04話:裏表偶像心理
他のアイドルゲームはどうなっていたのか知りませんが、『きらミネ』の3DMV、つまりライブ映像は、楽曲が先にあって、それに振りを付けるという流れで制作されていました。オケと歌唱は完成品があるという前提ですね。それ以降の工程を私たちが担当していました。このライブ映像は以下の長~~~い工程を経てプレイヤーさんの手元まで届くことになります。
・次のライブ楽曲と、その振り付け、および新衣装の詳細が、運営さんからサーバーに渡される
・それを元に、サーバー内のアイドルたちが、歌、振り付けの順にマスターする
・まず歌については、歌詞と口の形が合っていないと不自然なので、全パートを完璧に歌いこなせるようにする
・続いて全パートの振り付けも身体に叩き込む
・全員が振り付けをマスターしたあと、新衣装を着た状態で、全ての立ち位置の組み合わせでライブを行う(ソロ楽曲の場合はスキップできるので有難がられる)
・ライブは無観客ではあるが、プレイヤーさんの端末では観客が合成されて流れるので、振りとは別でファンサが必要な箇所は別途ファンサを行う
・過去の全ての衣装を着て、上記と同じことを行う
・その後、全ての過去楽曲でも、新衣装を着て、全ての立ち位置の組み合わせでライブを行う
・全てを網羅した組み合わせデータが、データ更新のタイミングでサーバーに反映される
・プレイヤーさんが選択した楽曲、衣装、立ち位置のパターンをサーバーで受け取り、それに合致したライブデータをプレイヤーさんの端末に返す
・プレイヤーさんはその映像を元にして、自由にカメラアングルを調整しながらライブを楽しむ
はい、お疲れ様でした。新曲が追加されるたびにアイドルたちの負担が雪だるま式に増えていく、とても素敵な仕様です。私たちはまだ電子空間上の存在なので良いですが(本当は良くないですが)、現実世界のデバッカーさんたちにしてみたら、たまったもんじゃなかったでしょうね。心中お察しします。
こんな思い出したくもない仕様を振り返っていたのも、先ほどのアラートが原因です。怒りと困惑でどうにかなりそうですが、何もしないわけにはいきません。
学園を飛び出し、あかりの家に着きました。今朝と変わらぬ様子でソファに寝そべっている彼女を叩き起こします。
「な~に蒔ちゃん。学園には行かな……って痛ったぁ! 何すんじゃゴラァ!」
本番実装はされませんでしたが、開発初期には、あかりは口が悪いという設定がありました。なので、このサーバー内でだけは口が悪くなってしまうことがあるのです。この設定をオミットした人の英断を称えたいです。
「『Liiight Up!!!』、今でもライブできますか?」
「え、何? 藪から棒に……。それになんで今さらデビュー曲? 衣装、立ち位置、メンバー構成は?」
「初期衣装、デフォルト位置、初期実装の3人。アングルは公式準拠でOKです」
「……理由は?」
「そろそろサービス終了から1年、IP全体では16周年を迎えるにあたって、メモリアルムービーを作ることになりました。そこで『Re-Boot Glitter』が躍る『Liiight Up!!!』のライブ映像を使うそうです」
「そんなんいくらだってデータ残ってるでしょ。こんだけバックアップ期間もあったんだし」
「……運営移管の際に紛失してたそうです。復旧も不可」
「バカがよぉ!?」
「口が悪いですよ。……まぁ、否定はしませんが」
「3D機能入れてから、ほんっっっとーにポンコツだなぁ!? だからサービス終わったんじゃないの?」
「それも否定はしません。サーバーを落とさなかったのも、こういう万が一に備えてだったのでしょうね。で、ライブいけますか?」
「ちょっと待って。サービス終了から半年以上、いつこの世界が終わるか分からない状態でヤキモキさせられた。それに私たちにとっても、運営にとっても、何よりプレイヤーさんにとっても大事なデビュー曲のライブ映像をなくして? だから改めてライブさせよう? そんな虫の良い話がある?」
「私だって腸が煮えくり返りそうです。でも、やらなきゃいけません」
「やだ。そんなことやるくらいなら、綺麗さっぱり電源落としてもらった方がまだマシよ」
「あかり、これはIP全体のため……」
「そのIPの礎を築いてきた私たちにする仕打ちがこれ!?」
潤んだ目で、震える声で訴えてきます。あかりはアイドルが大好きで、『きらミネ』が大好きで、センターとしてみんなを引っ張ってきて……。その様子を一番近くで見てきたのですから、想いは痛いほど分かります。
「私たちが大切にしてきたものをこんな風に踏みにじられて、今までと同じように笑顔でライブできると思う!?」
「どんな時でも、どんな逆風でも、観てくれている人を笑顔にする。そう振る舞えるアイドルであるよう、何度も練習してきたはずです」
「私たち、もうアイドル辞めさせられたでしょ」
「あかり……」
「悪いけど帰って」




