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サ終済みソシャゲアイドルたちは、もうライブなんてしたくない!  作者: 空清水紗織
第03章:サ終済みソシャゲアイドルたちは、もうゲーム運営なんてしたくない!
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第03章_07話:必殺せいそポーズ

「ま、まきちゃん。すき」

「カットカットカーット! さっきのアドバイスもう忘れたの!? もう一回やるわよ!」

「お、鬼監督……」


 メガホン片手に怒声を飛ばす、まるで昭和なマコさんと、苛烈な指導にぐったりしているあかり。『Re-Boot Glitter』のお話なので恋詠さんと澪さんも来ていますが、やはり少しお疲れの様子です。


「コラ、あかり! あかりはそんなガサツなポーズしない! 『蒔ちゃん……! 好き!』ってセリフは、もっと明るい、清楚なアイドルをイメージしてポーズを取りなさい!」

「い、イメージというか、明るく清楚なアイドルそのものなんだけど……」

「つべこべ言わない! そして何その腕の動き! もっとしなやかに動かしなさい! こういうところでキャラブレするのが一番醒めるのよ!」

「うへぇ……」

「あかりさんも大変ですねえ……」

「澪、恋詠! あなた達は出てくる場所が違う! 澪は左からで恋詠は右から! 前のシーンとの繋がりを考えて、立ち絵がどう出てくると違和感ないかを意識しなさい!」

「あ、はい……」


 キャラの背が高い方の立ち絵を画面右側に配置したり、ライブでの自己紹介順に並ぶようにしたり、スクリプターの中には自分ルールを持っている人が多いのです。拘りが強くないとできないお仕事ですね。


「あーかーり! カンペ見たって良いし、棒読みなのは百歩譲って構わないから、せめて身体表現に感情は込めて演技して!」

「5分……! 5分で良いから休憩させて……。これじゃ身体動かないって~」

「3分!」

「ひぃん……」


 今はまさに、スクリプトに落とし込むためのドラマパートの撮影中。


 昨今のソシャゲの多くには、遊びのメインであるバトルや探索のほかに、ノベルゲームのように物語を楽しむ機能も実装されています。『きらミネ』ではドラマパートと呼んでいました。イベント自体がシナリオ形式のものもありますし、あとはカードのレベルを上げると読めるものが多いですね。


 ちなみに、セリフウィンドウにテキストを表示したり、立ち絵の動きの指定、背景、BGM、SEなどの設定をするお仕事のことを「スクリプト」とか「演出」などと言い、その担当者を「スクリプター」や「演出さん」なんて言ったりするのです。


 収録スタジオの片隅で座っていると、休憩に入ったマコさんがやって来ました。


「よいしょっ……と。お疲れ、蒔さん」

「椅子どうぞ、マコさん。お疲れ様です。あかりへの指導、気合入ってますね」

「そりゃあね。曲がりなりにもウチの顔なんだし、ヘタな演技させられないでしょ。それに、こんなところでプレイヤーさんが持つあかりの印象を変えたくないし。あかりは、見た人がきらめきを感じるようなアイドルなの。そこだけは何があっても絶対にブラしちゃいけないの。……ただまあ、現時点であかりのボイスがないのはやっぱしんどいなあ」


 すっかり職人の顔になったマコさんが、背もたれに身体を預けて、んーっと伸びをします。


「どんな間で、どんなトーンなのか分からないと、演出プランも立てづらいですもんね」

「ほんっとーに。まあでも、ボイスの遅延でスクリプトが滞ってるソシャゲなんて山ほどあるでしょうし、こればっかりはしょうがないね」

「そんなにあるんですか」

「ありまくりよ!」


 ……急にスイッチが入りましたね。纏う空気が一瞬でイライラモードに切り替わったのを察知します。


「いい? シナリオを元にして立ち絵とかの発注をするんだけど、ボイス付きの場合は当然ボイス発注もするわ。で、往々にして遅れるのがボイスなわけ。声優さんのスケジュール確保だけじゃなくて、収録スタジオや音響ディレクター、立ち会いのシナリオライターのスケジュール確保にも時間がかかるし、収録後の整音やボイスカットにだって手間暇かかってる。それを見越して早めにシナリオを上げても、声優さんが売れっ子さんの場合は、大事なアニメや音楽ライブの前後で喉のケアが必要だったりして、ゲーム収録は後回しにされちゃうの。それにウチみたいなIP内での力が弱いゲームは、なるべく費用抑えるために、ラジオとかネットCMとかとの抱き合わせ収録にされることも多い。これはね、誰が悪いって話じゃないの。どれだけスケジュールに余裕を持ったところで、ビジネスの優先度には敵わないって話なの……。あーもう、毎月1,000億稼ぐタイトルだったら良かったのに!」

「た、大変なんですね……」

「大変なんてもんじゃないわよ! スクリプトは大抵の場合が下流工程。世のスクリプターさんは『早くボイス来て!』って祈りながらリリースの直前まで作業をしているの。ボイス無しでのデバッグだってしょっちゅうよ。よっぽど変なボイスじゃない限り微調整で済むとは言え、ボイスが来る前から演出プラン考えるのだって物凄い頭使うんだから。もっと労わってあげてほしいわ」


 持っていたメガホンをぎゅっと握り直し、休憩中のあかり達を見つめるマコさん。苛立つ口調とは裏腹に、その瞳には光が宿っています。


「スクリプト……好きなんですね」

「……こういうノベル系のゲームは紙芝居なんて揶揄されることもある。私が好きな美少女ゲームもね。でも、立ち絵の動き、背景の切り替え、BGMやSEの選定で色んなことができる総合芸術でもあるの。どんなにシナリオやスチル、声優さんの演技が良くても、最終的にそれを生かすも殺すもスクリプト次第。飽きてタップの指が止まるんじゃないか。立ち絵やモーションの選定はキャラブレしてないだろうか。そういうことを意識したうえで、どこまでプレイヤーさんの心を揺さぶれるのか。それを常に考えなきゃいけないシビれる仕事なのよ」


 そう言いながら立ち上がると、


「今回のシナリオ、突貫で作られたって聞いてたけど、それでも限定復活に相応しい内容だった。スチルのクオリティも高い。ボイスはまだ来てないのが多いけど、きっと心を揺さぶるものが納品されるはず。それに『Re-Boot Glitter』がメインでしょ。アイドルらしさが詰まった最ッ高のユニットよ。となったら、鬼監督だの何だの言われようと、やっぱスクリプトも頑張らなくちゃね」

「……ええ、そうですね」

「てなわけで……。あかりー! もう3分経ったから再開するわよ!」

 

 ニカッと笑いながら、鬼監督の風貌を見せつけるのでした。


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