03話:黙♡示♡録
学園の2階、いつもの教室は今日も空っぽで、私だけが座っています。8時に始業のチャイムが鳴りますが、鳴ったところで何も起きません。廊下に出ると広いグラウンドが見えます。野外ライブの前日は、ここに特設ステージを模したものを作って練習したものです。
更に歩くと、ダンスレッスン室、ボーカルレッスン室、収録ブースなどなど、この学園ならではの施設が並んでいます。物悲しさに身を任せてダンスレッスン室のドアを開けると、少し小さめの練習用シューズが転がっていました。学年カラーを見るに1年生用ですね。こういったシューズの片づけや床の掃除も、マネージャーの仕事だったことを思い出します。
そうそう、ミキサーのセッティングもやってました。アイドルがやらない仕事は全部マネージャーがやるというトンデモ設定でしたね。プログラミングとデザイン以外は全てプランナーの仕事に括られる……、まるでこのゲームの運営会社のようです。まあ、おかげで何でもできるマネージャーとして暮らせているので良かったです。
ミキサーに目をやると、いくつかのツマミが定位置ではありませんでした。どうせ元に戻すためにいじるなら、久々に曲でもかけてみましょうか。
初期実装の3人が組んでいたユニット『Re-Boot Glitter』のデビュー曲、『Liiight Up!!!』を流すと、3人が何度も練習していた様子が思い出されて目が潤みます。マネージャーの私とは違い、アイドルの子たちは何事も練習しないと上手にならない仕様だったので、朝から晩まで踊っていたこともありました。この曲だって何万回聴いたか分かりません。ちなみにあかりは当然『Re-Boot Glitter』のセンターでもありました。ああ、アイドル時代のあかりが懐かしい……。
他にも様々な想い出が頭をよぎります。このギターリフに合わせた振り付けが難しかったですねえ……。そして、ここで入るオケヒの音が猛烈なインパクトを……。ん? あれ、おかしいですね。こんなサイレンみたいな音、この曲には入っていなかったはずですが……。
――エマージェンシーアラート!
<無の期間>がいつ終わるのか、その予測ができないか考えた末に設定したアラートが、今初めて鳴っています。運営さんが私たちの世界、――このサーバーに対して何らかのアクションを取ったようです。
スマホのアラートを切り、持ち歩いていたノートPCを立ち上げると、現実世界の運営さんたちの様子がモニタリングできました。こういうのだってお手のもの。何でもできるマネージャーとして生んでくれて本当にありがとうございます。
サーバーを止めるにしては妙に慌ただしい彼らの動きを、これが黙示録かと固唾を呑んで見守っていたのですが……。
「これはまた、難しいことを仰いますねえ……」
なんだか今日は溜め息が多い一日になりそうです。




