オトコノコと魔女界
魔女界は魔法で出来た世界。
だから不思議がいっぱいだ。
「鶏ペンギン島の愛と勇気と根性の空飛ぶランチ」
力強い目でキッと見据えるのは、ビシッと伸びた人差し指の先。
斜め上を指す先を見れば、そこにあるのは空に浮いた島。魔女界にある浮島の一つだ。下からだとわからないが、上から見たら鶏とペンギンを足した様な形をしている。
『バタフライピーナッツ島の優雅なひとときコース』
対してノアールが前脚で指すのは反対方向。
矢張り指すのは空の上。
落花生型の浮島の周りを虹が鳳蝶の形を描いている。
「う。それも食べたい」
『なら決まりね。今日は私の健診で来たんだもの』
スンッと背筋を伸ばして言うノアール。
ぐにゅりと指の力を抜いた音夢は眉尻を下げて笑った。
「仰せのままに、お姫様」
言って胸に手を当てておじきをする。
ノアールは低くなった音夢の肩にピョンと跳び乗った。
『宜しく、魔女様』
音夢は箒を召喚してバタフライピーナッツ島へ飛んだ。
カラフルな雲や浮島を避けて辿り着いた島は香ばしい匂いがする。
「バタピーが食べたくなるな〜」
『ならそれも頼みましょ』
「賛成〜」
島にはピーナッツを使った飲食店が点在している。
その中でも小高い丘の上に建つレストランに入った。
「いらっしゃいませ。1魔女と1使い魔ですね。店内とテラスどちらになさいますか?」
入ると直ぐに店員が応対する。
人間界の休日は魔女にとって稼ぎ時な為、比較的空いている。
「あったかいし、テラスにしない?」
『あら、私も今丁度そう言おうと思ってたのよ』
という訳でテラスの端の席に着いた。
丘の上は眺めが良いので楽しいのだ。
「ご注文は優雅なひとときコースとバターピーナッツですね」
席に着くなり店員は注文も聞かずに言った。
店員も魔女なので欲しているものはお見通しなのだ。
「お飲み物はお決まりでない様ですね。決まりましたらお出し致します」
「『お願いします』」
ふわりと店員が消え、テラスには音夢とノアール、そして少し離れた所に別の客だけになる。
音夢は一度客を見て、知り合いではないと判断する。そして直ぐに丘の下の景色に視線を移した。
「良い天気で景色が綺麗だね〜」
まったりゆったりと流れる空気に、頬杖をついて目を細める。
ノアールも髭をそよがせ目を細めた。
『こうポカポカしてると寝たくなるわ』
普段はしっかりさんなノアールも猫は猫。
陽だまりにはウトウトしたくなるのだ。
その猫らしさに音夢は笑みを深め、そしてつい最近の出来事を思い出した。
(陽だまりで寝たくなるのは人間も一緒かな)
GW休みに、今みたいに女の子達と外で美味しい物を食べた。
その時も暖かくて、欠伸の連鎖が起きたのだ。
「ご飯来るまで寝てて良いよ。って言いたいけど……」
眠気まなこなノアールに言っている間に、テーブルにホワンっと綿菓子みたいな雲が現れ、そしてサーッと左右に散る。
『待つ時間って無いのよね』
「だねぇ」
顔を見合わせて笑い合う。
ここが人間界の外食産業と違う所だ。
テーブルに着いたら即提供。
魔女の外食産業は予知魔法の使い手が多いのだ。
お陰でフードロスも無い。予知魔法が使えない音夢の店とは格が違うのだった。




