chapter2 ~our reader~
Scene3/8
私がクロノの言い付け通り休んでいると、拠点に戻ってきた人物がいた。
「ただいま~。って、紅白ちゃんだ」
「おかえりです。ライ」
「あらあら。イカズチさん、戻っていたんですか」
「ああ、うん。ちょうど今だけどね」
彼女はイカズチ。私はライと呼んでいる。
彼女こそ、《トール》のコードネームを持つ女の人で、背が高くて、怒ると怖い人。でも、根が優しいから、怒らせなければ大丈夫。
「紅白ちゃんは大丈夫だった?」
「うん。……ライから焦げたにおいがする」
「あー。さっき爆発に巻き込まれて」
「またですか? あれ、でも、今回はイカズチさんの武器には移動弾でしたよね?」
セシリアの疑問にライは頬を搔いて笑う。
「あのサイボーグだよ。脚を切り離して脚だけ自爆とか、知ってたらやらなかったんだけどな」
「……あれ、もしかして、あの腕は」
「それは大丈夫だよ」
私が一瞬ヒヤリとしたその時、薄暗い部屋からクロノが現れた。
「あっ、イカズチ姉さん、おかえりなさい」
「おう。んで、何の話だ」
「腕のことなんですが、ボクのほうで外部からの操作を空回りさせるようにしておいたので、《ロキ》の好きなタイミングでは自爆できないです」
「クロノ、優秀」
私が思ったことを言うと、クロノは手を横に振って否定する。
「あはは、そうでもないですよ。ボクは戦えないので、紅白ちゃんやイカズチ姉さんに比べたらまだまだです」
「んにゃ? 全員集合してる感じ?」
調理場の奥の方から、エレノアが顔を出した。きっと、セシリアが戻ってこなかったことに疑問を持ったからだと思う。
「あらあら。ランクAがみんな揃っちゃったわ」
「久しぶりですね。全員揃うなんて。作戦が始まったその場を除けば作戦開始以来初ですね」
そう言われれば、確かに作戦が始まってから一度も五人が揃ったことはなかった。
作戦開始の次の日からはエレノアとセシリアが日本に留学して、クロノは各大国を回って権力者に事情を話し、納得してもらいに行っていたし、ライは《ロキ》に加担する勢力を確保、拘束していた。
そのとき、私は――
「……紅白ちゃん?」
「え、どうしたの紅白ちゃん!?」
エレノアとセシリアが私を心配した様子で駆け寄ってくる。
でも、必死そうで、他のメンバーも驚いてる。
「――今は休むといい。」
また、あの声。どこからか聞こえる声に私はどうしてか落ち着いてしまう。
「リーダー……」
最後に彼を見たのはいつだっただろう。
私の《G17》と《SRM+》、ライの《M202閃》を作った彼。
秘匿平和維持組織『ピースメーカー』の設立者の彼。
私に語りかけてくれる彼。
そうだ。作戦が始まってからすぐ。
彼は私の前から消えた。みんなの前からも。
(どこに、いるの…?)
