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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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55話







 

 目が覚めたアーサガは暫くぼんやりと天井を眺めていた。

 其処がベッドの上だと気がつくのに、少しばかり時間が掛かった。

 見覚えのある白い天井に白いカーテン。

 その証拠にカーテンの隙間から覗く窓硝子が、片方だけ新品のものと張り替えられていた。

 やがて視界が鮮明に戻り、アーサガは周囲を更に見渡すべく、勢いよく起き上がった。


「キャッ…!!」


 と、間近で聞こえてきた小さな悲鳴。

 それは娘のものではなく、ベッドの脇で座っていた軍服の女―――ハイリのものであった。

 丁度彼の顔を覗き込んでいたハイリは突然間近に迫ってきたアーサガの顔に驚いていたようであった。


「あんたか…驚かすな」


 肩を落とし、軽くため息を洩らすアーサガ。

 片やハイリは慌てながら顔を背け、眼鏡の蔓を何度も押し上げて言う。


「べ、別に驚かせたわけじゃ…貴方の監視と看護を任されたので、此処にいたまでです…!」


 が、彼女の話しには耳も貸さず、アーサガは周囲を見回す。

 ある存在を探しているからだ。

 ハイリはそんな忙しない彼を見つめ、ため息交じりに言った。


「…ナスカちゃんなら別室で休んでいます」

「そうか」


 そう言うとアーサガは早速その部屋へ向かうべく、ベッドから立ち上がろうとする。

 が、バランスを崩し、彼はベッドに倒れ込んでしまう。

 慌ててハイリが彼を支え、上体のみを起こさせた。


「無理をしないで下さい。その右脚の怪我…かなり無茶したみたいで悪化しているようです。2、3週間は絶対安静と言われました」


 ゆっくりとハイリの手を借りながらベッドに座るアーサガ。

 怪我の状態は生憎何重にも巻かれている包帯のせいで見ることは出来ないものの、確かに右脚はずっしりと重く痛く、思っている以上に動かすことが出来なかった。

 と、アーサガはあることに気付く。

 ジャスミンとの決着前後から、彼の記憶は曖昧になっていた。

 決着を付けた後、どうやって此処まで戻って来たのか。

 全く覚えていなかった。

 すると、アーサガの疑問を察しハイリが苦笑交じりに説明する。


「私もアーサガさんもあの建物の近辺で気を失っていたようです。そこへ任務として尾行していたリュ=ジェンがやって来てナスカちゃんが助けを求めたらしくて…」

「ナスカが…」


 いつも後を付いてくるだけで、それ以上のことは絶対にさせなかったししなかった娘。

 それが気付けば自分の意思で動き、一人で行動していた。

 今回の件で予想外の娘の行動に、アーサガは驚きを隠せないでいた。


「情けないです。結局私はは守るどころか守られてしまいました。軍人失格です」


 一方でハイリもまた今回の件での自分の軽率な行動に、酷い後悔を抱いていた。

 静かに俯いていた彼女は、今度は丁寧に腰を折り、深く頭を下げた。


「すみませんでした! その…ナスカちゃんを勝手に連れていって危険な目に遭わせてしまって…何とお詫びをしたら良いのでしょうか…」


 このまま自身の首を括りかねない勢いで、どんどん頭を下へと下げていくハイリ。

 アーサガは小さくため息をつき、震えた声を出す彼女へ言う。


「大方、あの女に惑わされたナスカが行きたいって言ったんだろ? だったらあんたは何も悪くはない。つかあんたも怪我させられたんだ。全部あの女のせいにしとけよ」

「いえ、この怪我は大したことなくて…」


 ハイリはそう言いながら自身の腹部を抑える。

 先の状況では随分と苦しんている様子であったが、現在の様子から察するに大した怪我にはならずに済んだ様であった。

 しかし、彼女は納得いかないとばかりに尚も訴える。


「…結果、私の身勝手な行動のせいで貴方にも多大な迷惑を掛けてしまったんですよ?」

「あんたが掛けた迷惑なんざ、あのお節介野郎(ブムカイ)のと大差ねえよ……ま、流石に顔引っ叩かれたことはなかったがな」


 そう言われハイリは頬を真っ赤に染め、「あれは勢い余って…」と慌てて弁明する。

 結局は引っ叩いた事を深く謝罪し直すハイリを見て、アーサガは少しだけ笑った。








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