第1章完結SS『迷探偵白崎の迷推理』
俺たちは高校生探偵だっ!!
赤い夕焼けの中、俺と赤城はとあるラーメン屋へ入った。
半個室のテーブルに座った。店員がお冷を携えてやってきたものだから、俺はメニューを見ずに注文した。赤唐辛子ラーメンバリカタスープ濃いめだ。トラウマのあるラーメンだが、今日のために俺は激辛料理でトレーニングを行ってきた。だから、一瞬で食べきるのも簡単だろう。ついでにトッピングとして唐辛子倍盛りもしておこう。
僕がそう決意すると、赤城が店員へ言った。
「えー、じゃあ僕は白葱ラーメンでお願いします」
赤城が注文するが、俺は待ったを掛けた。
「ちょいまち。ここでは麺の硬さとスープの濃さも選べるんだぜ」
「……なるほど、白崎くんは物知りだね。それなら硬さは柔麺で、スープは薄めで」
店員が注文を繰り返す。
「赤唐辛子ラーメンバリカタスープ濃いめ、追加トッピングの唐辛子倍盛り。白葱ラーメン柔麺スープ薄めですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか」
マシンガンのように早口で飛んでくる言葉に頷くと、次の瞬間、テーブルの中心がパカリと開いた。何と、中から二つのラーメンが出てきた!
先進的な店だ。そう思いながら、俺はラーメンの器を持つと、大口を開けた。そしてピンクの悪魔みたいに吸い込む。ずるずる。辛いが旨い。能力のコピーだってできそうだ。ふうっ、と汗を拭う。僅か五秒での完食だ。どうやら最速のタイムレコードみたいで、店員からトロフィーを貰った。部屋に飾るとしよう。すると、赤城が俺の手を握り、ぶんぶんと上下に振る。
「す、凄いね白崎くん。世界で最も辛いラーメンを平らげたよ。尊敬しちゃった、僕を弟子にしてよ!」
「いや、尊敬するほどでもないさ。俺ほどになると簡単なもんだ」
とはいえ、赤城を弟子にするのはいいかもしれない。彼は伸びしろがあるし、能力も高い。ホームズとワトソンである。もちろん、俺がホームズで赤城がワトソンである。ぐへへ。
俺と彼の二人で様々な難事件を解決する、俺がそんな様子を脳内で繰り広げていた時。
どさり、と。
隣でラーメンを食べていた女性客が倒れた!
「なんだ、なんだ! こ、これは毒殺だ!」
赤城が叫ぶ。倒れた客はぴくぴくと痙攣し、口内から泡を吹いていた。そして急に血を吐き、ぱたりと動かなくなった。どこからどう見ても事件だ。
「現場から動くな。これは事件だ」
俺はすぐさまそう言った。事件が起こった場所には探偵が必ずいる。つまり俺だ。虚空からステッキを取り出し、チェック柄のマントを靡かせ、キセルを咥える。ぷかぷかと白い煙を出せば探偵気分だ。もちろん帽子は名探偵を象徴するディアストーカーである。
さて、推理の時間だ。まずは倒れた客が食べていたラーメンを口内に含む。
「ペロ……!? こ、これは……トリカブト!!!」
見た目は子供で頭脳は大人な某少年探偵のような台詞だ。パクリではない、オマージュである。オマージュ、お饅頭のような響きで素晴らしく心地よい。
とりあえず、これで犯人は決まった。ごほん、と咳払いをすると、俺はきりっとした表情で言う。
「真実はいつも一つ! 犯人は……」
びしっと、彼に指を向けた。
「お前だ、赤城!」
「な、なんだと!?」
赤城は見るもあからさまに狼狽えた。そして狼狽えながら俺に聞いてくる。
「ぼっ、僕が犯人である証拠はあるの?」
「あたりまえさ」
俺は自信満々に答える。
「倒れた瞬間に赤城は毒殺だと叫んだ。まだ脳梗塞などの可能性が残っていた段階なのにだ。なぜお前は毒殺だと断定できたんだ?」
「そ、それは、毒の可能性が高いと思っていたからだよ。そもそも、僕は白崎くんと一緒にラーメン屋へ来たのに、どうやって毒を混入させるのさ。そもそも、毒がトリカブトなら、それを舐めた白崎くんは倒れるはずだよ。そもそも、僕がその女性客を殺す必要性はあるの」
なんだと、そんな反論は考えていなかった。俺は考える。考えるが、わからなかった。真実は闇の中なのだ。俺は誤魔化すように推理を続ける。
