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俺と私と賢者たち  作者: 市川れん
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体力測定1

三限目は体育だった。体育館であるとのことだったので、俺は教室に戻るとすぐさま体操服に着替えて、体育館に向かった。ここ煌翔学院は体育館が四階に設置されているため、余裕をもって準備したつもりだったが、俺が着いた時にはもうクラスのみんなはラジオ体操を始めていた。


「遅いぞ!山田!」


体育教師の怒号が響く。


「すみません。保健室にいたもので。」


「さっさとお前も混じれ!」


「はい」


ふう。これぐらいですんでよかった。この体育教師は日頃のストレスや鬱憤を生徒に向かって晴らしてくるのである。悪い時だと説教30分コースもありうる。この前だと、女子生徒すらも泣かせていた。それを偶然目撃してしまった時は気の毒だなあと思うことしかできなかった。なんとも可哀そうな話だ。


「ようーー、山田」


なれなれしく肩を組まれ、一瞬びくっとしたがその声の主の方を見て安堵した。


「佐藤、、、、」


「山田、体は大丈夫なのか?急に倒れたから心配したぞ」


「ああ、もう大丈夫だ」


俺は肩にかかっている佐藤の手を振り払いながら答えた。


こいつは佐藤翔。クラスの中でよく話すクラスメイトの一人だ。見た目は日焼けで黒くその見た目通り筋骨隆々のスポーツマンだ。ソフトボールをやっており肩の筋肉が重点的に盛り上がっている。身長も高くいつも見下されている。実際はわからないが実質的にはそうなのだ。最もそう思ってしまうのはきっと俺がひねくれた気持ちで見ているからだろう。誰かを偏見の気持ちで見るのはいささか抵抗があるものである。



「それより山田見たか?あの例の炎の能力者を」


む。そうか。テレビで放送されてたし、知っているのは当たり前か。急にこのワードだけ聞くと聞きなじみがない言葉なのでびっくりしてしまうな。


「ああ、さっき保健室のテレビで見たぞ。すごかったな」


「カッケーーーよな! 俺もああなりたい!」


おいおい。なんか影響受けっちゃっている奴いるよ。かっこよかったのは認めるが。


「いや、なるのは無理なんじゃ、、、」


「わかんないだろ!? それにあの炎の能力者も急に力に目覚めたって言ってたぞ。てことはいつ誰が目覚めてもおかしくないってことじゃねーか!?」


俺はその言葉を呑み込む、いやその言葉を完全には否定できなかった。確かにその通りだ。能力の覚醒にパターンはあるのかないのか能力者が一人しか発見されてない以上、現時点では俺らには知る術もないが,佐藤の仮説は十二分にあり得る話なのだ。


「よおしーー、お前らラジオ体操が終わったなのら、グループに分かれて各々体力測定にうつれ!」


「あーーーーーい」


俺は佐藤と一緒のグループに入りたかったのだが、どうやら俺のいなかった間に先生が勝手に決めていたらしい。最初に握力をはかるグループになった。


「ふんぬーーーーーー」


クラスメイトが握力測定を必死にやっているなか、俺は佐藤とさっき話していたことについて考えを巡らせていた。目覚めるきっかけや前兆はあるのかもわからないが急に能力が使えるようになったことは聞いてた話だと確かだ。そして俺はある疑問が頭に思い浮かぶ。


そもそも発現する能力が火だけとは限らないのでは?


だってそうだろう? 別に火の能力者がいるのであれば水の能力者だっていてもおかしくないのだ。だが、いたとしても火のように表に出てくるとは限らない。そもそも他人ごとではあるけれどあの女の子がメディアに出たのはあまり得策ではない気がするのだ。まあ俺がただ単にいたずらに人の注目を集めることが嫌なだけなのかもしれないけれど。


そうこう考えている間に俺が握力を測る番になった。俺は運動が得意な方ではない、だが運動音痴というほど運動ができないわけではない。部活動は入っていないのでそこら辺のスポーツマンにはどうしたって見劣りはするというか、比べられると居心地が悪くなってしまうが、基本的には男子高校2

年生の平均程度は取れるとふんでいる。去年の体力測定がそうだったように。


だがしかし?


