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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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45話










「ええっ? 良いんすか?」


 走る、と言っても激痛の中、無理をしているアーサガの走り方はとてもぎこちないもので。

 追いかければ直ぐに捕まえられそうなものだった。

 が、ブムカイは彼を追いかけることもなく、動揺しているリュ=ジェンもまた追うことをせずにいる。


「あいつってさ―――無理して気張ってるだけで、ガキのままなんだよな…だからさ、どうにも背中押してやりたくなるっていうか…つい兄貴心が動いちゃうんだなあこれが」


 そう言って穏やかに笑うブムカイ。


「ま、お前ら問題児ばっか預かってる身だからね、いつでも首差し出す覚悟は出来てるさ」

「…いくつあっても足りなさそうっすけどね」


 そう洩らすリュ=ジェンへブムカイは、ため息交じりに横っ腹を小突いた。

 だったら少しは真面目に働け、とブムカイに言われ渋々踵を返すリュ=ジェン。

 が、その場を去ろうとした彼を突如ブムカイが呼び止める。


「ああ、待って」

「はい?」


 足を止めたリュ=ジェンへと近付き、ブムカイは満面の笑みを浮かべながら彼の肩を叩いた。


「ちょっと重要な任務、頼まれてくんない?」







 基地前で門番をしている兵士は、小雨が降り続く空を見上げながら深いため息を吐いた。


「こんな天気の中で仕事とはね、番兵なんてやるもんじゃないね」

「俺は~楽しいすけどね~」


 と、そんなやり取りをする番兵のもとへ近付いてくる一人の男。


「漆黒の弾丸さん?」


 彼についての経緯は知らないものの、番兵たちは『漆黒の弾丸を見かけたら絶対に外へ出すな』という命令を上司から受けていた。


「すみません、貴方を通すわけにはいきません」

「命令す」


 故に二人は任務を全うするべく即座に彼の前に立ちふさがる。

 だがアーサガはそんな二人を押し退け、無理やり通ろうとする。


「頼む、通してくれ…!」

「で、ですが…命令なんで…」


 負傷している脚を庇いつつ、番兵の制止を振り切ろうとその腕に食らいつくアーサガ。

 怪我のせいもあるのだろうが、いつもとは様子の違う漆黒の弾丸に、番兵の一人は困惑の色を隠せなくなる。


「ナスカを…連れ戻しに行かねえと…」


 “漆黒の弾丸”。

 そう呼ばれている彼のあの覇気がそこにはない。

 彼の今の姿はまるで、娘を想う父親の姿そのもののようだと、番兵は思う。


「お嬢さんはハイリ副隊長と共に外出したのを見ました。心配はいりませんよ」

「アイツじゃ駄目なんだ…頼む…!」

「しかし……」


 と、そのときだ。

 いつの間にか持ち場を離れていたもう一人の番兵が、黒いエナバイクを押しながら戻って来たのだ。


「漆黒の弾丸さん~、もってきやしたよ」

「な、何持って来てんだお前は…!」


 手を振り、満面の笑みを浮かべるその番兵の奇行に、相方の番兵は開いた口が塞がらなくなる。


「助かる…!」


 驚いてしまっている番兵の隙をつき、アーサガは彼の腕を押し退け、バイクに跨った。

 既に鍵は挿し込まれており、エンジンを可動させれば起動音が周囲に鳴り響いていく。


「あ…」


 そう呼び止めようとしたが、時すでに遅く。

 一瞬にして走り去っていくエナバイクの後ろ姿を眺めることしか出来なかった。


「お気をつけ~」


 呑気に手を振って見送る相方へ、番兵は思いっきり背中を引っ叩いた。


「何やってくれたんだ、命令違反だぞ!?」


 しかし、当の番兵は叩かれたとしてもキョトンとした顔で見つめ返すだけ。


「駄目す?」

「当たり前だろ!?」

「だって~」


 睨みつける番兵から視線を移し、もう一度、規律を破った番兵は地平線の彼方へ消えたエナバイクを見やりながら答える。


「あんな漆黒の弾丸さん始めて見たす」

「そ、それは確かに…そうだが…」

「これだから門番は止められね~す」


 反省する様子もなく、笑ってそう話す相方の番兵。

 自分は何も悪くはない。悪いのはコイツだ。

 そう頭で思いつつも、最終的には連帯責任として一緒にお叱りを受けることになる。

 もう何度目のことかと、これまでの記憶を思い返し番兵は項垂れながら深いため息をついた。

 

「今度こそ減給じゃ済まないぞ…」


 無邪気にいつまでも手を振っている相方を一瞥し、それから彼は頭を抱えた。

 

 



 




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