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White bullet  作者: 七灯
6/9

chapter5 ~best friend~

Scene6/8

 私は《トール》のようにすぐに移動できるわけでもないし、《ロキ》のように機械の羽があるわけでもない。

だけど、私には(リーダー)がいる。


私は数十メートル下の鉄板まで壁を使わず落ちていく。

でも、私の二つの脚は底となる鉄板に意識せずとも着地できた。

リーダーがどうすればいいか教えてくれているから。


前を見れば、そこには柱に寄り添う《トール》がいた。


「《オーディン》!」

「《トール》っ!」

「生きてた……って、どうしたんだ、その目…」

「目…?」


私は右目だけ手で覆って隠してみるけれど、視界が変わったようには見えない。

逆に、左目だけを隠すと、柱が透けて見える。


「分からないけど、今は痛くない」

「いや、痛いとかじゃなくて、光ってるんだけど…?」


確かに、暗い放水路の柱に赤い光が反射して明るくなっている。本当に私の目が発している光なのかは分からないけど。


でも、そんなことより、《トール》が生きていることのほうが、私は重要だった。

《トール》が生きていることがわかった今、私に怖いものはない。


「――気持ちは整えられたようだね。」

「うん。もう大丈夫」

「…《オーディン》?」


不思議そうに私のコードネームを呼ぶ《トール》に私は手をさしのべる。


「《トール》、動ける?」


《トール》は私の手を取り、辛そうに立ち上がると、一度ふらっとよろめいてから姿勢を戻し、少し恥ずかしそうにして口角を上げた。


「当たり前だっ」


《トール》の言葉には力強さがあった。

だけど、私は《トール》の腕を持ち、もう一度座るように《トール》を押さえる。


リーダーにそうするように言われたから。


《トール》からはほとんど抵抗する力を感じず、ペタンと床に脚を着けた。


「…《オーディン》?」

「――怪我が酷い。死に晒される可能性もある。」

「《トール》は、ここにいて。援護してほしい」

「は!? アタシの方が近距離で戦える!」

「その怪我で、戦ってほしくない」


《トール》は自身の体を見る。

諦めたかと思ったけれど、《トール》は反対する。


「ダメだ! 《オーディン》一人じゃ、アレは…」

「私は一人じゃない。リーダーも一緒」

「ボスが…?」

「それに、リーダーが言ってる。『――ライにも、死んでほしくない。』って」

「……だめだ。《オーディン》がいないと…」

「私は死なない。リーダーは私も守ってくれるって、約束してるから」


数秒の沈黙の後、《トール》は口を震わせながら開く。


「……わかった」


私は《トール》に背を向ける。

リーダーが導いてくれる方向へと体を向けて。


「ありがとう」


一言の感謝と赤い残像、《トール》を残して、私は床を蹴る。


「アタシの分も殴ってやれ!」


私は足を止めなかった。それは、できるだけ早く、友達(ライ)を傷つけた敵を倒すために。




 私は床にできた水溜まりを踏んだり、水路を流れてきたゴミを蹴ったりしながら、リーダーが教えてくれる方向へと止まらずに進む。


体が軽くて、いつもより速度が出ているのが分かる。風が心地よく感じるくらいには。


「――左側、柱四本目に注意。」


リーダーの注意のすぐ後、左側四本目の柱の後ろから、敵の狙撃が飛んでくる。

リーダーのおかげで、私はすぐに柱の後ろに隠れることができたから、狙撃には当たらなかった。


「避けた……未来でも見ているのかしら」


まだ敵の位置を捉えていない。

それでも、なぜか私には位置が分かる。

《ノルン》でも、リーダーでもない誰かが、そこにいると教えてくれているから。


柱から《G17》だけを出して、照準は目と腕の感覚に任せる。

一発の射撃音のあとに聞こえた音は、硬い部分に弾が弾かれた、「カンッ!」という高い音だった。


「――非貫通。残弾4。」

(狙われるっ…!)

「見つけた」


空に舞い上がり、天井付近から狙撃タイプの武器腕を構えている敵は、心底嬉しそうだった。


私は《G17》を出した方と逆から飛び出し、敵にできるだけ近くなるよう、前に進む。


「特攻なんて、自殺のつもり?」

「私は死なないっ!」


正面から私は走る。

今は近づくことだけが優先事項。


「――目の前の敵だけ見ろ。」

(射線は……ずれている…!)


