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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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42話









 翌日。

 昨日から引き続き、空は薄暗く小雨は止まず降り続いている。

 アーサガは前日いた医務室から場所を移され、今回は別室で一晩を明かしていた。

 本来ならばもっと厳重体勢で拘束されても可笑しくはないが、彼の肩書きとブムカイの根回しもあってさほど重く捉えられずに済んでいた。

 と、昨夜ブムカイからそう注意を受けたアーサガであったが、残念ながら彼の耳には全く入っていなかった。


「くそっ…! 此処を開けろ!」


 アーサガは怪我した脚のことも気にせず、何度もドアを叩いていた。

 室内にはベッドと小さなテーブルがあるのみで、他には何もなく。

 窓もなければドアは重たい鉄製で。

 まるで独房とも取れるその部屋にはアーサガしかおらず、娘ナスカの姿はそこにはなかった。


「ナスカはどうした!? 会わせろッ!」


 ドアノブは付いてはいるものの、握ってもびくともせず動こうとしない。

 唯一ドアに取り付けられている監視窓から、外の様子は窺えた。

 が、誰かが通りかかるという気配もなかった。

 武器の一切は没収されており、お手上げ状態だった。

 「畜生!」と怒鳴り、彼は最後に思い切りドアを殴りつけた。




 扉を背に座り込んでいたアーサガへ声がかけられたのは、それから暫くしてのことだった。


「よ、この悪ガキが。やっと起きたようだな」


 顔は見えずともその声がブムカイのものであるとアーサガは直ぐに気付く。

 と同時にいつもの飄々とした嫌な笑顔をしていることだろうと想像がつき、アーサガはため息をつく。


「ナスカを返せ、誘拐野郎」


 ブムカイは監視窓から様子を見るべく覗き込もうとしたが、覇気のない彼の返答から状態を察し、静かにその扉へと寄りかかった。


「釈放までは返すつもりはない…なんてな」


 冗談交じりに返してみるも、いつものような返答は一行になく。

 アーサガの沈黙もいつものことではあったが、顔色が窺い知れないぶん妙にしっくりこないなと、ブムカイは人知れず苦笑を洩らす。


「ナスカちゃんはハイリが保護しているよ。まあ、真面目な彼女ならどうこうすることはないと思うけど」

「じゃあ此処から早く出せ」

「それは出来ん。ちょっくら反省してもらわないとさ、こっちも色々都合があるのよ」


 ブムカイはそう言いながら少しばかり監視窓から彼の様子を覗く。

 が、覗いた先にアーサガの姿は見えない。

 声は聞こえているので特に気にすることもなく、ブムカイは話しを続けた。


「あ、そういや聞いたぞ。ナスカちゃんぶったってな」

「何が言いてえんだ?」

「俺はさ…ナスカちゃんが生まれる前からお前を見てきた。もう、12年くらいは経つか。だがその間、お前が女子供に手を上げたなんて一度も聞いたことがなかったぞ? 何があった?」


 アーサガは暫く沈黙した後、「わからねえ」とだけ呟き、再度口を閉ざす。

 と、ブムカイにしては珍しく、わざとらしい程大げさにため息をついてみせた。


「…実はさ、お前を一発殴ろうと思って此処に来たわけだが、それはお前が「知るか」とか「俺の勝手だろ」とか言い返したらにしようと思ってたわけだ」

「…だから何だって言うんだ」

「わからねぇって答えてくれたのが―――不謹慎ながらちょっち嬉しかった」


 扉の向こうでアーサガの舌打ちする音がブムカイの耳に入る。

 おそらく今の彼はいつものようにしかめっ面で不機嫌そうにしているのだろうと予想し、ブムカイは自然と笑みを浮かべた。









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