予想だと平均ぐらいと思っているが、なんだかんだ良い結果を残したいものでいや特にこれに向けて事前に対策を練ったとかそういうわけではないけれど測定の時だけ踏ん張ってそれ以外はなんか力抜けてもいいから頼む!


俺は全身全霊の力を右手に込めた。測定器を壊すのではないかという勢いだった。あくまで俺のその時の気持ちだったが。


結果はーーーー


「40、、、、、」


平均以下である。俺がこの結果に愕然としたのは想像に難くない。だがしかし何か納得感のようなものも生じていた。


そうか。そうだよな。


そもそも何も対策をしていないやつがこの時だけ踏ん張っていい点数をとろうなどと浅はかな考えだったのだ。なんとも妥当な結果だ。だが非情な現実を突き付けられるということに、逃げ出したいという感情をグッと抑え込み次につなげることができれば俺の今日の悲劇も糧になっていくことだろう。ただ俺は喉元過ぎればなんとやらというやつでもはやこのことを数日後に忘れているだろうからあまり意味をなさないのだが。


「なあ鈴城、お前はどうだった?」


もはや自分より下を見つけるしかない。俺はクラスメイトに話しかけそう決意した。俺は思考の方向転換をした。


「俺?俺は悪かったよ」


「どんぐらいだ?」


「、、、、、、、、、、、、45」


「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」


こういう時一体どういう反応をしたらいいのだろうか。確かにお前にとっては悪いかもしれない。だが俺の気持ちを鑑みてみてほしい。あまりよくなくて落ち込んでいるところに俺よりいい成績で悪いといわれている気持ちを。


エエ。マッタク。


「おい、山田あれ見てみろよ。」


「なんだよ!」


「1組の奴ら、またひでえことしやがる。」


俺は後ろを振り返る。するといわゆる運動があまりできないタイプの子に誹謗中傷をしている

光景だった。いわれている子は目を真っ赤にして今でも泣きそうである。


体育に関しては二クラス合同でやるのが基本である。なのでクラスが違う人同士でも仲良くなれるのがうれしいところではあるが、あまり関わりたくないタイプの人とも必然的に距離を近づきざるを得ないのがデメリットである。実際このような問題も生じているし。ちなみに僕らは六組だ。


「まあ、そんなこともあるか。」


「いや軽くね!?かわいそうとは思わねえの。」


「確かにそうだが、どうしようもないし特に何かできることもないさ。」


「それはそうだが。」


「まあ俺も人のことを言えるほどの人間じゃねえしな」


「山田が言うと嫌味に聞こえるぞ」


「そんなことは絶対にない」


そう。ないのである。


「次の測定は?」


「腹筋と立ち幅跳びとあと、、、、、エトセトラ」


「オーケー、了解」


「じゃあパパっとすましちゃおうぜ。」


「そだな。」


他愛もない会話をすました後、俺らは測定を続けた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ガラッ!



「うわっ!」


体育も無事おわり、帰り支度もすませ少し廊下に出て教室に戻ってきたところだった。俺は目前に広がっている光景にただただ驚きを隠せなかった。クラスメイト(ほぼ男子)が全員一か所に集まって何かを祈っているのだ。ひそかに聞いてみるとどうやらお経などの類ではないらしい。


「え、君たち何やってるの?」


俺はたまらず佐藤に話しかけた。


「決まってるだろ。次の能力者になるために神に祈っているのさ。」


「、、、、、、、、能力者?」


「炎の能力者!お前もしってるだろ!俺もあんな風に炎をあやつってみたいんだよ!」


どうやら男子高校生には刺激が強すぎたらしい。時代をさかのぼって中二病を発現させてしまうほどに。本当にどうしてしまったんだ。よくよく見ると日頃まじめでおとなしい子まで参加している。何がそこまで彼らを引き立たせるのか。


にしてもここまで狂信的になるとはな。びっくりだぜ。


「そうか。がんばれよ。」



俺はそれだけ言い残し彼らに気づかれないように教室から出て、一目散に逃げ去った。



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