109項
セイランを待っている最中。
ついウトウトしてしまい、うたた寝をしていたソラ。
するとそのとき。一人のアマゾナイトの声が聞こえてきた。
「ルーノ隊長補佐!」
その言葉を聞いたソラは、思わず飛び起きる。
急ぎよだれを拭いながら辺りを見渡して、そして待望の人影を見つけた。
「——兄さん!」
一月半ぶりの兄の姿だ。
先ほどの男性アマゾナイトと何やら会話の最中であったが、そんなことソラには関係なかった。
その懐かしい兄の傍へと、ソラは一直線に駆け寄っていった。
ソラの登場に気付いたセイランは一瞬目を見開く。
しかし、直ぐにいつもの笑みを浮かべると、両手を広げ、妹を歓迎した。
「ソラ! こんな非常事態の状況下だというのに…よく此処に来られたね」
「うん! まあ、手助けしてくれた人が居てね」
「そんな親切な人がいたとは……それじゃあ、今度出会ったら礼を言っておかないとね」
セイランはそのまま、最愛の妹との雑談を始める。
それまで会話していたはずの男性アマゾナイトはそっちのけだ。
セイランの家族愛―――特に激しい妹愛については本部内でも知れ渡っていた。
それ故に彼の部下である男性アマゾナイトも。
「またか……」
と、呆れて肩を竦めていた。
だが、そこで二人に時間を譲る余裕はないようで。男性アマゾナイトは兄妹の再会に、大きな咳払いという水を差した。
「オホン……すみませんが、報告を続けてもよろしいでしょうか?」
「ああ、ごめん。構わないよ」
男性アマゾナイトは吐息交じりに、淡々と報告を再開する。
片やソラとしては、また待ち続けてしまうのではという不安から、思わず会話を制止するような声を上げる。
「あ、あのさ兄さん…!」
「すまない、ちょっと待ってくれないか…ソラ」
だが、制止させられたのはソラの方だった。
彼女は閉口せざるを得ず。二人の会話が終わるまで口をへの字にして待つことになる。
いつものソラならば、こんな状況でもお構いなしに割り込んでいただろう。
しかし兄の前では別。彼女もまた妹バカ故に、兄に対しては至極大人しいのだ。
「では、手短に済ませます―――灰燼の怪物の行方について報告が入ったのですが、どうやら王都南西の門から侵入した痕跡があるとの連絡がありました」
「え……灰燼の怪物が……」
思わずソラの方が反応してしまう。
二人は構わずに会話を進める。
「痕跡、というと被害が出ているということか」
「はい。門の封鎖任務に当たっていたアマゾナイト12人が重症で発見されまして。皆、重度の火傷を負っていました。他にも封鎖により門前で待機していた一般民にも被害が出ているとのことです」
「アイオライト将軍は?」
「王都内に緊急事態宣言を出すべきだと、一人で国王様へ直談判されに行ってしまいましたよ。まあ……『手順を踏んでいないから無理だ』と言われて門前払いになっていそうな気がしますが」
気付けばソラは二人の会話に耳を欹てていた。その内容が灰燼の怪物のこと、となれば無理もない。
しかし、このような重要会話を一般民に聞かせてしまっているのは如何なものかという話だが。
セイランも部下の男性も、特に気に留めることはなく。そうして会話は終了した。
「……とりあえず、俺も後で登城してみるよ。君たちは引き続き各部隊長と連携して灰燼の怪物の捜索と確保を頼む」
「はい、了解しました」
男性アマゾナイトはセイランへ敬礼すると、踵を返し、何処かへと去っていった。
会話の内容―――灰燼の怪物についてもっと詳細に聞きたかったが、それよりももっと重要な話をする方が先決だと、ソラは急ぎ言った。
「兄さん、大事な話があるんだけど!」
懸命な妹の叫び。その様子にセイランは特に驚くこともなく。まるでこうなることを予感していたかのような、穏やかな表情をして頷いた。
「解ったよ。此処ではなんだから……俺の部屋で話を聞こうか」
そう言うとセイランはソラの背を優しく押し、アマゾナイト本部内の奥へと案内していった。




