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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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53話









「ち…くしょ…が……!」


 そう洩らしながら片膝を地に付けたのはアーサガの方だった。

 荒々しく呼吸を繰り返し、激痛によって歪めた顔を見せる。

 決着がつき緊張の糸が解けたからだろう、アーサガは脚どころか全身の激痛に襲われていた。

 と、アーサガは痛む脚に鞭打ちながらも立ち上がり、ジャスミンへと近づく。

 彼女は無言のまま項垂れ、その場に座り込んでいた。

 アーサガは投げ出されて地べたに落ちているジャスミンの銃を拾いながら言った。

 

「何故撃たなかった…?」


 その利き肩からは、痛々しく鮮血が溢れている。


「……ふん、どうやら弾を込め忘れてた、ようでね…」


 彼女はそう言うと軽く口端を上げながら「年は取りたくないね…」と付け足した。

 アーサガは顔を顰め、無言で彼女を見つめる。

 と、ジャスミンは撃たれた肩に手を当てながら、ゆっくりと立ち上がった。

 それから、アーサガに背を向けるよう静かに踵を返す。


「俺を愛する者のところへ行かせるんじゃなかったのか?」

「ふ、ふふ…あんたの言う通り、リンダのところへは連れてけそうにないし、連れてきたくもないんでね。やっぱり止めたよ…決着は、あんたの勝ちさ…」


 アーサガが負わせた傷は、致命傷という程ではない。

 ジャスミンはそのため、時折痛そうな顔を見せるも、平然とした態度でいる。

 アーサガを横切ると、何事もなかったかのように当てもなく歩き始めた。


「何処に行く気だ?」

「敗者は去るのが決まりだろ…安心しな。あんたらの前には二度と現れるつもりはないから」

「俺はそんなこと望んじゃいねえ」


 そう言ってアーサガは立ち去ろうとするジャスミンへと振り返る。

 が、彼女は決してアーサガを見ようとはせず。


「あたしが望んでるのさ。愛娘を連れ去って、危険な目に遭わせた馬鹿を一生許せそうにないからね…」

「……すまなかった」


 子を持って親となったからこそ、今だからこそジャスミンの憎しみがアーサガには痛い程理解出来た。

 謝ることも出来ず逃げ回っていた彼は、ようやく義母へ謝罪をした。

 だが、もう遅すぎた。

 ジャスミンは振り返ることなく、ゆっくりと歩き続ける。





 と、おもむろに彼女は足を止め、口を開いた。


「――最後に教えといてやるよ。アドレーヌはね、あたしがしていた事もあんたがやってる事も……絶対望んでなんかいないだろうさ…」


 ジャスミンの透き通るよう声が、墓所中に響き、よく聞こえる。

 思い返せば、彼女の歌声はアドレーヌの次に上手かった。


「…何故言い切れる?」

「真実は時として語るべきじゃない。あんたが教えてくれたことだろ?」


 彼女はそれだけ言い残し、また静かに歩き始めた。


「答えになってないだろが、おい…!」


 しかし、ジャスミンの足は止まらず。

 道なき道を―――茂みの奥へと進んでいく。


「もしもあんたを許せていれば…もっと違った道に立ってたかもね。まあ……闇の中を生きたあたしに、光の居場所なんて不似合いだけどねえ」





 木々の隙間から差し込む淡い光が、茂みの奥に消えていく彼女を包み込む。

 彼女が消えた雑木林の入り口には『この先崖危険』と書かれた看板が立てられていた。

 それは、二人が憎んで止まない兵器によって大地に作られた、大きな傷跡だった。


「あんたはいつだって結局甘いんだよ。あんたを捨てて行った俺の事なんざ…さっさとやっちまえば良かったろうに」  

 

 アーサガは握っていたジャスミンの銃の引き金に指をかけ、そして引き金を引いた。

 直後、大きな銃声が空中へと轟く。

 しばらくして宙を舞った弾丸は、墓所の地面へと辿り着く。

 銃弾は僅かに残されていた石畳の上を転がり、その亀裂の中へ静かに埋まった。


「光が不似合い? 馬鹿言うな、俺たちにとって……あんたは闇の中にあった光だったってのに…」





 アーサガは銃を、リンダの墓石の前に置いた。


「今度は…ナスカと来る」


 そう言ってアーサガは踵を返し、墓石に背を向ける。

 と、突如一陣の風が墓石をすり抜けるように吹き、彼の背を押した。

 アーサガは静かに口端を上げ、振り向くことなくその場を後にした。 









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