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「パ、パルフェ? これは一体」

《ふっふっ。今、ワタシをクリス君が握ってる。そのクリス君を、ラディアナちゃんが握ってる。そしてそれだけじゃない、クリス君とラディアナちゃんは今、繋がったのよ。今初めて、手だけではなく心までも、しっかりとね》

 何だか妙な話になってきたが、何となくタイミングを逃してしまって、ラディアナはクリスの手を握っている自分の手を、離せないでいる。

「そ、それが何だっての?」

《ラディアナちゃん。アナタの心、精神、魂、魔力の中には、魔王様の呪いが食い込んでいる。そのせいで人間の姿にされ、力を大幅に封じられた。そしてクリス君の中には、魔王様の力が根付いている。そのおかげで、ワタシという鍵を使うことにより、ラディアナちゃんの呪いを少し解くことができる。その二人が、鍵を持って奥深~くまで繋がると……こうなるのよっ!》 

 パルフェの放つ光が、見えない何かに巻き取られて束ねられ一条になり、ラディアナの胸に命中、その奥深くへと入り込んだ。

 ラディアナの胸の中、心、精神、魂、魔力の奥の奥まで入っていく。ラディアナの感情や記憶などを掻き分けて掻き分けて、パルフェの放った光が進んでいく。

 パルフェを握るその手を通じて、クリスの心の奥深くにもパルフェの光は入り込んでいる。二人が心の奥まで繋がったから、道が通じたから、できたことだ。

 そしてクリスの奥にある魔王の力と、ラディアナの奥まで食い込んでいる魔王の呪いが、パルフェという鍵で繋がった時、 

《宝の箱が今、ガチャリと開いたわ! 解けるわよ、ラディアナちゃんっ!》

「え? え? え? え?」

 まるで大きな大きな魚が水中から釣り上げられるように、ラディアナの中から赤い光の塊が、パルフェの光によって取り出された。光の塊はそのまま、パルフェの刃に絡み付く。

 何が起こっているのか、クリスには全くわからない。

「パ、パルフェ、これは一体」

《ふふん。まぁ見てて、ラディアナちゃんを。ほら、》

「ぅ……ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ラディアナの咆哮が轟き、そして、ラディアナは変わっていった。

 肉が膨張し、肌が変質し、牙や爪が巨大化し、いや体の全てが巨大化し、エプロンドレスを引き裂いて、見る見る内にあのカイハブ以上の巨躯になる。もはやその姿は小さな幼女ではない、そして大きな幼女でもない。

 今クリスの目の前にいるのは、紛れもないドラゴンだ。ラディアナと出会ったあの時、ラディアナと一緒に戦ったような……だが、大きさや形はさほど変わらないが、全身を包む真紅の鱗は比較にならぬほど、まるで宝石のように美しい。

 特徴的なのは頭に生えている、ユニコーンのような角。これは普通のドラゴンには見られないもので、その輝かんばかりの力強さと鋭さには、芸術品のような美しさと、理屈抜きの威厳を感じさせる。

 顔立ちは、何しろドラゴンなので人間のクリスにはあまり違いが判らない。が、それでもどこか凛とした気品を、眼光から見て取れる。あれはラディアナの目だ。

 当のラディアナも何が起こったのか理解しきれていないようで、自分の体をあちらこちらと見渡している。そんなラディアナを、クリスは呆然と見上げている。

「これが、ラディアナ……」

《そ。これこそあの子の正体、真の姿。今、呪いが解けたのよ》

「本当なのっっっっ?」

 大きなドラゴンとなったラディアナが、屋根の上の高さから長い首を曲げて、パルフェに詰め寄った。

 鼻息でクリスの前髪がめくれ上がる。間近で見ると、いや間近で見なくても、本当に紛れもなくドラゴンだ。だからその顔で、鋭く大きな牙が並ぶ口を開けて、

「ねえ本当なの? 本当に、これであたしの呪い、解けたのっっ?」

 以前と全く変わらない幼女の声で喋られると、違和感が凄い。だがそのおかげで、このドラゴンがラディアナであるという実感が、クリスの中でしっかり固められている。

《ご覧の通り、そしてアナタが実感してる通り、今のところ呪いはアナタの中から取れてるわよ。……残念ながら、ワタシでは完全に消滅させることまではできず、糸一本でアナタの中とこことで繋がっちゃってるけどね》

