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サ終済みソシャゲアイドルたちは、もうライブなんてしたくない!  作者: 空清水紗織
第01章:もうライブなんてしたくない!
3/10

02話:Daydream with You

「うーーーん」


 ベッドの上でぐーっと伸びをして目を開けると、壁に貼ったポスターのアイドルたちと目が合いました。今日も気持ちの良い目覚めです。アイドルがいる世界に生まれて良かった。いつも通り6時きっかりに目が覚めた私は、お湯を沸かし、口をすすぎ、顔を洗って保湿をし、昨日のうちに用意しておいた制服に着替え、丁度沸いたお湯でコーヒーを淹れます。なんて無駄のないモーニングルーティーン。タイムマネジメントと事前準備はマネージャーの必須スキルですからね。普段ならパンも焼くのですが……、今日はたまたま切らしてしまっていたので、朝ごはんはコーヒーのみです。まあ、こんなこともあります。臨機応変に対処するのも、また必須スキルなのです。


 7時。アイドル雑誌に目を通してのんびりと空腹のままモーニングを楽しんだら、そろそろ家を出る準備です。ここから学園までは歩いて30分ほど。8時前に着いていれば良いので少し早いですが、私には重大な使命があるため、もう出なければなりません。


 家の鍵を閉め、10歩ほど歩くと『友重とものえ』と表札のかかった隣家に着きます。


「あかり~。入りますよ~」


 玄関口の壁には、たくさんの写真が飾られています。ご両親に大切に育てられたという設定なので、子供の頃から今に至るまでの成長過程が丁寧に残されているのです。あかりの親はゲーム内では一切登場しませんが、どんな風に愛情を込めて育てていたのか、その痕跡は作り込んでいます。こうすることで、あかりというアイドルの情報量を増やし、キャラを立体化させているのですね。


 私とあかりは同学年の幼なじみなので、折々で撮ったツーショットも壁に点在しています。存在しない記憶とは言え、不思議と懐かしさを覚えるものです。……空想癖などではありませんよ?


 あかりは小さい頃からとにかくアイドルが大好きで、暇さえあればアイドル雑誌やライブ映像を見て、可愛いポーズや振り付け、視線の動きや表情などを研究している子でした。初期実装の3人のうちの1人として学園のアイドル学科に所属してからは、元からの可愛らしさに一層磨きがかかり、幼なじみの私ですら毎日その姿に胸をときめかせていたほどです。


 その努力の甲斐あって『きらミネ』全体のセンターを張っていたのが、何を隠そうあかりでした。ファイナルライブのあの日、マイクを通さずに挨拶をした感動のワンシーンも、しっかりと写真に収められています。


 そんなたくさんの写真を横目に、『きらミネ』の顔でもある、あかりの部屋のドアを開けると――。


「……パリッ、ボリッ。……ゴキュッゴキュッ。プハァ~」

 

 埃が舞い少し臭う部屋の中で、スナック菓子を摘まみながら、スマホ片手にソファで横になっているあかりがいました。


「……あ、はひひゃん、おはほ~」

「あ、蒔ちゃん、おはよ~……じゃありません。今日こそは学園に行くと言っていましたよね?」

「……ン、ン、ゴクッ。……はぁ~。あれ、言ったっけ、そんなこと?」

「言いました」

「んじゃあ、やっぱ行かな~い」


 あかりはそう言うと、たくさんの食べカスを床に零し、お尻をポリポリと掻きながらトイレに向かいました。


「……ふぅ」


 思わず溜め息が出てしまいます。

 サービス終了以来、あかりは変わってしまいました。


 多くのソシャゲはサービス終了から数ヶ月間、返金対応期間が設けられます。この返金対応が済み、諸々の手続きが終わったタイミングで、私たちの世界も閉じられる予定でした。つまり、プレイヤーさん的にはサービスが終了していても、私たちはしばらく生き続けるわけです。数ヶ月後に必ず来る終わりのために。


 この<無の期間>のことは予め分かっていたので、サービス継続時と同じように規則正しく日常を送ることをアイドル全員と相談、決定していました。そうでもしないと、とてもじゃないですが精神が持たなかったのです。裏を返すと、普段と同じように過ごすことは私にとっても、他のアイドルたちにとっても、心の安寧に寄与していたように思います。


 ですが、1ヶ月経ち、3ヶ月経ち、半年が経ったところで、どうやらおかしいぞとみんなが気付きます。待てど暮らせど、この世界が終わる兆しが見えないのです。どんなに運営さんが無能であっても、半年以上返金しているなど考えられません。仮に返金が終わっていたとしても、半年も放置しっぱなしは異常です。素材のバックアップだって、2ヶ月もあれば普通は終わるものです。


 異常に気付きはしたものの、運営さんからの連絡がない以上、私たちにはどうしようもできません。この頃にはもう、明日世界が終わるかもしれないという恐怖も薄れ切っており、規則正しい生活を送っているのは私含めほんのわずかとなっていました。学園に来ない子たちは繁華街で暴飲暴食していたり、対戦ゲームに興じていたり、一日中寝て過ごしていたりと、自由を謳歌していました。あ、男性は本当にいないので異性間恋愛はありません。色恋沙汰はさておき、アイドル時代にできなかったことを<無の期間>にやってしまおうというわけです。


 ええ、その考えは良く分かります。マネージャーとして何年も規律ある暮らしを強いてきた身としては、申し訳なさと同時に、この期間がずっと続けば良いとさえ思います。……ただ、どうしても私自身にはそういう暮らしは向いていませんでした。なので、私は今でもゲーム運営時と同じように、学園に通うことにしているのです。あかりを誘っているのも、私が寂しいからに他なりません。こんな世界でもアイドル然としてほしいと願うのは、一アイドルオタクの単なるエゴに過ぎないのです。先ほど、あかりは変わってしまったと溜め息を吐きましたが、変われない私自身への溜め息でもあるのです。


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