体力測定2
俺は家に帰ると真っ先にギターの弾き語りを動画サイトに投稿した。あるお気に入りのバンドがいて、その人たちの曲を全部弾けるようになることが目標だ。初心者から始めるのはなかなかに大変だったが、それでもやりがいがあって楽しい。
じゃあ次はあれをするか。
俺はギターを置き、パソコンを開き準備を始めた。最近の趣味はギターのほかに音MADを作ることにはまっている。初めて聞いたのは小学生くらいだっただろうか。それ以来自分でも作るようになってしまった。
なかなかこれもセンスが問われるのよな。
俺は頭を抱え、時間が過ぎていることを忘れてしまうぐらいに没頭していた。ふとトイレに行こうと席を立ったとき部屋にある壁掛け時計の針は午前三時を回っていた。まずいと思ったが、時すでに遅し。もうどうしようもないのである。
二時間睡眠を覚悟するしかない。
なんだかんだ言いつつ音楽に没頭している時、いや音楽じゃないにしろ楽しいことをしていると時があっという間に過ぎてしまうのは慣れっこであったのだ。この状況も初めてではない。俺は倒れこむようにベッドにダイブした。疲れ切って泥のように眠るのも悪くないものだ。
「、、、ん?なんだ?」
自分の体に違和感を感じふと自分の手を見ると、両手がプルプル震えている。何かにおびえているようないや、何かしびれているような感覚がある。廊下を全力ダッシュした時のあの時の疲れによるものなのだろうか。いや疲労で生じるものにしては少しおかしい。いささかいびれすぎる。そうしびれすぎるのだ。
まるで電気をどこからか体に流されている感覚だ。見たところ漏電していてそれが自分に流れているといったわけではないし、ましてやコンセントなどから直接流れているというわけでもない。
次の瞬間だった。
ビシャン--------------!
耳をつんざくような轟音が聞こえた後、まるで雷が流れたような感覚がした後俺は気を失った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
どれくらい眠っていたのだろうか。一瞬だった気がするし、すごく長い時間眠っていた気がする。眠ったというよりあれは気絶しているのであり自分にとっては、今になって思えば夢であったようにも思える。
俺は自分の体をまさぐり自分に異常がないことを確かめてみる。
よし。大丈夫だな。昨日のあの現象は極度な疲れによって脳が引き起こしたバグみたいなものだ。きっとそうに違いない。
おれは自分でそう結論づけた。
「しっかしなんか雷に打たれたみたいだったな。ま、打たれたことはないんだけどね。」
独り言をつぶやきつつ、ちらりと午前7時を指し示す時計を見ながら俺は学校に行く準備をした。
「今日も体育測定があったな。体操服がいるわ。」
きちんとバッグの中にそれらを差し込みつつ家を出た。
今日の体育は午後からだった。
基本的に眠くなってしまう午後の授業を体育の授業で消化できるのはうれしい。ただそもそも十分な睡眠がとれてない俺からしたらすごい微細な話なのだけれど。
しっかし今日の午前中は眠くてしょうがなかった。何しろこの学校の校長の話を二時間聞き続けるだけの特別授業があったからな。ちなみに俺はよく知らないけれどこの学校は何か色々特殊らしい。あまりそれらを感じたことはないがみんなが言うことにはそうらしい。後で佐藤にでも聞いてみようかな。
「おい!山田!次お前の番だぞ!」
{あ、はいはい今行くーー。」
俺はクラスメイトの竹田に呼ばれて、ハンドボール投げの円の中に立った。今日の種目はハンドボール投げからだった。俺は割と最後の方だったのでみんなの投擲をさっきからずっと見ていたのだが割と全員飛ばすのだ。それに比べて俺は中学の頃からたった30cm程度の進捗しかない。しかもかなりの確率でボールを地面に叩きつける。クラスメイトの連中はさっきからがんばれだのいけるぞーだの応援をしてくれているのだが、実のところ俺がボールを地面に叩きつけるのを期待しているはずだ。
すまない。その期待には答えられない。というか高校生にもなってそれやってるのやばいよ。まあ俺はやってたが。
俺は大きく足を振り上げ、肩に力をグッと入れるとそのまま大きく振り下ろした。
その時だった。
ピリッーー
何かが体に流れたような感覚がした。俺がその違和感に気がついたとき、手に持っていたボールは遥か彼方へと飛んで行った。一瞬過ぎて何がなんだがわからないまま俺は腰をぬかしていた。空を見上げるとボールはまだ落ちずに飛び続けているようだ。一体時速何㎞で飛んでいるのだろうか。
俺があたふたしているとクラスメートがわらわらと俺の方に集まってきた。「何だ!!今の投球!!」、「オリンピック選手にでもなった方がいいんじゃねえ!?」、「お前は人間なのか?」などと思い思いの疑念や思いをぶつけられたが、生憎俺にもさっぱり今の現象はわからなかった。
いや、案外俺の秘められた力が発揮されたのかもしれない。高校二年にもなって謎の覚醒だとかあり得るかもしれない。
中二病の発作が出てしまって申し訳ないが、現実的に考えると本当に尋常ならざるものであるとは確かに感じる。俺は手をじっと見つめ色々と動かしてみるがこれといった違和感などはない。
すると佐藤が俺に近づき耳元で囁いてきた。
「山田、実際のところあれ本当はどうやってんの?どんなトリック使ってんの?」
「トリックなんて何もねえよ。」
「いや、嘘つけ。運動部でもないお前があんなに飛ばせるかよ。」
「運動部であっても無理だとは思うが。」
もういっそトリックということにしてしまおうか。だがいざネタバラシしてくれと言われたときに困るんだよな。そもそも自分でもどうやってあの力が出せているのか理解できていないし。ワンチャン佐藤のことだから「俺にもあれだけ飛ばせるにはどうすればいいか」とか聞いてきそうだしな。
「じゃあ次の測定の時にお前の本気をまた見せてくれよな!」
「やらない。というか、そもそも出せない。多分」
もうめんどくさいので俺はその場をあとにした。皆にとっては羨望の的というか色々と世間を騒がせている炎の能力者と重なってしまった部分もあったのだろうが、俺はそういうのじゃない。まあ確かに尋常ではない速度でぶっ飛んでいったが、人間は追いつめられると火事場の馬鹿力とかいうやつが出ると聞く。
それだな。うん、きっとそうだ。
俺はその後の種目も順調に男子高校生の平均の倍以上のスコアをたたき出し、一躍時の人になった。(学校の中だけで)挙句の果てにはよくわからないやつから「サインが欲しいと頼まれたから書いてくれないか」と頼まれる始末だった。お前が自分で来いよと言いたくなったが、その気持ちを押し殺し書いてやると、後日そいつのXの裏垢で「あいつサインとか書いてやがるwwイきりすぎっしょww」と投稿されていた。それだけならまだあれだがその投稿にいいねが100くらいついていた。
この出来事からわかった教訓は「もうサインは書かない」ということと「人は実際言ってることや行っていることはまるっきり違う」ということだ。事実俺は人間不信になりかけた。目立つという行為は皆から
自分という存在を認知され羨ましく思われるかもしれないが、もちろんそれを好ましくないと思う人もおりあまり目立つタイプでもない人が、急に注目を浴び始めると水をかけてやろうという人たちもいるということなのだ。
そうして俺は一つ、いや三つ学んだのだった、