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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最弱の俺が【疫災捕喰者(デバフイーター)】に覚醒して最強になるまで

作者: 結城 からく

 俺は目の前の惨状に呆然としていた。

 恐怖で呼吸すら忘れて震える。


「嘘……だろ……」


 A級のリーダーが【火傷】でのたうち回っている。

 右腕に至っては炭化しかけているので、もう剣は触れないだろう。


 同じくA級のサブリーダーは膝をついて吐血していた。

 たぶん【猛毒】を浴びたのだろう。


 大盾を持ったB級の戦士は、全身から【出血】して倒れている。

 白目を剥いて痙攣しているので早く処置しなければ手遅れになりそうだ。


 軽傷者の大半が【睡眠】で意識を失うか、【麻痺】で動けなくなっていた。

 手足が【凍結】している者も少なくない。

 酷い者は【石化】して彫像のようになっていたり、【混乱】して仲間同士で殺し合っている。


 万全な数十人の探索者が一瞬で壊滅した。

 それも一体のモンスターに負けた。


 広い空間の奥には、異臭を漂わせる紫色の巨躯が鎮座していた。

 濁った瞳に大きく鋭い牙。

 鱗に覆われた身体は粘液に塗れている。

 黄色い吐息を吐き散らし、身動きするたびに胞子状の何かを飛ばしていた。


 そのモンスターは疫毒の竜——SSS級モンスターである。

 本来、B級ダンジョンにはおらず、最難関ダンジョンの奥にいるような存在だった。


「くそ、どうして……」


 たまたま最後列にいた俺は、辛うじて無事だった。

 今なら逃げ出せる。

 すぐ後ろにある扉から飛び出して、ただ全力で出口に向かうだけでいい。


 そもそもFランク探索者の俺に勝ち目などないのだ。

 ここで立ち向かっても犠牲者が一人増えるだけである。

 地上に戻って報告し、これ以上の被害を抑えるのが最善の行動だろう。


 しかし、身体が動かない。

 俺は無意識に他の探索者を見回していた。


(見捨てても、いいのか?)


 俺が逃げれば、ここにいる全員が死ぬ。

 それは間違いない。

 今は疫毒の竜が油断して何もしてこないが、追撃が来れば確実に終わりだ。

 それだというのに、俺は彼らを置き去りにしようとしている。


「——いや駄目だろッ!」


 俺は衝動的に叫んで前に駆け出した。

 その際、唯一持っているスキルの【自己犠牲】を発動させる。


 このスキルは、範囲内にいる味方の状態異常を肩代わりするというものだ。

 副次的な効果として、あらゆる状態異常に耐性と自動回復が発生するが、数十人分のデバフの前では焼け石に水だろう。

 俺は壮絶な苦痛を伴って死ぬことになる。


(でもやるんだ! 全員救ってみせるッ!)


 威勢よく走り出した俺だが、すぐに足を止めた。

 雪崩れ込んできた無数の状態異常で身体の自由が利かなくなり、そのまま地面に顔を打って倒れた。

 ありえない量の血が目や鼻や口、あらゆる穴から溢れているのが分かった。

 内臓もひっくり返ったように気持ち悪い。

 この世の物とは思えない苦しみが全身を貫くが、俺は必死に意識を繋ぎ止める。


(まだ倒れるな……死ぬなら全員を助けてからだ!)


 とにかくスキルを使い続ける。

 状態異常が回復すれば、脱出できる者が出てくるかもしれない。

 一人でも多くの人間を救うんだ。

 Fランクの俺にできる役割などこれくらいしかないのだから。


 そうやって永遠にも感じられる地獄を味わっていると、脳内に無機質な声のアナウンスが響き渡った。



[スキル【自己犠牲】が規定レベルを超過しました]

[スキル【疫災捕喰者デバフイーター】に進化しました]



 これまでの苦痛が嘘かのように身体が楽になる。

 なんと平然と立ち上がることができた。

 別にスキルを中断したわけではない。

 膨大な量の状態異常を制御し、体内で密閉管理している……そんな感覚だった。


(スキルが進化した……?)


 俺は現状が信じられずに固まる。

 一方、疫毒の竜はこの展開が気に入らないらしい。

 しゃがれた咆哮を上げると、極彩色のブレスを放ってきた。


 俺は直感に従ってブレスに片手をかざす。


(大丈夫だ、たぶん)


 ブレスが集束し、手のひらに吸い込まれるようにして消えた。

 俺はその手で竜を指差す。

 次の瞬間、同じ色の光弾が発射されて竜に命中した。


 疫毒の竜は途端に転倒して喚き出す。

 口から泡を吐いて苦しんでいた。

 状態異常だ。

 あらゆる状態異常に100%の耐性を持つはずの疫毒の竜が状態異常になっている。


 竜の身体が端からパキパキと乾燥して【石化】していく。

 動きがさらに荒々しくなっていた。

 必死に抗っているようだ。


「怖いか? それが状態異常の苦しみだ」


 俺は竜に歩み寄り、ただ全力で殴る。

 衝撃が広がり、疫毒の竜の全身が粉々に砕け散った。

 俺は大きく息を吐いて振り返る。

 状態異常から回復した探索者達が、俺に注目して喝采を上げていた。

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