第19話 平川七瀬
学校では昼食は購買に行って買うか、若しくは弁当を持参する事になっていて学食は無い。
俺はいつも購買で惣菜パンを2つ程買って自席で食べているし、鳴沢は弁当を持って来ている。
因みに鳴沢の弁当の中身は俺の家で朝作ってくれているものでは無く、家政婦さんか彼女が前日作ったものを自宅で詰めて来ているそうだ。
そういえば以前鳴沢は昼食時自席で弁当を独りで食べていたが、イジメが無くなってから最近は教室で姿を見かけないので気になって様子を見てみると、彼女は弁当を持って何処かへ行こうとしていた。
そして鳴沢は俺と目が合うと廊下に出ろと手で合図して来て先に教室を出て行ったので、俺は彼女の後を追った。
「どうした、何かあったのか?」
「平川さん、知ってるでしょ?」
「あっ、あぁ、確か鳴沢の友達の…。」
「その平川さんとこれからお弁当を一緒に食べるのだけれど、佐竹君の事を話したら貴方も一緒に食べないかって。
どうする?」
「何をどう話したのやら…
そうだな、俺はパンを購買で買って来ないといけないから何処かで待ち合わせでいいか?」
「あら、私はてっきり断るのかと思ったわ。
クラスで男友達が出来たとしか話してないわよ。
そうね、じゃあ中庭のベンチに集合でいいかしら。」
「鳴沢の友達なら一応顔繋ぎをしておこうかと思ってな。
遅れるから先に食べててくれ、じゃあまた後で。」
廊下で鳴沢と別れて購買の列に並び、パンを買って下駄箱で上履きからローファーに履き替え中庭に向かう。
この中庭のベンチを使うにはいちいち靴に履き替えないといけないので、花木も有りロケーションは良いのだが生徒に不人気で穴場となっている。
到着時、既に彼女達は弁当を膝の上で広げて楽しそうに会話をしながら食べていた。
やはりこの2人が並んでいると華がある。
鳴沢が黒髪ロングの正統派綺麗系美人とするなら、平川は茶髪ショートの明るく活発な可愛い系美人だ。
「始めまして、佐竹といいます。
以後お見知りおきを。」
「時代劇の人来たっ!?」
「…そんなに古い言い回しだったか?
済まないな、俺はずっとぼっちだったから、あまり人と話し慣れて無いんだ。
お手柔らかに頼むよ。」
「私、お見知りおきを…とか、お手柔らかに…とか言ってる人、初めて見たかもしれないわ…。」
「まぁ座って座って。
ボクは平川七瀬、1年の時から鳴沢さんと友達なの。
これからよろしくね。」
「あぁ、よろしく。」
「で、2人はどうやって友達になったの?」
「…ネッコだな。」
「ネッコちゃんね。」
「何ソレ、詳しく!」
俺は多摩川の土手で捨て猫を見つけミルクをあげていたら鳴沢が家に持って帰った事、次の日鳴沢に猫が飼えなくなったので俺に飼って欲しいと言われた事、俺が飼い始めたら鳴沢が生存確認をさせろと家に来た事、互いの家が近いので一緒に通学している事、そして友達になった事等を平川に話した。
どうせ友達の友達だから今回の顔合わせだけで今後の付き合いも無いだろうと思い、不幸体質についての話は平川には一切しなかった。
「何だかそうやって貴方の口から聞いていると、私って悪人みたいじゃない…。」
「あの時も言ったが、生存確認って言い方がなぁ…。
それに俺は別に悪意の有る言い方はしていないが。」
そこで少し考え事をしていた様な平川が席を立ち、ベンチの後ろ側から鳴沢の耳元に小声で俺に聞こえない様に話し掛けた。
「…鳴沢さん、随分積極的みたいだけど…
もしかして…そういう事?」
「……!? ちっ、ちが…」
そこでチャイムが鳴り響き、俺達は解散する事となった。
平川はニヤニヤしながら俺達に手を振る。
「じゃ、2人共、また明日ねー。」
「あ、あぁ、それじゃあな。」
「ちょっと、言いたい事だけ言って帰るなんて…
はいはい、じゃ、また明日ね。」
立ち去る平川を見送りながら俺はつぶやいた。
「元気な子だな…。」
「えぇ、そうね。
最近やっと以前の明るいあの子に戻ったの、誰かさんのお陰で。」
「……何か言ったか?
じゃ、教室に戻ろうか。」
「そこもブレないのね…。」
ため息をついて立ち上がる鳴沢と一緒に俺は校舎へと向かった。
「…くはないかもしれないわね…。」




