1-4カナレットの旅立ち(終)
あの夜に彼女が消えてから2ヶ月、夢の様だったんじゃないかとも思い始めていた。
蒼井は今日も机に向かって、真珠の耳飾りの少女に関係するレポートを書いていた。
夕暮れ時に差し掛かり、部屋の中はオレンジ色に染まっている。
「う~ん」
ノートパソコンから手を離すと、ぐっと伸びをした。
「はぁ~約束ぐらい守って欲しいなぁ。行きたかったな。世界中の美術館」
独り言が出ては、天井へ消えていく。
約束、それは「真珠の耳飾りの少女」の日本での調査チームに参加し、高精細X線の結果を彼女に伝えること、そうすると世界中の美術館へ連れて行ってもらえるというものだった。
知っていた連絡先に掛けても「お客様の~」と定型文言が返ってくる。
そんな上手い話無かったのか。と少し諦めている自分が居た。
コトン。
「ん?」
玄関にあるポストに何かが落ちる音。
慌てて、玄関の扉を開けても誰も居なかった。
手紙を手に取ると差出人の欄は空白。封筒は白色で、少し甘い香りがする。
あの夜消える瞬間に彼女が残した、花の様な甘い香りだった。
「ラデリア!」
――約束は、まだ終わってないよ。
と可愛らしい丸い文字で書かれた一文があった。
それから続きに
――パスポート代としてこれを使ってね。
――パスポートって何か分からないけど、人間には必要なんでしょ?
――また会いに行くから、ちゃんと作っておいて。
――ラデリア
と白い花びらと10枚の福沢諭吉が入っていた。
「おいおい、こんなに要らないって・・・」
思わず笑いが漏れる。
次の日電車に乗って、パスポートセンターで申請を行った。
さらに次の日、キャリーケースを買って、服も買い足した。
気づけば、部屋の隅に旅支度が整い始めている。
まだ行き先も、彼女がどこにいるのかも分からないのに。
「……本当に、行けるんだな」
机の上にある手紙を見ながらそう呟いた。
次の日朝、また手紙が届いていた。
――3月△日羽田空港第3ターミナルで待つ。 ラデリア
同封されていたのは、赤いペンで〇がされた空港の地図であった。
今から春休みが待ち遠しい、蒼井は心が弾むのがわかった。
それから出かけられるように身の回りの整理を始めた。
バイトを辞め、友人にも世界旅行へ行くと伝えた。
驚かれたが、「楽しんでこいよ」と言われた。
それから家にある小さな仏壇にも手を合わせた。
両親の遺影が笑っていた。
「行ってくるよ!」
荷物の準備は出来た。後は約束日を迎えるだけであった。
羽田空港第3ターミナル。
巨大なガラス張りの建物が朝の光を受けて輝いている。
展望デッキに蒼井は居た。轟音を立てながら飛び立つ飛行機を眺め、これから始まる旅にワクワクしていた。
「蒼井!」
「ラデリア!」
彼女はそこにいた。麦わら帽子に白いワンピースを着ていて、首には緑色の宝石が輝いていた。
「さあ、行こう!ここからが本当の旅の始まりだよ」
飛行機の轟音が遠ざかり、二人だけの世界に静かに切り替わる。
蒼井は一歩、ラデリアの方へ踏み出した。
―ここから彼女との旅が始まる。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
初めての投稿で楽しんでいただけたら幸いです。
残った謎として、
何故蒼井は選ばれたのか。
出会いは偶然だったのか。
どこへ向かったのか。
今後ゆっくりと書き明かしていきたいと思います。




