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サ終済みソシャゲアイドルたちは、もうライブなんてしたくない!  作者: 空清水紗織
第02章:サ終済みソシャゲアイドルたちは、もう人気投票なんてしたくない!
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第02章_01話:年上のお嬢様

02/06 22:50頃追記

お久しぶりです。


02/10 までの間、少しずつ更新していきます。

この第02章は、02/10 の 21:00 に完結予定です。


楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

「モザイクなしで見られるアイドルの粘膜、それが口内なのです!!!」


 莉里さんが、あーーーと大きく口を開けて妖艶に舌を突き出すと、会場のボルテージは最高潮に達しました。


 あぁ、どうしてこんなことになったのでしょう……。


***


「今日もお疲れ、マッキー!」

「お疲れ様です、椎那さん。今日もお手伝いありがとうございました」

「いいっていいって! ウチは楽しくてやってんだし! 壁のペンキ塗りとか滅多にできないじゃん?」


 つなぎを着ているにもかかわらず、椎那さんからは明るいギャルのオーラがビンビンと発せられています。薄く塗ったギャルメイクの上にはペンキが跳ねていて、文化祭前日の準備が終わったときのような、爽やかな達成感がありました。夕陽に照らされた首筋には汗が浮かんでいましたが、それなのに澄んだグレープフルーツのような香りがふわっと鼻をくすぐってきて、これが陽の者なのかとドキドキしてしまいます。


「てか、マッキーって水道管の工事とかもできんだね。そのうちMの帽子とか被ってそう。マネージャーのMとイニシャルのMで揃ってっし!」

「アイドルのお世話で手一杯なので、お姫様の救出はご勘弁願いたいですね……」

「あははっ! 確かに~。いつも迷惑かけてばっかだったしな~」

「あ、いえ、そういう意味で言ったわけでは……」

「ダイジョブ、分かってるよ~。みんな鬼マネージャーとか言ってるけどさ、口にしないだけでマッキーには感謝してるって! じゃ、また明日学園で!」

「はい、また明日」


 メモリアルムービー用の撮影が無事終わった翌日から、恋詠さんとの約束どおり<1/10倍速>の生活が始まりました。現実時間では3日でしたが、私たちの体感としては1ヶ月。この間、様々なものがサーバー負荷に耐えられず壊れていきました。


 アイドルたちが暮らすそれぞれの家だけで言っても、トイレ、ドライヤー、電子レンジ、お風呂、オーブン、洗濯機……。強いと言われていた日本家電がこんな終末世界で壊れていくのを見るのは、何とも不思議な気持ちになります。


 そして当然、アイドルたちからも夥しい量の苦情が来ました。ある程度覚悟はしていましたが、予想以上のクレームで疲労困憊。そんなときに手伝いをすると言ってくれたのが棚鳥たなどり 椎那しいなさんでした。


