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 目覚めたクリスは、ベッドの上で寝かされていた。

 うつ伏せの状態で顔を横に向け、その下にはクッションが置かれている。

 服は脱がされ、全身に包帯が巻かれている。まだあちこち痛むが、身動きできないほどではない。だからクリスは、痛みに顔をしかめながらも、ゆっくりと体を起こしてみた。

 どこかの民家なのか、あまり広くはない粗末な部屋だ。窓にはカーテンが掛かっているが、隙間から漏れる光からして、どうやら昼前といったところらしい。

 近づいてくる足音が聞こえて、ドアの方を見る。まだクリスが眠っていると思っているのか、ノックをせずに入ってきたのは……

「あら、やっとお目覚めね」

 パルフェだった。もちろん今は人間の姿、薄い衣を纏った銀髪の妖艶な美少女になっている。

 包帯やタオル、水桶などを両手に持ち、足で器用にドアを閉めると、ベッドに近づいてきた。

「起きられるんだったら、少しずつでいいから体を動かしてみて。傷の具合を見るから。それから包帯を替えて、何か食べ物を持ってきてあげるわね。アナタ、あれから二日間眠り続けてたのよ。お腹空いてるでしょ?」

「う、うん。ありがとう」

 パルフェに言われるまま、クリスを腕を上げたり下ろしたり、上体を左右に捻じったりしていく。思った以上に体は回復しているらしく、痛みはあるが何とか動ける。

 そんなクリスの体を、パルフェがてきぱきと介抱していった。包帯を解き、体を拭き、薬を塗り、清潔な包帯を巻く。

「ふむ。ほんとアナタって意外と……いや、もういい加減に認識を改めなきゃね。やっぱりクリス君、見かけは華奢なのに頑丈だし、体力あるわ。これなら、そう何日もせず旅に戻れそうね」

「パルフェ、あの、」

「ラディアナちゃんならもう大丈夫よ。そもそも最強の魔物であるドラゴン、しかもジークロットの従者の血筋だからね。回復力は人間なんか比較にならなくて当然。今は騎士団の人たちに混じって、街の復興の手伝いしてるわ。じっとしててもヒマだからって」

「え? じゃあ、ラディアナや僕らの素性は……」

 その質問を待ってましたとばかり、パルフェが楽しそうな笑顔を見せた。

「ラディアナちゃんのことはそのまま説明したわ。で、アナタはラディアナちゃんと同様に、英雄ジークロットの子孫であり、ジークロット本人の転生、生まれ変わり。ワタシはジークロットが使った聖剣の化身。ってことにしといたから」

「ええぇぇっ⁉」

 クリスは驚き叫ぶが、体が体なので跳び上がったりはしないできない。パルフェは介抱の手を休めることなく、言葉を続ける。

「何か文句ある? まさか、いくらアナタでもこんな状況で、嘘つくのは良くないとか言わないでしょうね。いい? 今回の事件では、街が壊されて焼かれて、大勢の死者も出たのよ」

「解ってる。その原因を招いたのが、僕らだよ。僕らがここに来たせいで、」

「ええ、その通り。けどね、街が完全に焦土となって老若男女皆殺しになるところを、英雄ジークロットとその従者、その聖剣が現れ、邪悪を斬り払って救ってくれた。そのことでみんなは気力を保ち、踏ん張っていられるの。アナタは、みんなの心の支えを潰す気なの?」

「それは……」

 ほらできた、とパルフェが包帯を切ってクリスの肩口で結ぶ。

 体を拭かれ、真新しい包帯に替えられて、クリスは体の痛みが少し引いたような気がした。

 だが心の痛みはまだまだ残っている。パルフェにかき回されて、紛れたような気はするが、治ったような気はしない。

「言っておくけどね、クリス君。アナタが本当は現世に復活した魔王様だなんてことが知れたら、じゃあカイハブの仲間なのかってことで、叩き殺されるわよ」

 パルフェは部屋に置いてあった椅子を引いてきてベッドの脇に置き、腰掛ける。

「見た目がドラゴンなラディアナちゃんはドラゴン扱いされるだけだけど、人間のアナタは別よ。あんな力を発揮した以上、ジークロットか魔王様のどっちかに関係あるとでも言わないと、納得してもらえやしない。だから、ワタシたち三人はジークロット側だと説明したの」

「……」    

「原因がワタシたちで、それを悪いと思い、罰を受けたいと思うなら、尚更のことよ。アナタは真相について、黙ってなさい。そして苦しみを抱えてなさい。それが罰になり、街の人たちへの償いになる。と、ワタシは思うけどね」

 言われたクリスは俯いて、考え込む。

 それからしばらくして、

「……そうだね。僕が間違ってたみたいだ。ありがとう、パルフェ」

 顔を上げ、パルフェを見つめて言った。その表情は、迷いを吹っ切ったと言えるほどさっぱりしてはいないが、感謝の気持ちが浮かんでいる。

「お礼を言われるほどのことじゃないわ。何度も言ってる通り、アナタとラディアナちゃんに頑張って戦ってもらうことが、ワタシの目的なんだから。その為に必要なことだからよ」

「うん。その為に、パルフェにとっては憎い仇敵の、ジークロットの一味だなんて名乗ってくれたんだよね。僕や、ラディアナの為に」

 え、とパルフェがクリスを見つめ返す。

「パルフェが、自分は魔王の最後の遺品であるってことに、強い誇りを持ってるのは知ってるよ。なのに、僕らの為にその誇りを抑え込んでくれたんだよね」

「ま、まあ、そうなるかしら」

「ごめん。そしてありがとう、パルフェ。僕は、一人で悲劇のヒーローを気取ってたんだね。薄っぺらいとも言われちゃったし、つくづくまだまだ未熟者というか、恥ずかしいよ」

 自嘲しているクリスの力ない声を聞き、顔を見て、パルフェは思った。

『はぁ。本っっっっ当に、とことん、どこまでも、徹底的に、魔王様からかけ離れてるわねこの子は。魔王様と反対の、豪快に悪を叩きのめす正義の熱血戦士、ですらない』

 邪悪で、好戦的で、自分以外の全てを見下ろし、己こそが世界の中心で、他者に何を言われても歯牙にもかけない。それが魔王というものだ。

 だがクリスときたら、根が善良で、好戦的ではなくて、自分を責めやすくて、且つ素直で、何か言われればちゃんと反省する。  

 人間の醜い部分を見せ付け、世界に対して絶望させようにも、そういうのはとっくにさんざん経験豊富の実体験だし。その上でこんな性格になってしまっているという、(パルフェとしては)救いようのない奴だ。

「パルフェ? どうしたの? 肩を落としちゃって」

「……別にぃ。何でもないわよ」


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