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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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48話









 小雨が止まずに降り続く中、ナスカたちは辿り着いたカラメル街道を歩いていた。

 かつて『スラム街道』として名を馳せていたこの道の店店は、新国家誕生を気に衰退の一途を辿った。

 争いによって焼け野原となった地を新たに開拓するため、貧民たちへ新国王が呼びかけたからだ。

 それも、国王直々に貧民たちのもとへ赴き、わざわざ願い出たのだという。

 更に開拓の助成もしてくれるとなれば多くの貧民たちは早速新天地へ向かい、この街道から去って行った。

 こうして客であった民たちが居なくなり、街道の店店は次々と閉店に追い込まれた。

 今でこそかつての賑やかさを取り戻しつつあるものの、未だに閉店した店舗が手つかずのまま廃墟と化しているのにはそう言った過程があったからだ。

 と、ハイリは以前目を通した資料の記述を思い出す。




 ナスカが目的地とする『ヴェムラ』も、元は集合住宅であったようだが、今はただの廃墟らしく。

 立ち入り禁止の立て札が立ててあるのみで、人が住んでいる様子は全く無い。


「こんなところに、ジャスさんが……」


 地図に目を通した時からハイリには一抹の不安があった。

 連日の火災事件同様、今回もまたカラメル街道の一角。なのだ。

 更には『ヴェムラ』という闇言順らしき単語。

 ここ最近目撃していたアーサガの言動、そしてジャスの正体。

 それらはもしかすると一本に繋がるのではと、ハイリは今更に推測する。


(やっぱりこんな場所に許可なく来るべきではなかった…軍に報告した方が良かったのかもしれない…でもそうしたら、この子は絶対一人で行ってしまう…)


 ナスカの手を強く握り締め、ハイリは意を決し、唇を堅く結びながら建物へと踏み込んでいく。

 ナスカも同じく、真剣な面持ちで彼女の隣を歩いていた。





 

 かつて“ヴェムラ”と呼ばれていた廃屋。

 そのいくつかある扉のうち、釘や木板が打ち付けられていない扉が一つだけあった。

 此処まで来て足が竦み始めるものの、ナスカとの約束がある。

 ハイリは勇気を振り絞ってドアノブを握った。

 冷たいと感じない金属製のドアノブはゆっくりと回り、扉が開かれていく。

 室内は薄暗く、廃屋らしい埃っぽい空気が広がっている。


「ナスカちゃんは此処で待って―――」

「ナスカも行く」


 そう言ってハイリを見つめる真剣な眼差し。

 駄目、と言っても引く様子を一切見せない少女に根負けし、ハイリはナスカの手を引きながら、更に奥へ進んだ。

 狭い廊下を抜けた先には、部屋が一室あるだけというシンプルな間取り。

 あちらこちらに使われなくなったものだろう廃品が並ばれている。

 だが、そのどれもこれもが整理され置かれているようにも見える。

 部屋の中央にはダブルベッドがドンと置かれており、そのベッドのみが唯一埃も煤も無く綺麗にされてあった。

 掛けられた布団もシーツも、真新しい鮮やかな色をしている。

 と、そんなベッドでは先客が二人を待ち構えていた。

 先客というよりは元々居座っていた住人という言葉が正しいかもしれない。

 ショートの金の髪に蒼い瞳。

 真紅の口紅に短めのタイトスカートが印象的な女。

 妙齢にも中年にも見え、かつ高圧的に見える容姿。

 それとは別に、数々の修羅場を潜って来たと言わんばかりの貫禄がその女にはあった。

 ハイリが声を出すよりも早く、その女が先に口を開く。








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