 翌朝。

 学園のミーティングルームで待っていると、いつもどおりの時間に椎那さんが来てくれました。


「マッキーおっは~!」

「おはようございます」


 ビーズでデコられたスマホで予定表を見ながら、


「えーっと今日は……っと。みおっちの家の修理かな?」

「はい。と言っても、澪さんはこの時間ダンスレッスン室にいるので、練習が終わってから一緒に向かおうかなと」

「みおっちも真面目だね~」

「毎日来てくれる椎那さんも真面目だと思いますよ」

「へへへっ。家で退屈してるより、カラダ動かしてる方が楽しーじゃん?」


 ニッと笑うと白い歯が覗いてとても健康的です。椎那さんさんの裏表のない真っすぐな明るさは、『きらミネ』でもプレイヤーさんに好かれていました。


「あれ、そーいえば今日はあかりんも一緒じゃなかったっけ?」

「ああ、あの子は……」


 ガラッとドアが開き、ぜえぜえとだらしなく息を切らしたあかりが入ってきます。


「はぁ……はぁ……、寝坊したのは悪かったけどさ……、起こしに来といて置いていくことは、ないんじゃない……?」

「時間厳守は絶対です。10分遅刻なのでおやつ抜きですね」

「だぁぁぁ~! クッソ、今日もかよっ!」


 ガニ股で地団太を踏む様子はとてもアイドルには見えませんが、裏表しかないというのも、これはこれでギャップがあって良いものです。


「あははっ。あかりん、マッキーにおやつ禁止されてるんだ」

「ムービーの撮影以来、ずっと管理されてんの。もーやだぁ」

「いつ次が来るか分からないですからね。せめて自己管理くらいはできるようになってください」

「あーあー、小言はもー聞きたくなーい」

「とか言って、なんだかんだマッキーの手伝いに参加してくれるんだから優しいじゃーん」

「いえ、これは先週お部屋のお掃除をサボった罰としての奉仕活動です」

「あたしゃアメリカの犯罪者かよ」


 そんな話をしていると、カツカツと規則正しい足音が響いてきました。


「お邪魔しますわ」


 ピンと伸びた背筋。ふんわりとウェーブがかかった髪。膝下で広がるフレアスカートは歩調に合わせて優雅に揺れています。


「あ、ランラン! おひさ~」

「うわ……。お嬢様がわざわざこんなところまで何の用ですかー?」


 あかりが露骨に嫌そうな顔を向けたのは、秋沙あいさ らんさん。『きらミネ』の世界では時価総額TOP10に入る企業、秋沙グループの跡取り娘で、学園3年生のアイドルです。もうこのサーバーにはお付きの者や使用人さんはいませんが、それでも毅然とした見た目や振る舞いを保っていられるのは、やはり彼女が次期リーダーとして英才教育を受けてきたからでしょう。庶民とは異なる発想をすることもしばしばですが、型破りで個性的なアイデアは、アイドルとしての煌びやかさにも通ずるものがあります。


「お久しぶり、椎那さん。あかりさんも素敵な歓迎嬉しいわ」


 ……軽やかな皮肉も薫陶の賜物なのでしょうね……。


「ごめんなさいね~、お茶とかお出しできればもっと素敵な歓迎になったんでしょうけど、ここには用意がなくって~」

「構いませんわ。お茶菓子もないのにお茶だけ出されても困りますし」

「「ふふふふふ」」


 この二人はずっと反りが合わないと言いますか、お互いをライバル視しているので、顔を合わせるとすぐこうなってしまうのです。巒さんも所属してるユニットではセンターですし、似た者同士仲良くすればいいものを……。

 不毛な争いに発展する前に止めるべく声をかけます。


「巒さん、おはようございます。そしてお久しぶりです。巒さんは<1/10倍速>の被害はありませんでしたか?」

「ご無沙汰しております、蒔さん。ええ、多少不便はしてますが、修理を依頼するような被害は今のところありませんわ」

「それは良かったです」

「ただ、それに関連して提言したいことがありましたので、ここにお邪魔したのです」

「被害なかったんなら、何が不満なのよ」


 巒さんは、つっかかるあかりに軽く溜め息を吐いて、


「不満ではなく提言と言いましたでしょ? <1/10倍速>ですが、誰か一人の要求を叶えるために使うというのは、不公平ではないかしら」

「だからあれは蒔ちゃんも説明したけど、そもそも運営がデータなくしたせいなんだって。恋詠さんに急な撮影を納得してもらう必要があって、それとの引き換えなの」

「致し方なかったのは分かります。ただ、我が儘を言えばそれが罷り通って、それで倍速機能を使えてしまうというのは、あまり良いことではありませんよね?」


 巒さんが言っていることはもっともです。私は頷き、


「あの場ではああ約束するしかなかったとは言え、全体への影響を考えたらもっと考慮すべきでした。申し訳ありません」

「いえ、使ったこと自体を責めたいのではありません。この間のような前例が生まれた以上、他にも使いたい方がいるのに、使える機会がないということの方が不公平だと、わたくしは考えます」

「ふーん。じゃあ巒も使いたいんだ」

「もちろんです。そして、その機会を皆に平等に与える策も考慮してあります」

「へー、どんなの?」

「そんなの簡単ですわ」


 得意げに口角を上げる巒さん。


「アイドルならアイドルらしく……」


 ああ、そうでした。こういうときの彼女は庶民とは異なる発想を……型破りで個性的な…………端的に言って甚だ面倒くさいことを言い出すときなのです。とても嫌な予感がします……。


「――人気投票で決めれば良いのです!」

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