オトコノコと使い魔 -2/2-
使い魔病院の中。
受付には蜘蛛が一匹天井から垂れ下がっている。
他には誰もいない。
けれども音夢は気にせず一枚板で出来たカウンターに手のひらを乗せる。乗せた場所には魔法陣が描かれている。
魔力を流せば魔法陣から淡い光が漏れた。
『ゴ予約ノノアール様デスネ』
すると頭上から声がした。
音夢は見上げてニコリと笑んだ。
「はい、そうです」
明らかに蜘蛛に向かって話している。
『マスターニ繋ゲマス』
そう。蜘蛛は魔女の使い魔なのだ。
蜘蛛が後ろ脚で糸をトントンと叩く。
『はぁい、どぉぞ〜』
艶めかしい声が糸から伝わる。
するとグルリと景色が一転した。呼び鈴魔法だ。
瞬きの間に受付が丸く切り取られ、代わりに肘掛け椅子に座ったオネェさんが現れる。
筋肉ムキムキでお化粧濃くて、お髭の濃いミスターレディの見た目。だけど、歴とした女性魔女。
(見事な呼び鈴魔法。僕の覚えたてな出来と随分違うや)
綺麗に切り替わった空間に、自分の魔法との差を感じる。魔女歴が違うのだから仕方が無いとはいえ、悔しいものは悔しいのだ。
(良いんだもん。僕はコレから伸びてくんだもん)
「時間通りねぇ」
使い魔医師の魔女レデイがシナを作って顎を手で支える。声も仕草も艶やかだ。
ウィンクをされた音夢は会釈を返す。
「ノアールがせっつくんだよね〜」
『時間、厳守、当たり前、でしょ』
グッタリしているノアールが途切れ途切れにピシリと言う。
「あらぁ、狭間酔いじゃなぁい」
レデイは言うなり、真っ赤なキラキラネイルの人差し指を、ノアールを頭から尻尾をなぞる様に動かした。
『ありがとうございます。先生』
するとすっかりピンシャンとしたノアールが、音夢の腕から降りてお辞儀した。
なんと今ので狭間酔いを治してみせたのだ。
「相変わらず呪文は使わないんですね」
攻撃魔法や回復魔法には呪文を言いたい派の音夢。
毎度あまりにもあっさり治癒するレデイに、ちょっぴり物足りない気分になる。
「やぁね、可愛い口を尖らせないの」
レデイは太くて筋肉質な人差し指を音夢の口に当てて引っ込ませる。
「音夢ちゃんだって、箒出すのに呪文使うの見たこと無いわよぉ」
そしてバッチンとウィンクをして閉じた目からハートを飛ばした。
音夢はそれを甘んじて受ける。
女性のハートは無碍にしないのだ。
「だって、それは頻度高過ぎて面倒なんだもん」
出せない口の代わりに頬をプックと膨らませる。
レデイはそれにクスクスと上品に笑った。
「治療も同じよぉ。患者さんは痛くて苦しいの、我慢してるじゃなぁい?呪文なんて言ってる暇あるなら、一瞬でも早く治してあげたいのよぉ」
正に医師の鏡である。
大人なレデイに、音夢は憧憬の眼差しを向けた。
「やっぱり先生は格好良いな〜」
「あらやだ。アタシに惚れると火炙りになるわよぉ」
魔女ジョークに、音夢は笑う。
だって、今日も安心してノアールの健診を任せられるのだから。