「それはともかくとして、もし赤城が犯人だったら、最も疑われにくいんだ。なぜなら、お前は俺の助手である。古来より探偵とその助手は犯人になりえない。その前提があるからこそ、お前は俺に疑われない。…………そう考えたのだろうが、そんな小手先の技術は効かない。俺は名探偵白崎だからな!」
「な、なんだと!」
びしっと決まった。俺は優越感に浸る。とはいえ、ここで推理をやめるのは忍びない。まだ証拠が残っているのだ。俺は叫ぶように言う。
「そして、お前が犯人だと決定付ける最大の証拠がある!」
「な、なんだと!」
「赤城、自分自身の服装を見てみろ」
彼は自分の服を見下ろした。靴は黒、靴下も黒。ズボンは黒で、上着も黒。顔には犯罪者らしい目出し帽子を被っていて、両目だけが白く爛々と光っていた。
「いいか、古来より黒づくめの人物は犯人と相場なんだぜ」
「な、なんだと! 何でそんなことを知っているの!?」
「迷探偵コナソをフォローしているからさ!」
ふっ、決まった。俺がドヤ顔すると、赤城は急に走り出した。アイツ、逃げるつもりだ。しかし、そんなことをさせるわけにはいかない。俺はベルトの金属部分に触れた。その瞬間、亜空間からサッカーボールが出現する。同時に靴の側面にも触れると、電気の磁場が発生してビリビリと両脚のツボが刺激される。これで筋力が圧倒的に強化されるのだ。
「くらえ、赤城!」
俺は爆発的な脚力を持って、サッカーボールを蹴った。勢いよく飛び出したそれは、凄まじい勢いで赤城の背中に直撃した。彼はごろごろと転がり、壁にビタンとぶつかって停止した。赤城はポケットから白旗を取り出し、ひらひらと振った。
「ま、参りました……」
「思い知ったか、赤城。お前が名探偵である俺に勝つのは六兆年と一夜も早いのだ。これに懲りたのなら、俺をもっと本編で活躍させろ。ふは、フハハハハハ……
僕は時計をちらりと見た。12時50分。そろそろ彼を起こさなければ。僕は彼の両肩をゆさゆさと揺らした。
「白崎くん。そろそろ昼休みが終わっちゃうよ」
僕が彼の耳元で言うと、ふははは……、と意味不明な寝言が聞こえた。いったい、どんな夢を見ているのだろうか。こんな悪役っぽい寝言なんて普通は言わないだろう。
とりあえず、彼を起こすのが先だ。僕は先ほどよりも強く、ゆさゆさと白崎の肩を揺らした。震度で表せば、五強あたりだろうか。
「だから、早く起きてよ。次の授業が始まっちゃうよ。国語の先生は遅刻を許さないし、怒ると怖いよ」
むにゃむにゃ、とぐずりながらも彼はのっそりと起き上がった。腕を枕にしていたからか、両頬に跡が残っている。こうしていると、白崎は年齢よりも幼く感じた。しろざきくーん、おねんねの時間はお終いですよー、とでも言ってみようか。言わないけど。
そんなことを考えていた時だった。覚醒した彼は僕を見るや否や、トリカブトの犯人だ、とよくわからないことを叫んだ。僕は頭を捻った。
「……トリカブトの犯人?」
僕が尋ねると、彼はぱちぱちと両目をしばたたいた。
「え、あ……夢か」
「夢?」
「……ああ、夢だったみたいだ。俺が凄い名推理をして、赤城が感服する夢。トリカブトとかラーメンとか断片的には覚えているんだけれど……もうあんまり思い出せないな」
彼が名推理する夢か、僕は凄く気になる。
ラーメン屋で白崎が推理したのは、先日の時だ。間違って推理した彼を指摘して、僕は酷く後悔した。だから、今回は趣を変えてみようと思った。彼主体の推理だ。僕は提案する。
「ねえ、白崎くん。僕と一緒に夢の内容を推理してみない? まだ五限目が始まるには少し時間があるんだし」
「ああ……それはとても面白そうだ」
白崎はいつものように笑った。
僕らがいつものように推理ゲームで盛り上がったのは、図書室へ優しい風が吹き込む、秋の始まりだった。
これで第1章は完結です。
感想、評価、レビューお待ちしております。
宜しくお願いします!!
※おふざけはここだけです。
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