オトコノコと使い魔 -1/2-
魔女にも国がある。
地球の地図の何処を探しても見つからないその国は、地球の空間軸の狭間に存在する。
魔女界と呼ばれるその場所に、最近訪れた箒の材料取り扱い店がある。
そして国というからには勿論、基本的な施設も揃っている。
「大丈夫?ノアール」
浮島やカラフルな木々が生える幻想的な地で、音夢がノアールの背中を摩りながら言った。
猫の姿のノアールは音夢に抱かれてグンニャリとしている。黒いのに青褪めた顔が元気の無さを物語っている。
『無理』
両前脚で口を押さえ、何とかその言葉だけ吐き出した。
音夢は揺らさないように柔く、柔く背中を撫でる。
「ノアールの狭間酔いは酷いねぇ」
毎度の事と、最早慰めの言葉も出ない。
地上と狭間を渡る時には、空間の歪みを通るのだ。大きく揺れる電車内を、AR動画を見ながら支え無しで歩くよりも心身共に不安定になっている。
(ノアールは繊細だからかなー)
酔い易い体質を考えながら、ノアールが良くなるまで撫で続ける。
酔い止めの魔法薬は飲んだ。
後は効くのを待つのみなのだ。
落ち着いた頃合いで音夢はノアールを抱きながら歩を進めた。
余裕を持って出てはいるが、予約の時間に間に合わないと困る。
今日は使い魔病院の健診日なのだから。
「病院嫌がらないから助かるよ〜」
『……必要な、事じゃない……』
「ノアールは真面目だな〜」
『……音夢が、不真面目なのよ……』
吐き気は治ったノアールは、音夢の言葉に律儀に返す。
因みに音夢は魔女健診も忘れがちだ。
だってまだ若いんだもの。
健康診断は学校だけで十分なのだ。
「着いたよ〜。狭間酔いも診てもらおうね」
ノアールはのそそそ…と顔を上げて使い魔病院を見る。
蝙蝠羽をあしらった入り口。
蜘蛛の巣模様の外壁。ちゃっかりある本物の蜘蛛の巣と同化している。
屋根には大きな大きな黒い猫と鴉が屋根になっている。
入り口横には看板がある。
看板を見るとこう書いてある。
『使い魔医師 魔女レデイの病院
診療日 患者がいる日
診療時間 昼から夜の間
※急患は常時受け入れ』
その慣れ親しんだ外観に、ノアールもホッと一息吐いた。
(趣味は悪いけど、腕だけは確かなのよね)
音夢の腕の中で身じろぎ、クロスした前脚に顔を入れる。後ちょっとの辛抱ポーズだ。
音夢は首根っこのふわふわ毛を軽く撫でて中に入った。




