第03章_09話:カメラ越しのエンジェル
「まず冒頭はこう直すわ」
『ふふふっ。5周年記念のMV、オーストラリアで撮ったよね、懐かしいなあ』
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『ふふふっ。5周年記念のMV、懐かしいなあ』
「お~。ここはボイスカットしても、セリフの間も含めて自然に繋がるね」
「でしょ? で、それを受けた蒔さんのセリフは、こう」
『タイトなスケジュールなのに、あかりがコアラ見たいと駄々こね始めたときは、どうしようかと思いましたよ』
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『タイトなスケジュールなのに、あかりが色々見て回りたいと駄々こね始めたときは、どうしようかと思いましたよ』
「抽象的な内容にすることで、広めのニュアンスを持たせたわ」
「これなら、この後の展開にも響かないね。じゃあ次の私のセリフは、さっきみたいにまるっとカットでいける?」
『だって、海もほとんど入れなかったし、全然観光っぽくなかったんだもん』
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『だって、全然観光っぽくなかったんだもん』
「良いわね、違和感なく繋がるわ。次の蒔さんのセリフはそのまま生かしで良さそうなんだけど、そのあと『サザンクロス』の辺りがちょっと悩むわねえ」
「うーーーん、何か他のものを見たことにして、蒔ちゃんの『綺麗でした』に繋げられると良いんだけど……」
三人全員で首をひねりますが、なかなか良い案が出てきません。そうこうしているうちに、窓から朝日が差してきました。
柔らかな日の光に照らされるあかり。その姿を見た瞬間、数日前、初夏の陽光を浴びたあかりに思わずドキッとしたことを思い出しました。
「……あかり」
「え、なに、蒔ちゃん?」
「……普段とは違う景色で見るあかりは、とても綺麗でした……」
「や、ちょっと、なにもう急に。照れるじゃ~ん」
『そうだけどさ。でも夜の撮影でサザンクロス見えたのは嬉しかったよね!』
『ええ、あれは本当に綺麗でした』
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『そうだけどさ』
『ただ……、普段とは違う景色で見るあかりは、とても綺麗でした』
「これならどうでしょうか!?」
「なんだ、代案の話か……」
「良いわね、蒔さん! 海外の思い出話だし、『普段とは違う景色』っていうのも合うわ! ただそうすると、そのあとの『蒔ちゃん』という語り掛けが、ドラマチックな展開を引き継げてないわね……」
「……じゃあ、私があんたに散々怒られた『蒔ちゃん……! 好き!』のボイスから引っ張ってくるのは?」
「あかり天才! ボイスカットはアタシがするわ。その間に二人で、細かいポーズや動きの調整できる? 倍速機能が使えないから、多分本番一発勝負になるけど、いけるわよね?」
「誰にしごかれたと思ってんの。やるしかないんでしょ? じゃあ、あとはやるだけよ」
頼もしく返すあかりと、誇らしそうに頷くマコさん。
――そして5分後。
ボイスカットも、動きの調整も完了して、いよいよ最後の撮影です。
「それじゃ始めるわよ。……アクション!」
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『ふぅ、なんだか怒涛の忙しさだったね』
『海外ロケ以来の慌ただしさでしたね……』
『ふふふっ。5周年記念のMV撮影、懐かしいなあ』
『タイトなスケジュールなのに、色々見て回りたいとあかりが駄々こね始めたときは、どうしようかと思いましたよ』
『だって、全然観光っぽくなかったんだもん』
『観光ではなく撮影ですから』
『そうだけどさ』
『ただ……、普段とは違う景色で見るあかりは、とても綺麗でした』
『蒔ちゃん……! また一緒に行こうね。私、頑張るから!』
『はい! 一緒に頑張りましょう!』
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――つい数分前に調整したとは思えないほどにあかりの演技は淀みなく、カメラ越しの彼女につい見入ってしまいました。
「カッーーート! 完璧よ、あかり!」
「ふふん。やればできる子だから、私」
「スクリプトにもできたわ。蒔さん、これを矢作さんに渡して!」
「ありがとうございます。適当にフォローも入れて渡しておきますね」
オフにしていた通知を戻すと、別れを切り出された恋人のような、夥しい量のメッセージが来ていました。
思わず苦笑しながらも、それらしいメッセージを添えて、完成版スクリプトを送信するのでした。
『お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。あなたの仰るとおり、即時レスポンスするのが私の務めでした。ですが、ご安心ください。収録ミスもカバーした、**最高のスクリプト**を作成しました。これをStg環境でデバッグし、本番環境にマージしましょう。もしよければ、テキストやポーズの変更差分も出すことができますが、どうしますか?』