敵の射撃は走る私には当たらない。

一瞬、敵に焦りが見えた。


「――今。」


リーダーの声がした時には、私の左手には《SRM+》が握られている。

銀色のバレルについた回転弾倉の一つが空になって、今は一つ分回っている状態だ。


その直後、敵の左腕にプラズマが走る。


「きゃっ!?」


小さな爆発を起こし、左腕の変形機構から体に悪そうな煙がモクモクと出始めた。


狼狽えた敵に、次は《G17》の引き金を引く。

腰部から出た右翼に命中し、これを簡単に貫通する。


「――残弾3。」

(次っ!)


「え、嘘でしょ……飛んでるワタシに当ててくるの!?」


《G17》は自動照準で、私が意識したところに、射線調整をしてくれる。

それは、私の意識が正常であるほど、正確にそこを狙うことができるものだ。

流石はリーダーが作ってくれた私の相棒。


今度は左翼へ2発。どちらも命中し、一つは羽に、もう一つはジェット噴射を行っているタンクを貫通する。


「――残弾1。」


タンクの爆発と両羽の損害により姿勢制御がうまくできなくなった敵は、徐々に高度を下げていく。

そして、私と同じ床に立つ。


「ワタシ、やっぱり強い子が好きなの」

「――向かい撃て。」


正面から突っ込んでくる敵の胸へ、私は最後の《G17》の弾丸を撃ち込む。



「――残弾なし。」






私は忘れていた。敵は銃対策をしていたことを。防弾ベストを着けていたことを。


気がついたときには、体が浮いていた。

《G17》の最後の弾を防弾ベストで受け止めた敵は、反応に遅れた私へと近づき、機械の脚を変形させながら、私の逃げようとした方向から回し蹴りを差し込んできた。


まともな装備を着けていない私にとっては、それだけでも致命傷になりかねなかった。

痛みで立ち上がれない。

うつ伏せに近い状態で、顔だけ敵へと向ける。


「残念だけど、私の勝ちね」


敵は被弾していない脚のふくらはぎ部分をパージして、それを変形させる。


隠し刃を出した元脚パーツは、ナイフのような武器に変形されて、しっかりと敵の手に握られている。


「じゃ、ちょっと眠っておいてもらおうかしら?」

「ぐっ…!」


立たないといけないのに。

負けちゃダメなのに。

どうして、動いてくれないの…?


「じゃあ、おやすみなさい♪」


私はとっさに目を瞑ってしまった。

最後に見たのは、敵の持つナイフが降り下ろされ始めたところ。

それなのに、いつになっても痛みがこない。


「…?」


ゆっくりと目を開けると、そこにはいるはずのない人物がいた。


「だからアタシも行くって言ったのに」


私の仲間であり、一番の友達が、そこにはいた。

その友達は、私に手を差しのべてくれる。


「一緒に戦おう、《オーディン》!」

遡ること10分。

《オーディン》と《トール》が合流したあのとき、《トール》は《オーディン》の手を借りて、一度立ち上がった。


そのとき、《トール》はわざとバランスを崩して《オーディン》に近づき、《オーディン》のロングコートに予備にと持ち込んだ古いタイプの通信機を入れた。



動きが芳しくないと思ったらしい《オーディン》は、腕を持って無理矢理座らせようとしていた。


でも、なんとなく分かっていた。

《オーディン》なら、そうすると。

だから、これからのは全部演技だ。


「…《オーディン》?」

「《トール》は、ここにいて。援護してほしい」

「は!? アタシの方が近距離で戦える!」

「その怪我で、戦ってほしくない」


自身の体を見てみると、思ったよりもひどくやられていた。

でも、大体の被弾箇所は防具を着けているところばかりで、目立つ怪我は特にない。


「ダメだ! 《オーディン》一人じゃ、アレは…」

「私は一人じゃない。リーダーも一緒」

「ボスが…?」


ボスの本名は知らない。だけど、コードネームは知っている。《ヴァルハラ・エインへリヤル》。

《トール》が前に調べたとき、ヴァルハラというのは戦死した英雄(エインへリヤル)が集まるところというのを知った。

そして、《オーディン》はそのヴァルハラの持ち主らしい。

つまりは、もうボスは――


「それに、リーダーが言ってる。『――ライにも、死んでほしくない。』って」

「……だめだ。《オーディン》がいないと…」

「私は死なない。リーダーは私も守ってくれるって、約束してるから」


《トール》は考えていた。《オーディン》が死んだら、アタシはボスのことを、ずっと覚えていられるだろうか。と。

だが、結論は早かった。無理なのだ。人という生き物は、必ずいつかは忘れてしまう。それがどれほど大切なものであったとしても、考えない時間が長くなるほど興味や感心を失うのだ。


