第02章_09話:ラッキー臀部
椎那さんのアナウンスに合わせて飛び出してきた莉里さんは、小悪魔系らしくパープル系をベースにしたフリフリの水着でした。カチューシャ、チョーカー、ガーターリングと、小物系で可愛らしさを出しているのも莉里さんらしいです。
登場の仕方は普通ですが、果たして……?
「良いですか、みなさ~ん? 胸で挟むだの、全裸に見えるだの、そんな生ぬるいアピールはもう飽き飽きですよね? みなさんが見たくて見たくてしょうがないもの。それはずばり……モザイクの向こう側ですよね!」
「「「おおおおおおおお!!!!!」」」
……なんだか怪しくなってきました……。そんな私の心配をよそに、莉里さんは拳を掲げながら演説を続けます。
「何が隠されているのか、見たいですよね? 『こうすればモザイク外れるよ?』みたいな都市伝説に振り回されちゃいますよね? その気持ち、莉里もすっごく分かるよ。顔の前で両手を広げて、指同士を素早く交差……、そうすればモザイクが外れて見えるなんていう噂を信じて、試して、何も変わらなかった時の絶望……!」
お客さんロボも神妙な顔つきで頷いています。……え、皆さんそんなことしてるんですか……?
「失意の淵にいた時、ふと考えてみたのです。そもそもモザイクで隠されてしまう部位に共通しているのは何でしょう? ――そう、粘膜です! 柔らかくって、湿ってて、普通に暮らしてたらなかなかお目にかかれない……。でも、莉里、気付いたんです……! これに当てはまる部位がある! 合法的にみなさんに見せられる場所があるんです!」
そう言うと、喉の奥まで見えるくらい口を広げて叫びます。
「モザイクなしで見られるアイドルの粘膜、それが口内なのです!!!」
「「「うぉおぉぉおおおあおおあおおあおおあああああ!!!!!!!!!」」」
莉里さんが、あーーーと大きく口を開けて妖艶に舌を突き出すと、会場のボルテージは最高潮に達しました。スクリーンは情欲をそそるベビーピンクに覆われ、艶めかしい光沢がてらてらと揺れています。
これにはあかりも巒さんも立ち上がって、
「ちょっと! これは流石にNGでしょ!?」
「やりすぎですわ! スクリーンの映像も消しなさい!」
「やめませんよ~! えぁぁぁ~~~」
二人の抗議を無視して、寧ろ更に煽るように口腔内を見せつけます。
「カメラ! カメラはどこで管理してんのよ? ――そこね!」
あかりがステージ上を見回して、放送席を見つけます。あぁ、この席のすぐ近くで中継カメラは操作していましたね……。
「放送席の三人! 今すぐそのカメラなんとかして!」
「い、いやいや! いくらあかりんの頼みでもそれは無理っしょ?」
「そうですよ、あかりさん! ルール的には不正じゃないですし、あかりさんだって人のことを言えるような演出じゃなかったですよ!?」
「私はまだ健康的だったけど、粘膜はエロすぎるって! こんな見せつけ方、アイドルのやり方じゃぁない!」
そんなあかりの叫びに呼応するように、巒さんも、
「誰も中継を止めないというのなら、わたくしが止めに参りますわ!」
そう言いながら、こちらに向かって走ってきます。莉里さんもそれに気付き、妨害を阻止しようと必死です。巒さん、あかり、そして莉里さんの順に走ってくるアイドル三人。水着姿で近付いて来るという、字面だけなら大変素晴らしいシチュエーションですが、これでは第三部、ひいては人気投票企画自体がご破算です。
「三人とも止まりなさい!」
両腕を広げての私の警告も虚しく、目の前でドタバタと暴れる三人。水着を掴み合い、髪を引っ張り合い。こんな醜態を晒しながらアイドルとしての人気を競おうだなんて、これではファンの皆様に申し訳が立ちません。
「いい加減に……!」
そう語気を荒げながら、殴り合いを止めようと一歩踏み出したところ……
「――あっ」
あかりの演出で撒いた水が乾ききっておらず、足を滑らせます。バランスを崩した私の後ろには、三人の喧嘩をより近くで映そうとしていたカメラがちょうど近付いて来ていて……。
――ドシン! ……ペロン。
「……いったぁ……」
「ま、蒔ちゃん……!」
「ま、まぁ……!」
「はわぁ……!」
尻もちの痛みに閉じた目を開いていくと、先ほどまで争い合っていた三人が、私とスクリーンを交互に見ています。
お尻をさすると、妙にツルッとしていて、まるで素肌のような……。そしてスクリーンに映し出されているのは妖美なベビーピンクから、うすだいだいの桃に変わって……。
「……さっきペロンって……」
尻もちをついたまま振り返ると、中継用のカメラを下敷きにしてしまっていました。恐らく滑った拍子に水着が脱げてしまい、そのままカメラを巻き込んでしまったのでしょう。
――ということは、今、会場のスクリーンに映っているのは……。
「ま、ま、蒔ちゃんのお尻が……!」
震えながら私を指さすあかり。
「……あ、ああっ……、い、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「「「うおおおおぉおぉおぉおぉおぉおおおおぉおぉぉぉおおお!!!!!!」」」
私の絶叫に被さるファンロボットの歓声。
直後、なぜかそのまま投票フェーズに切り替わり、集計されていく票数。
莉里さん、あかり、巒さんの順に追い抜いていくのは、私の名前……。
「み、みおっち! これは何が起きているのか、解説っ……!」
「……! た、確か第一部始まる前に巒さん言ってましたよね!? 『アイドルであろうとなかろうと参加資格はある。ファンロボットにも、アイドル以外の人間に投票できるよう設計してもらっている』って……! それが適用されて、生尻でアピールした蒔さんにも票が……!」
――ジャッジャジャジャーン! 1位! 茉菜辺 蒔! オメデトウ!!!
機械音声のナレーションが、私の優勝を告げます。
「い、いやぁ、やっぱ蒔ちゃんは凄いなぁ……。ね、ねえ、巒、莉里?」
「え、ええ、そうですわ。マネージャーもこのように評価される時代になったということですわ!?」
「お、お尻ならモザイクも要らないですもんね! さすが蒔さんです、敵わないです~、あはは……」
そそくさと退散しようとする三人。さて、どう落とし前を付けてもらいましょうか……。
すっくと立ちあがると、反比例するように三人はへたっと床に座り込みました。一体何に脅えているのでしょう、ふふふ……。身を寄せ合いながら震える三人の方へ歩みを進めます。
「こ、これは事故だから……!」
「どうか落ち着いてくださいまし……!」
「あわ、あわわわわ……」
「あっちゃー、これは久々にマッキーの雷が落ちるかぁ……?」
「まぁ、自業自得と言っても過言ではないですし、久しぶりに鬼マネージャーモードの蒔さんに絞られるのも良いんじゃないでしょうか……」
冷静な実況と解説のおかげで、すべきことがはっきりとしました。
「あかり。巒さん。莉里さん」
熱気に包まれた会場と、私の口から冷たく零れる言葉。
青ざめる三人の顔。
その三人が声を震わせながら叫びました。
「「「も、もう、人気投票なんてしたくなあぁぁぁい!」」」
2026/02/10追記
今回もここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございます。
また近いうちに更新できればと思います。




