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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
40/360

38話









「……後々、アドレーヌは英雄どころか神と呼ばれ、人が求める存在になるだろうさ。彼女を崇め、彼女の言ったとされる言葉は信者達によって保たれる…それこそアドレーヌが望んだ世界。なんとも素敵な美談じゃないかい」


 ジャスミンの周りに立ち込める煙を見つめながら、アーサガは嫌悪した表情を浮かべて言う。


「言ってる意味がわからねえな。んなことは信じる奴が勝手にやりゃあ良い。だがそれと過去の場所を潰し回ることと何の関係がある…!?」


 彼女のため息と共に、白煙が口から吐き出される。


「つくづくバカだねあんたは…女神と呼ばれるべき存在に、醜い過去があっちゃいけないだろ? 特にあの歌…あんな綺麗な歌がこんな醜い場所で歌われてたなんて語れたくないんだよ。だから…あの子にとって忌むべき記憶の場所なんてない方が都合良いわけさ」


 直後、銃声が響く。

 放たれた銃弾はジャスミンの髪の毛を散らせた。

 彼女の髪からは焼け焦げた匂いが漂い、散った毛髪が静かに地へと落ちる。

 しかし当のジャスミンに驚いた様子は一切ない。

 変わらず不敵に笑みを浮かべているだけ。


「馬鹿言え! あんたのしている事は間違ってる! そんなこと…少なくともアドレーヌは望んじゃいねえ!」


 銃弾は更にジャスミンの頬を掠めるギリギリのところを通過していく。

 だが、それでも彼女は顔色一つ代えさえもしない。

 優雅な表情で、煙草を吹いているだけだ。

 その挑発めいた行為が、余計に彼の怒りを逆なでていると知っていながら。


「望む、望まないは関係ないんだよ。あたしはあの子を女神に仕上げたいんだ、それだけのことさ。あんたこそ…無意味なガラクタ集めは辞めたらどうだい?」

「無意味…だと?」


 奥歯を噛みしめ、アーサガは昂る感情を必死に抑える。


「そうさ、兵器ってのは人の考え方を変えない限り絶対に生み出される物なんだよ。だけどアドレーヌを神にすれば。それを無くすことは簡単さ『神は兵器を望んでいない』そう教え込ませりゃ良いんだよ」


 ジャスミンの言葉にアーサガは内心震えた。

 確かに彼女の言ったようにアドレーヌが神と呼ばれる存在になれば、アドレーヌの言葉を絶対とし崇め、兵器も争いもない世がいつか来るのかもしれない。

 その方が、兵器も争いもない幸せな世界が訪れるのかもしれない。

 そんな考えが過ぎってしまったからだ。


「いや―――兵器を無くすことが間違ってなんかない! 兵器がなけりゃあ誰も傷つかねえんだよ!」


 アーサガは手持ちの銃に弾がなくなったことに気がつき、丁度手にしていたジャスミンの持っていた銃を向け直す。


「本当に馬鹿だね、此処まで言ってやってるのに…兵器がなくたって人は傷つくし争うもんさ。だからアドレーヌを女神にして根本から変えてやるしかないのさ…!」


 アーサガは固唾を飲み込み、もう一度ジャスミンの心臓を狙う。

 ジャスミンの口角を吊り上げた―――しかし何処か真剣みを帯びた表情は変わらない。

 彼女は微笑を浮かべたまま話を続ける。 


「あんたは兵器が怖いだけさ。何せやっちまったからねえ…兵器回収なんかしているせいで最も許し難い過ちを…!」










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