表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
346/360

96項

     






 闇の組織『丼鼠(どんねずみ)()』のマスター、ヴァラ・メンブルムが国王騎士隊に捕まった。

 その新聞の見出し記事を読んだジャスティンは目を丸くして叫んだ。


「ヴァラ・メンブルムだと…この男、商人界隈では重鎮中の重鎮ではないか! 国王の忠臣とも呼ばれていたような有名人が何故、一度は崩壊した組織のマスター(ボス)などを……しかもアマゾナイトではなく国王騎士隊に―――」


 そう口にしたところでジャスティンは()()()()に辿り着き、思わずその先の言葉を噤む。

 ちなみに国王騎士隊とは国王直属の精鋭部隊であり、アマゾナイトとは全く別の機関だ。国王直属だけに国王騎士隊(彼ら)の方が権限を持っていると言っても良い。




 と、思案顔で口を閉ざしたジャスティンに代わって、セイランが語った。


「とにかく。この一大ニュースによって俺のここ一月半の努力が水泡に帰したわけなんだけど…それ以上に厄介なのはこの一件によって、灰燼の怪物(グリート)の今後の動きが全く読めなくなってしまった…ということだね」


 二度目の摘発により今度こそ『丼鼠(どんねずみ)()』は崩壊する。

 そうなれば、組織の一員であったという灰燼の怪物(グリート)は良くも悪くも自由の身となってしまった。

 (グリート)は組織壊滅の腹いせに王国へ復讐するのか。はたまた、そのまま着の身着のまま行方を晦ますのか。その動向は流石のセイランも読めないといった様子で、彼は苦笑しながら肩を竦めた。


「では国王の奴が王都を閉鎖したのは、灰燼の怪物(グリート)の報復を警戒して…ということか」

「表向きは、ね……実際のところはどうかな。今回の騒動で様々なデマも噂も飛び交っているからね。例えば『丼鼠(どんねずみ)()』は王国の最新エナ技術を盗んで灰燼の怪物(グリート)に使わせていた、とか…彼以外のメンバーも報復のため王城を襲撃しようと画策している、とかね」


 セイランの台詞を聞き、ロゼは人知れず苦い顔をして呟いた。


「それは…イヤなデマね」

「良くも悪くも、嘘も真実も横行しているこの事態を見て王国側は王都閉鎖(あんなこと)をしているんだろうね」


 ことん、とセイランは空になったティーカップをテーブルに置く。

 それからセイランはその視線をおもむろにロゼへと向けた。それに気付いたロゼは、静かに視線を逸らした。


「それで…もう1つの聞きたいこととは?」

ロゼ(その者)のことだ」


 逸らした視線の先でジャスティンと目が合い、思わぬ名指しにロゼは瞳を大きくさせる。


「あら…やっぱり気になってしまうのかしら。これだから美しいものは罪よね……」


 酔いしれるような手振りで語るロゼ。

 が、以前とは違い動揺する様子もなくジャスティンはロゼに向かって言った。


「……シマ村の少女(ソラ嬢)たちが貴殿を追ってこの王都まで来ているぞ」


 直後、ロゼは僅かに顔を顰める。

 一方で、(ソラ)が来ているというのに驚くどころか、待っていたとばかりに冷静に笑みを浮かべるセイラン。そんな彼を、ジャスティンは目の端で捉える。


「……やはり…これもまた貴殿(セイラン)の目論見通りということか。まあ目論見(それ)については追々聞くとして…私が聞きたい2つ目というのは、ずばりロゼ(その者)が一体何者か。ということだ」


 ジャスティンは眼鏡を押し上げた後、その指先でロゼを指す。

 食指を向けられたロゼは不快とばかりに顔を顰めながらジャスティンの指先を退かした。


「聞けばシマの村でグリートを退いたのはロゼ()のお蔭だというが、アマゾナイトですら手を焼く極悪人を一介の旅人がそう簡単に退けるものなのか? それどころか彼は灰燼の怪物(グリート)の名を聞いても怯えるどころか勇往邁進といった様子だったぞ。更にはソラ嬢もダスク・ルーノ殿も彼がどう退治したのかと聞いても、肝心なところは口を閉ざす始末だ」


 語りながら徐々に口早になっていくジャスティン。

 それはもう質問というよりは、セイランへの苦情のようになっていた。


「そもそもだな、『鍵』とやらについても『妹に預けたから守ってくれ』と…まあ一方的な文だけを寄越しておいてだな……」


 と、そんな彼を制するようにセイランはおもむろにジャスティンの懐―――封筒を指差しながら言った。


「まあまあ。急だったものでさ、説明不足だった点は謝るよ。その代わりその文には重要なことは全て記してあるつもりだから……読んでくれれば粗方解るはずだ」


 ジャスティンは自分の胸元に手を当て、封筒を一瞥する。

 またしても上手くはぐらかされたのでは、という疑心を抱きつつもジャスティンはもう一度眼鏡を押し上げた。


「フン…それが本当だと言うならば、私はもう何も言うまい」


 それからジャスティンは静かに席から立ち上がり、最後にもう一度ロゼを見つめた。

 思わず重なる視線にジャスティンもまた眉を顰める。


「……まあ、ロゼ(貴殿)の正体については…ようやく心当たりが合ってな。おおよその予測はついているのだがな」


 そう言うとジャスティンはテーブルに広がったままの新聞を一瞥した後、無言のままその部屋を出ていった。





     

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