 ここ、というのは今、パルフェの刃に巻きついている赤い光のことだろう。

《だからまだ、切れてはいないの。より深く取れてるってだけよ。術の理屈としては今までの、牙だけ生やしてた時と、そうは変わらない。ある程度時間が経てば元に戻ってしまうわ。その時間が長くなったり、解けた時のダメージが軽くなったりはするけどね》

「……そうなの」

 ドラゴン顔で、しょぼんとするラディアナ。

「でも、もともとあたしだけ呪いが解けてもダメなんだしね。それに、これから人間たちの中で旅をしていくわけだから、ずっとこのままって方が困るし」

《そういうこと》

 ラディアナは俯いていた顔を上げて、表情に精気を取り戻して尻尾を振った。

「ありがとパルフェ。とにかく、こうなったからにはもう、カイハブなんかメじゃないわ。クリス、あんたはここで大人しく……じゃなかった、エレンたちと一緒に安全なところへ行って、傷の手当てをしてなさい」

「いや、僕も行くよ。カイハブを探すのはラディアナ一人じゃ難しいから」

「あんた、そんな体でまだそんなことを」

《大丈夫よ。これを使えば、あの程度の相手なら充分戦えるわ》

 これ、と言ってもパルフェは剣なので何かを手に持っているわけではない。

 あるものといえば、ラディアナの中から取り出した赤い光だけ。刀身に巻きついて、熱くはないが熱そうな赤い輝きを発している。

 これが、ラディアナの真の姿と力を封じていたものらしい。つまり魔王の呪いそのものだ。

《ワタシを使えるクリス君。アナタなら、これも使えるはず》

「これを使うって……」

《こうするのよ》

 赤い光が、まるで水を床に流したように、刀身から柄、そしてクリスの手へと流れた。

 光はそのままクリスの体表面に広がっていき、頭から爪先までを覆い尽くすと、立体化し実体化していった。魔王の呪いそのものが具現化したような、いや「ような」ではなくその通りなのだが、とにかく光はクリスの全身を包み、恐ろしげな形へと変わる。

 燃え盛る炎のような、そしてその炎の中から生まれた魔獣のような。人間と同じ二本の足で立ち二本の腕を備えてはいるが、人間離れした猛々しさ荒々しさをもった別の生き物のような。

 クリスを包んだ赤い光は、実体化してクリスの外観をそんな風に変えてしまった。といってもラディアナのように、クリスの肉体を変質させたのではない。クリスの全身を包む、真紅の甲冑となったのである。

《どうクリス君、気分は?》

 フェィスガードが顔の下半分を包んでいるが、目だけは出ている。その目に落ち着かない表情を浮かべながらクリスは、先程のラディアナのように自分の体を見渡した。

「何だか……どんどん力が湧いてくるよ。鎧の重さは殆ど感じないし、傷の痛みや疲労も随分なくなってる」

《あ、それは勘違い。魔王様の魔力のおかげで、身体機能が大幅に向上してるから、そう感じるだけ。実際にはケガは全然直ってないし、疲労もそのまま。だからムチャはだめよ。でも、》

「でも?」

 目も鼻も口もない剣のパルフェが、刃の輝きでニヤリとした。

《ムチャなんかしなくたって、今のアナタとラディアナちゃんなら、あんなグロいミミズなんかに負けやしないわ。絶対勝てる!》

 クリスはパルフェを握った右手に力を込め、左手もしっかり握り締めてみた。

 力を感じる。自分の奥底から、際限なく泉のように湧いてくる力を。それはまるで、この真紅の鎧がどんどん汲み上げているような感じだ。これが自分の中にある魔王の力、それを魔王の呪いが呼び水になって引き出しているというわけか。魔王の生まれ変わり、魔王が転生した存在、であるから使える力。

 魔王の遺品を使うリュマルドと戦う為に、魔王の力を使う……複雑な気持ちもあるが、今はそんなことを言っている場合ではない。これもパルフェ同様、自分たちを助けてくれる力だ。

「よし、行こう! ラディアナはまず、街を走り回って妖魔たちを潰していって。そうしたらカイハブの方から出てくるかもしれない。僕はエレンたちを安全な場所まで送るから」


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