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元旦の微熱

作者: おーえん

たまには恋愛モノも書きたくなりました

 寒さが肌にしみる日だった。買い物帰り、繁華街を歩いていると、風が私の足元を冷やしていく。おしゃれを優先して、いつものようにミニスカートを選んだけれど、歩いているうちに寒さがじわじわと忍び寄ってきた。それでもファッションにはこだわりたい。

 そんなとき、ふと声をかけられた。振り返ると、少し年上かな、と思う男性が立っていた。彼の顔はどこか落ち着いていて、穏やかな雰囲気が漂っていた。私が何も言わないうちに、彼は控えめな笑顔を浮かべて、「こんにちは」と話しかけてきた。声のトーンが柔らかく、特に警戒する理由も感じなかった。


 声をかけられ、少し驚いたけれど、自然と会話が始まった。その瞬間、なぜか違和感なく彼と話している自分がいた。あまり特別な感情はなかったけど、どこか親しみやすさがあり、そのまま流れでLINEを交換することになった。正直、そのときは特に深く考えることもなく、ただの一瞬の出来事だと思っていた。

 そのまま別れて、また自分の生活に戻っていった。数日が過ぎ、あの出来事も私の中で薄れかけていたけれど、ある日突然、彼からメッセージが届いた。


「また会おうよ。」


 短い一言だったけれど、妙に気軽で、自然に感じた。それに、私も予定が特にあったわけじゃないし、どうせなら誰かと過ごすのもいいかな、と思った。まさか元旦に会うことになるとは思わなかったけど、予定のないお正月はただ一人で過ごすより、彼と過ごす方が面白いかもと思えた。



 元旦の昼、待ち合わせ場所は繁華街の中心にあるカフェ。いつもは賑やかな通りも、この日はどこか静かで、少し不思議な雰囲気が漂っていた。周りの店はまだ閉まっているところが多く、あちこちで「臨時休業」の看板が目についた。


 カフェに入って、彼と向かい合った。あの日声をかけられたときは、正直あまり深く考えていなかったけれど、こうして再び顔を合わせると、意外とリラックスできる雰囲気を持っている人だと気づいた。彼は特に派手な感じもなく、むしろ少し控えめな感じ。でも、その落ち着いた雰囲気が逆に心地よかった。


 会話は自然に始まった。最初はたわいもない話題だったけど、少しずつお互いのことを話し始めた。東京に来てからの生活や、最近実家に帰れていないこと。普段はあまり人に話さないようなことも、彼の前では少しずつ打ち明けていた。彼は特に大きなリアクションを取るわけでもなく、ただ静かに私の話を聞いてくれていた。


「東京の男って、なんか冷たいんだよね。」


 自然とそんなことを口にした。彼がどう反応するか気になったけれど、彼はただ静かにうなずいていた。東京という場所はどこか孤独で、誰もが自分のことしか考えていないように感じてしまう。そんな中で、彼とこうして話していると、少しだけその孤独感が和らいでいく気がした。


 二人で話しているうちに、ふと高校時代の恋愛の話になった。あの頃は、好きな人のことを考えるだけで胸が高鳴って、何もかもが新鮮だった。そんな話をしていると、私たちの間に少しずつ温かい空気が流れ始めた。


 飲み物を飲み終わって、カフェを出る頃には、すっかり打ち解けた感じになっていた。彼がさりげなく手を差し出してきたとき、私は少し迷ったけれど、その手を取ることにした。寒さの中で彼の手は冷たかったけれど、その冷たさが妙に安心感を与えてくれた。


 彼の家に行くことになった。初めて会ったときのことを思い出すと、こうして彼と一緒にいるのが不思議な感じだったけど、それが悪いことだとは思わなかった。むしろ、私には今、彼が必要なのかもしれない、と感じていた。


 彼の部屋に着くと、映画を見ることにした。お互いに無理に何かをするわけでもなく、ただソファに座っているだけ。それが逆に心地よかった。彼の隣にいると、少しずつ距離が縮まっていって、気づけば自然と彼に体を寄せていた。彼は何も言わず、そのまま私を受け入れてくれた。


 映画を見ながら、ふと自分が彼に甘えていることに気づいた。どこか寂しかった心が、彼に寄り添うことで癒されていくような気がして、私はさらに彼に近づいた。


 夜が近づいてきても、私たちはそのまま一緒に過ごした。外に食事に行くのも億劫だったし、元旦という特別な日なのに、ほとんどの店が閉まっている。結局、二人で近くのスーパーに行って、軽く食べ物を買い込んで戻ってきた。彼のダル着を借りて、二人で買い物をしていると、まるで昔からのカップルのように見えたかもしれない。


 けれど、本当はつい最近知り合ったばかり。私たちの関係は一時的なものだとわかっていた。だからこそ、この瞬間が余計に特別に感じられたのかもしれない。


 夜が更ける頃、彼は「用事がある」と言って、別れを告げた。私もそろそろ帰らなきゃ、と思っていたけど、心のどこかで少しだけ寂しさを感じた。それでも、私は笑顔で「ありがとう」と言って、彼に別れを告げた。この関係は短いものだったけど、それでも確かに、私は彼と繋がっていた。あれ以来、彼とは会っていない。



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