オトコノコと魔女の薬 -2/2-
薬棚に立つ音夢は真剣そのもの。
魔女たるもの薬に妥協は許されないのだ。
「咳を落ち着かせる薬草と、胸のつかえを和らげる薬草。それに」
次々と取り出す薬草を作業机に乗せていく。最後に目をやったのは象牙色の先端が尖った物。中瓶に入ったそれを一つ取り出して机に乗せた。
「さて、心配さんが気付く前に作っちゃいましょう」
言って薬草を薬研で擦り潰し、象牙色の物を魔法の力で粉末にしていく。それらを女の子のお母さんが映る鍋に、掻き混ぜる手を止めずに順番に入れた。
「悪戯好きの悪い鬼は怖い悪魔の爪で追っ払う」
混ぜながら言霊を乗せる。するとお母さんの映像と、灰色の水と、深淵の様な真っ黒な水、それに薬草の緑色が混ざってマーブル模様を作り出した。
すかさず虹色の液体を一滴垂らすと、
ボン!
と小気味良い音を出してパチパチ光る深緑色の煙が立ち上った。
「これで心と体をリフレッシュ♪」
追加の言霊と共に指を一振りすると、煙とパチパチが指の動きに釣られる様に細長く巻き込まれ、そして消えた。
煙の無くなった鍋を除くと。
「完成っと」
鍋の底に象牙色に緑の粒々が入った正露丸サイズの玉が数個出来ていた。
それを薬包紙に包んで袋に入れる。
「出来たよ」
袋を持って戻ると、女の子はノアールにお茶の淹れ方を教わっている最中だった。よっぽど色の変わるお茶が気に入ったらしい。
音夢は笑みを浮かべて嘆息すると、袋をファンシーテーブルに置いて座った。お茶が完成するまで今度は音夢が待つ番なのだ。
「さあ小さな魔女さん。お兄さん魔女に可愛い魔法を見せてあげて」
音夢が戻って来たのは主人の気配で察していたノアール。夢中で気付いていない女の子に視線を合わせてからその先を音夢に向けた。
釣られて振り向いた女の子は、いつの間にか座っている音夢に何でいるのかわからず目をパチクリさせる。次いでテーブルに乗った薬を見て目を輝かせた。
「くすり!!」
「うん。一週間分の魔法のお薬だよ。寝る前に飲んで貰ってね」
「わあ!ありがとう!魔女のお姉さん!」
「うん。お兄ちゃんなんだけどね」
「良かったね。それじゃあお姉さん(笑)魔女にお礼の魔法を
淹れてみようか」
何度言っても音夢をお姉さんだと思っている女の子に、ノアールも面白がっている。
その様子に音夢は喉をヒクつかせて半眼だ。その口は造り笑いで弧を描いている。
(いいんだけどね)
魔女たるもの小さなレディの夢は壊さないのだ。
当の女の子は言われて思い出したのか、両手を口に当てて「あっ」と声を上げている。そして慌ててお茶を慎重にガラスのカップに注いだ。
「魔女のお姉さん魔法のお茶です。どうぞ飲んでください」
緊張の面持ちでカップを音夢の前に置くと、直ぐに魔法の素を取りに戻る。薄い黄色の水が入ったその小瓶。慎重に蓋を開けて慎重に
ポト、ポチョン。
と数滴青色のお茶に垂らした。
するとお茶は広がるように色を変化させて、綺麗なピンク色に変わった。
「んふふ!魔法のお茶だよ!」
自慢気に胸を張る女の子に、音夢は優しく頭を撫でる。
「凄いね!色が変わったよ!」
勿論音夢は色が変わるお茶の正体を知っている。でもそれは言わないお約束なのだ。
お礼を言って飲んで、そして「美味しいと」言ってお礼を言えば、女の子はとっても嬉しそうに笑った。
「こんな素敵な魔法はお母さんにも見せてあげないとね」
「うん!帰ったらいれてあげるんだ!」
そう言って、女の子はお母さんの薬の他に、ハーブティとレモン果汁の入った小瓶を買って元気に帰って行った。
お代は女の子のお小遣いの範囲しか貰っていない。正直大赤字だ。
「お母さん払うかしら」
「払うよ。だってあの子を育てた人だもの」
でも大丈夫。薬の袋には経緯を記した処方箋をちゃんと入れているのだから。
小さい子の依頼は、基本的に親御さんへの報告を義務としている音夢なのである。
そして魔女の薬の恩恵に預かった患者は、今のところ全員適正価格を払いに来てくれている。
音夢はちゃんと自分と使い魔の衣食住を守っているのだ。