「――ずっと、ここにいるさ。」
私が目を覚ましたのは、拠点の医務室のベッドの上。
5時間ほど寝ていたみたいだ。今は日本時間で7時。医務室の時計がそう示している。
外の景色を見ると、昨日の夜の綺麗な空とは異なり、今は分厚い雲が宇宙を閉ざして大粒の雨を降らしている。
枕元には《G17》と《SRM+》が並べて置いてある。どちらも銃弾の補充をしていないままだ。
《G17》はクロノが調整した弾を、17発で1マガジンのものに取り替え、予備のマガジンを一つ腰部に装着する。
《SRM+》の方は、彼が残していった弾薬箱の中に、《SRM+》だけしか使えない弾がある。そこから二つ、私は《SRM+》に装填する。
「……ふぅ」
「――良く眠れたかい。」
「うん。リーダーはいつになったら帰ってくるの」
「――それは……。」
「教えて。リーダー」
「――ごめんね。」
リーダーは、何も教えてくれない。
ただ、うっすらと道を示すだけで、はっきりとしたことを教えてくれない。
「――一つだけ、言っておく。君はもうすぐ、辛い思いをするだろう。だけど、ちゃんと君を守るから」
「どういうこと?」
「――君を守るよ。」
結局、いつも教えてくれない。
リーダーは、そういう人だから。
「あっ、紅白ちゃん、起きてる」
「エレノア、心配させた。ごめんなさい」
「いいのいいの。紅白ちゃんがまた起きてくれるなら」
エレノアは私に微笑みかける。
「誰かと話してたみたいだけど」
「うん。リーダーと」
「お父さんと? 何か言ってた?」
「ううん。何も」
「そっか」
エレノアは私の隣に座り、持ってきたトレイを持ち直す。
「食べさせてあげよっか?」
「……うん」
「おぅ、ヤバい可愛過ぎて襲いそう」
「エレノアお姉ちゃん?」
「ひゃあ!? ……って、セシリアか。びっくりさせないでよ」
「お姉ちゃんが紅白ちゃんを襲わないか見にきたの」
流石、姉妹。私にも兄妹がいたら、こんなふうに生きているのが楽しいのかもしれない。
「ほら、紅白ちゃん。あーん」
「…?」
「あーん、だよ? あーん」
「??」
分からないまま、口を開ける真似をすると、エレノアがスプーンを口の中に入れてきた。
「ん……(もぐもぐ)」
「あー、ホントに可愛いわ~。自分が今ほど男であればと思ったことはないね。結婚したい」
「……おいしい」
「アッ」
エレノアは天井を見上げて、固まってしまった。どうしてだろう?
「はいはい。お姉ちゃんの分も私がやるね」
「それはダメ!」
「あっ、戻ってきた」
エレノアはさっと二口目を私の口元へと運び、もう一度同じ工程を繰り返してくれる。
「あー。ヤバい。これ合間に私も食べたら間接キスだわ。あー。犯罪者になれそう」
「お姉ちゃん?」
「……(もぐもぐ)」
「ホントに癒されるわ~」
「……おいしいのが、癒し、だよ?」
「ンッ!?」
「はいはい。もう私がやるね」
エレノアは二度目の硬直に入り、残りの分はセシリアが食べさせてくれた。
ごはんはとてもおいしかった。
「お父さんのこと、話してたよね」
「聞いてたの?」
「盗み聞きはよくないと分かってたんだけど……ごめんね」
「ううん。いい。リーダーのこと、忘れていないことの方が大事」
セシリアが少し辛そうな顔をしたのがわかった。だけど、すぐにいつもの優しい顔に戻ったから、それを言うのもよくないと思いとどまった。
「《ヴァルハラ・エインへリヤル》って、どんな人だったんだろうね」
「……わからない」
「こんな組織を作って、私たちを探し出して。そしたら突然いなくなっちゃうし」
「でも、私にはたまにリーダーの声が聞こえる」
「それも含めて不思議だよね。分からないことだらけで」
「うん。いつか、リーダーと顔を見て話したい」
「そうだね。……よし、それじゃあ、私は調理場に戻るから、紅白ちゃんも準備するんだよ」
「うん」
セシリアは未だ天井を見るエレノアを揺らし、エレノアを起こしていた。
私はエレノアが起きるより先に部屋を出ていたから、それより後は知らない。