だから、《オーディン》には、一人で行ってほしくない。


『《トール》、《オーディン》に仕込んだ通信機の反応が確認できた』

「……わかった」


《トール》が《ノルン》へ反応をすると、《オーディン》は肯定と判断したようで、《トール》に背を向けてしまう。


「ありがとう」


その一言の感謝と赤い目があったところに残像を残して、友達(オーディン)は行ってしまう。


《トール》がついて行こうとしても、戦った後にずっと座っていたせいで足が痺れて動けない。

動けない《トール》にできることは一つだけだ。

友達(オーディン)の背中に向かって、《トール》は叫ぶ。


「アタシの分も殴ってやれ!」


《トール》の言葉に《オーディン》はどんなことを思ったのだろう。反応はいつになっても帰ってこない。聞こえていなかったのかもしれない。

《オーディン》の姿が見えなくなり、《トール》は肩を落とす。


「はぁ。なにやってるんだろうな、アタシは。でも……」


《トール》柱を支えにして無理矢理自分の体を立たせる。


(いくら遅くなってもいい。だけど、最後にはアタシはアイツの隣で立っていなきゃいけないんだ)


それが、《トール》と(ボス)との、約束だから。


《トール》は友達の進んだ方向を見る。

使うのは嫌だったけど、今となっては仕方ない。


「《ノルン》! 回復弾の残りは!?」

『えっ!? あ、えっと、三つだ!』

「了解っ」

『って、そうじゃなくて…』

「5秒待て!」


《トール》は使った空弾を転移させ、回復弾に換装する。

回復弾を自身に撃ち込み、体が軽くなるのを感じる。

回復弾といっても、怪我が治るわけではなく、ただ麻酔のように一時的に痛みを抑制するものだが。


使う弾にすべて換装し直して、今《M202閃》に装填されているのは、閃光焼夷弾一つと移動弾二つ、回復弾が一つだ。


《M202閃》を帰還させ、《トール》は《オーディン》が向かった方へと移動を開始する。


「…んで、なんだ、《ノルン》」

『《オーディン》の身体パラメータが、普通じゃないんだ!』

「どういうことだ?」

『簡単に言うと、このままだと《オーディン》の体が壊れる』


それを聞いた《トール》は、迷いなく《M202閃》を召喚し、移動弾で急行する。


2発分の移動をしたそのとき、《オーディン》が《ロキ》の回し蹴りを喰らったところを目撃した。


(移動弾の再装填が…!)


《M202閃》は転移により再装填を行える。だが、その時には静止しておかなければならない。

それは、《M202閃》内の弾を換装するため、その場所にものがあれば、勝手に作動してしまうことがあるからだ。

例えば、動きながら装填をすると、《M202閃》の射出部分ではないところに弾の転送が行われ、中の物質が反応してしまい、移動弾であれば勝手に使われてその場に移動することになる。

それは《M202閃》自体も当てはまるため、動きながら装填することはできないのだ。


(落ち着けっ! まだ間に合うっ!)


ほんの少しの音が聞こえたら、再装填ができた合図だ。


その瞬間に飛び込めるよう、《トール》は刃物を振りかざす《ロキ》へと照準を合わせる。


コン。


「…!」


《トール》がいるのは《ロキ》のすぐ横。

《M202閃》を横から斜め上方向に振り上げ、《ロキ》ごと吹き飛ばす。


倒れたまま目を閉じた《オーディン》がゆっくりと目を開ける。

《トール》は《オーディン》が生きていたことに再び喜んだ。

だけど、今は作戦中。


だから、一人で行った《オーディン》に非があるように、わざと口にする。


「だからアタシも行くって言ったのに」


《オーディン》の表情が驚いたものから、すぐに柔らかくなった。

それだけで、《トール》は嬉しかった。

だから、手を差しのばす。今は友達ではなく、戦友として。


「一緒に戦おう、《オーディン》!」

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