。
その瞬間、ソールの脳内では
現在の重力加速度の計算
落下の軌道予測
エルドの受動的キャッチ能力の信頼性確認
が行われていたが、最後には「……ま、いいか。有給だし」とすべてを放棄。
赤ちゃん特有の「キャッキャッ」という笑い声を(やや義務的に)発してみせる。
「笑った! ソールが笑ったぞ、マギア! 俺の剣技に反応しているんだ!」
父の勘違いを放置するのも、「上司を立てる」という前世で培った高度な処世術であった。




