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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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7話

 







 無言で走り去っていくハイリの背中見つめながら、ブムカイはわざとらしいため息をつく。


「今のはお前が悪い」

「なんでだよ?」


 ブムカイにわき腹を小突かれアーサガは不機嫌そうに眉を顰めながら彼を睨む。


「俺は事実を告げただけだ」

「だとしても、女の子に恥搔かせたのはなあ…」

「恥だったのか、あれ…」


 理解出来ないとばかりに困惑顔をしているアーサガへ、ブムカイはもう一度。今度は強めに小突いて言う。


「とにかく、ナスカちゃんの前で女の子傷つけるのは良くない! 後で謝っておきなさい」


 鋭く指されたアーサガだったが、娘の名前を出されてはそれ以上の反論は出来ず。

 また、自分の言い方にも非があったような気がしたと思い、舌打ちを洩らす。


「―――気が向いたらな」


 だが素直にはならず、そんな風に言い放ってアーサガは顔を背けた。




 何度目かのため息を洩らすブムカイは腰に両手を添えるとおもむろに尋ねた。


「そーいやこの後はどーすんだ? どうせしばらくは旅立たずブラブラする予定なんだろ?」

「ブラブラじゃねえ、兵器についての情報収集だ」


 不機嫌に顔を顰めながら答えるアーサガ。

 視線を背けたまま、ブムカイとは顔を合わせようとしない。

 だがそんな素っ気ない彼を気にする様子はなく。

 ブムカイは強引に彼の肩を組む。


「そうだ、せっかくだし昼飯奢ってやるよ」


 どんなに親身な態度を取っても終始しかめっ面のアーサガと、どんなに素っ気ない態度を取られても終始満面の笑顔のブムカイ。


「安月給で暇無しだって言ってただろうが。俺は別に…」


 と、そう言いかけて彼は、ふとナスカの方へ視線を移す。

 彼女はお腹を押さえながら、何かを訴えるかのようにじっとアーサガを見つめていた。

 軽く頭をくしゃくしゃ掻くと、アーサガはナスカに言った。


「ナスカ。奢ってもらうか」

「うん」


 ナスカは目を輝かせ、その金の髪と長い睫毛を揺らし、ようやく微笑んだ。

 ブムカイはそんな少女を眺め、嬉しそうに頷きながら言う。


「うんうん、言い忘れたけど軍食だけどね」

「…言い忘れたも何も。いつも食堂の飯しか奢ってもらってねえ」

「そうだったなあ」


 鋭く突っ込まれるも、気に留める様子もなく。

 ブムカイはアーサガの背中を何度も豪快に叩き、そして豪快に笑う。

 対照的な性格の二人だが、何だかんだと長い付き合いが故にこうしたやり取りも今や手慣れたもので。

 結局毎度、最後はアーサガがため息交じりに折れることとなっていた。

 今回もまた門番兵の敬礼を横目に、漆黒の弾丸とその娘、そして一軍人は門の向こうへと消えていった。









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