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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第一篇   銀弾でも貫かれない父娘の狼
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2話

 







「こんな僻地に丸腰で賊やる野郎がいると思ってんのかよ、バカがよ!!」

「流石だぜ、アニキ!」

「まあ、観光ついでで狩人(ハンター)やってる子連れ野郎なんかにゃ、辺境のヤバさも知らなかったんだろうけどなあ!」


 そう言って少女に銃を向け、高笑いするリーダー格の男。

 形勢逆転だ。そう確信した男たちは勝者の笑みを浮かべていたのだ。

 しかし、ヘルメットを被っている少女は何故か、銃に恐怖する様子を微塵も見せず。

 狩人(ハンター)の男もまた、動揺する素振りもない。

 まるで何度も見飽きた光景だと言いたげに、子連れの狩人(ハンター)は深いため息をわざとらしく吐いた。


「……てめえの方こそ、何にも知らねえ呑気野郎みてえだな」


 悠然とした挑発的な一言。

 リーダー格の男が怪訝に眉を顰めるよりも先に、直後。

 狩人(ハンター)は持っていた拳銃をその男へと目掛けて投げた。

 突然、自身の武器を投げ渡してきたその行為に、思わず吃驚してしまう賊の男たち。

 が、それも束の間。

 狩人(ハンター)は懐から素早く別の拳銃を取り出し、少女へと向けられている銃を撃った。


「なっ、がっ!?」

「くそっ…こいつ!」


 ノールックで的確に射抜かれた賊の銃。

 それは手から弾かれ宙へと舞う。

 一瞬で起こった出来事に賊の男二人は目を丸くし動揺する。

 しかし反撃に転じるべく即座に武器を構えようとした。

 が。武器を構えることなく二人は硬直する。

 見れば賊の二人それぞれに、銃口が向けられていた。

 最初に銃を突き付けられた男は口元へ、リーダー格の男は心臓目掛けて。


「な……何丁持ってやがんだよコイツ…」


 降参とばかりに二人はほぼ同時に両手を挙げる。

 しかしその視線はまだ諦めておらず。

 リーダー格の男は仲間が後ろ手に縄で拘束されようとしている隙に、地面に落ちていたその黒い塊を蹴り上げた。

 狩人(ハンター)が先ほど投げてきた拳銃だった。


「何丁持っててもこれじゃあ意味がねえ―――!!」


 次の言葉は、銃声でかき消された。

 ズドン、という低い音と同時に発せられた弾丸は、狩人(ハンター)に―――ではなく。

 何故かリーダー格の男の頬を掠めた。


「な、なんで…!?」


 動揺する男は、顔を歪めながら腰を抜かしてしまう。

 男が握っていた拳銃の引き金は、間違いなく、今も引かれたままだった。

 ならば暴発か、そんな困惑めいた顔を見せる男へ、狩人(ハンター)がゆっくりと近付いてくる。


「単純なんだよてめえらは…子連れだとわかれば娘を人質にする。武器を落としとけばそれを拾ってやりにくる…」


 男が動き出す前に、狩人(ハンター)はその眉間へ銃口を突きつけた。


「てめえらが拾うはずの銃に弾なんか詰めとくわけねえだろ」


 と、直後。

 ドンと一発、何の前触れもなく狩人(ハンター)は男へと再度銃を撃った。

 それはまたもや頬を掠めさせるだけで終わる。


「…娘の前だから優しくしてやってるわけだが…これ以上ふざけたら、本気で打ち貫くからな?」


 容赦しないと威嚇するかのような低い声。

 これ以上は成す術もなく。

 仕方なくリーダー格の男は降伏の体勢を取った。





「あ…ああっ!! ま、まさか…子連れで黒衣の男って―――!!」


 すると突然、御者の男は両手を挙げながら、巷で囁かれていた噂を思い出した。


「多数の銃を隠し持ち、疾風のような早撃ちで罪人を射抜く無鉄砲―――付いた通り名が“漆黒の弾丸”(しっこくのだんがん)…!!」

「な、なに…まさか…!!?」


 賊の男たちもその言葉に記憶を呼び起こし、目の前の狩人(ハンター)を見つめる。

 人も住まぬ辺境の地ばかりで悪行を働いていた彼らであったが、彼らさえもその噂は耳にしていた。

 子連れで、何丁もの銃を同時に扱い、全身黒尽くめで、人の心がない冷血漢。

 それ以外にも尾ひれがついたような噂が様々に飛び交っていたため、所詮は噂だと賊の男たちは思っていたのだが。

 現在目の当たりにしている狩人(ハンター)を見て、男たちはようやく噂が事実であったことを理解した。


「その呼び名は好きじゃねえんだが…まあ解ったなら話は早い。連行するから大人しくさっさと馬車に乗れ」


 それと。

 そう付け足して狩人(ハンター)はリーダー格の男の頭を鷲掴みにする。

 想像以上の握力によって頭は締め付けられ、激痛に男は顔を歪める。


「二度と娘に手ぇ出すんじゃねえぞ…」


 その殺気にすっかりと気圧された男たちは竦み上がり、小さく頷いた。


「…はい」


 両手をしっかりと縄で拘束され、静かに馬車へと乗り込んでいく男。

 そんな様子を眺めながら、バイクに乗ったままであった子供はパチパチと小さく手を叩いていた。









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