医務室で外に出る用意を済ませ、セシリアとエレノアを置いて出た私は、トレーニングルームに向かう。
そこで、朝からトレーニングをしているライを見つけた。重そうな錘を左右に持ち、肘を曲げて弧を作っていた。
「ライ、おはよう」
「んっ、ふっ…! ん? あ、紅白ちゃん、おはよう」
「今日もトレーニング?」
「まあね。アタシの武器は力がいるからね」
私は《M202閃》を持ったことがない。それは、触ったことがないのではなく、重すぎて持てなかったから。
ライに《M202閃》を体重計に乗せてもらったときは、メーターが振り切れてダメにしてしまったこともあった。
「ライは努力家だね」
「そう? 紅白ちゃんもやってみる?」
「いいの?」
「もちろん。一番軽いのにしようか」
そう言って、ライはどこからか500gと書かれた錘を召喚し、私の前に置く。
「《G17》より少し重くて、《SRM+》より軽い」
「あ、やっぱりもう終わり」
「終わり?」
「銃の腕が鈍るといけないからね。特に紅白ちゃんは近接武器を持たない分、銃が命なんだから」
「ライが言うなら止めておく」
私は錘をライに渡す。
そして、《G17》を持つ。試しに銃口を壁に向け、すぐに銃口を下げる。
「うん。いつもの感じ」
《G17》をしまい、今度は《SRM+》を持つ。
シリンダーを横にずらして、軽く回してから内側に弾いて元通りにする。
「こっちも大丈夫」
「それならよかった」
《SRM+》をしまい、手ぶらになる。
「そうだ紅白ちゃん。クロノから今日の作戦は聞いた?」
「まだ」
「なら聞いて来なよ。もうすぐ時間になるし」
「わかった。ありがとうライ」
「どういたしまして」
ライと別れてすぐにクロノのもとへ行く。
クロノはやはり暗室にいて、壁を見ていた。
「クロノ」
「紅白ちゃん、起きたんだね。よかった」
「心配させた。ごめん」
「いいって。紅白ちゃんの身体データはボクの方からも把握できてるから」
「よくわからないけど、ありがとう」
私はライから聞いたことを思い出して、クロノに尋ねる。
「クロノ、ライが作戦について情報があると言ってた。私はどうすればいい?」
「そうだね……。紅白ちゃんはボクが指定する位置に行ってほしい。《ロキ》がイカズチ姉さんと戦闘して、イカズチ姉さんが誘導するから、そこで合流する。詳しいことは状況を見ないと分からないから、そのときそのときで更新するよ」
「わかった。クロノの判断に任せる」
クロノは頷いて、パソコンへと視線を戻す。
「9時になったら、会議室に」
「うん。わかった」
現在時刻は8時42分。
残りの時間をどう過ごそう。
特にすることもないけれど、何もしないわけにもいかない。
身だしなみを整えてみようかな。
医務室へ戻り、カーテンを閉める。
動きやすいようにミニスカート、風通しを良く、さらに姿勢を良く保つためにワイシャツを、最後に体温を調節できるよう、いつものロングコートを。
結局、服装は変わらなかった。
いつもの服装が一番いい。
彼が私に合うよう選んでくれたこの服装が。
「紅白ちゃん?」
「セシリア?」
「カーテン閉めてどうしたの?」
「着替えようと思ったけど、今のが一番いいことに気づいた」
「あら。お父さんが選んでくれたものだもんね」
「うん」
カーテンを開け、セシリアと一緒に会議室へ行く。
まだ9時にはならないけれど、会議室には組織の仲間がたくさん集まっていた。
時間にはまだ速いが、一応全員が集まったようで、一番前の演説台を挟んでクロノとライが並んで立つ。
クロノがライに資料を渡し、ライがそれに目を通し、私たちがいる方へと視線を向ける。
「みんな、聞いてほしい。《Plan U》はみんなのおかげで達成された! そして、今は事の発端である《ロキ》を残すだけだ。どうか、あと一息だけ、君たちの力を貸してほしい!」
会議室は大いに盛り上がり、やる気十分だ。
「ありがとう。これより、我々『ピースメーカー』は《ロキ》を排除する! これからは過去ではなく、今を変える。
――ここに、《Plan V》の開始を宣言する!」




