5連
お茶会が終わり、エミレスが帰路に就いたのは夕方頃のことだった。
屋敷前に止まった馬車の戸を開けると、早速従者達がお辞儀をして待ち構えていた。
エミレスは俯き顔でその道のりを歩く。
と、そのときだ。
「エミレスーーまっとったでーーっ!!」
従者の礼節を無視して駆け寄って来たリャン=ノウ。
彼女は突然エミレスを強く抱きしめた。
一部の従者たちは呆れた顔を浮かべ眺める。
「リャン…ただいま」
「おかえり! さ、はよ中に入りや、今日はぎょーさんおいしー料理作ってまっとったんやで!」
満面の笑顔でそう言うとリャン=ノウはエミレスの背中を押し、半ば強引に屋敷内へと連れていく。
天真爛漫と言うべきか、自由気ままと言うべきか。
呆れる従者たちの視線を受け、一人残されたリョウ=ノウは苦く笑い頭を下げた。
「姉がいつもすみません」
「まあリャン=ノウだしな、仕方がない」
「人見知りなエミレス様にはあのくらいの相手の方が丁度良いのよ」
大先輩に当たる初老の従者は笑って返し、熟年の侍女もまた呆れ顔で許してくれる。
彼女達の奥手さも気ままさも、今に始まったことではないからだ。
この屋敷に3人がやって来てから10年。
それがこの屋敷の日常になっていた。
自室へ戻ったエミレスは早速ドレスからいつもの普通着へと着替える。
「別にドレスでも良かったんやけどなあ」
「いいの。私にはちょっと似合わなさ過ぎるもの」
「そんなことないて言うてるのにー」
そう言って口を尖らしてみせるリャン=ノウ。
彼女は着替え終わったばかりのエミレスを、休む間も与えず食堂へと引っ張っていく。
「今日はお疲れさんっちゅーことで。好きなもんじゃんじゃん食って精力つけるんやで!」
長いテーブルが中央に置かれた広々とした食堂。
そこには大量の料理がテーブルを埋め尽くしており、エミレスは中央の椅子へと座らされた。
「作り過ぎだって、もう…」
「あー、じゃあ余ったらボクらが貰うわ。ええやろ?」
「最初からそのつもりなんでしょ?」
苦笑するエミレスに、「ばれた?」と言って笑って返すリャン=ノウ。
食欲なんて無いと思っていたエミレスだったが、目の前の御馳走とリャン=ノウの笑顔に釣られてしまい、気付けばフォークとナイフを手にしていた。
「今日は一緒に行けなくてごめんな? お茶会、どうやった?」
「やっぱり怖い人ばかりで…でもリョウがいたから助かったわ」
食事をしながらエミレスは今日の出来事をリャン=ノウに語っていく。
苦手なタイプの貴族の男に、地位目当ての商人の男性。
その陰で外見と身分がそぐわないと囁く青年貴族たち。
嫌だった記憶を全て忘れ去ろうとするかのように彼女は話した。
「そら今回も大変やったな…いらん虫が湧かんようリョウに頼んだっちゅーのに、なにやっとんねんアイツは」
「良いの良いの、付いて来てくれただけで私は大満足だから…」
憤りを表すように眉を顰めるリャン=ノウ。
彼女の怒りを宥めるべく両手を振って笑うエミレスの顔はみるみるうちに紅くなっていく。
それに気付いたエミレスは、慌てて隠そうと料理を沢山口に頬張っていく。
「ったく…リョウ相手にそんな様子やといつまで経っても成長でけへんて…」
そんな彼女の様子を眺めるリャン=ノウは先を思いやり、深いため息を洩らした。




