90項
そうこうとソラたちは話しをしているうちに、アマゾナイト用車は王都の中心部手前にある大通りに辿り着いた。
この大通りから王城へは一直線に続いており、それとは別にここから西側へ進んでいくと街並みからその外れた先にアマゾナイトの本部がある。
大通りに差し掛かる一角にてエナ車を停車すると、ジャスティンは皆に向けて言った。
「さて、同乗はここまでだ。ここからどうするかは君たちの勝手だが…予め言っておくが『アマゾナイト本部まで同行させろ』などというのは流石に私も許可はできんからな」
ソラたち一行に―――と言うよりはソラへと食指を向けて忠告するジャスティン。
片やソラ本人はというと、彼の忠告を聞くのか聞かないのか。口先を尖らせながらそっぽを向く。
「いえ、ここまで連れてきてくださっただけで充分です。ありがとうございました」
そんなソラを庇うべく、カムフは慌てて皆を代表して頭を下げる。
と、ジャスティンはおもむろに懐から手帳とペンを取り出した。
その手帳に何やら書くと、それを引き千切りカムフへ手渡した。
彼が手渡してくれたメモには何処かの通りの名称と、店らしき名前が書かれていた。
「私の古い知り合いが営む宿だ。私の名前を出せば格安で部屋を貸してくれるだろうから、とりあえずはそこで大人しくしておくと良い。それと…私の方もロゼへの何か手掛かりを探しておくから、何か情報を掴んだら連絡しよう」
思わぬ言葉にきょとんとしてしまうソラたち一同。
その様子にジャスティンは不満げに眉を顰めた。
「これではまだ足りないと言うのか…?」
「い、いえ…あまりにも至れり尽くせりに提供してくれるので、逆に驚いちゃって…本当に何から何まで…ありがとうごさいます!」
もう一度深々と頭を下げるカムフ。
するとジャスティンは顔を背けてから言った。
「フン…これくらいアマゾナイトとして、大人として、当然のことだろう」
そう言って静かに眼鏡を押し上げるジャスティン。
「あ、きっと照れてるのよ」
「誰がこんなことで照れるというのだ!」
レイラの指摘に顔を真っ赤にして否定するジャスティン。
そんなしかめっ面を見せたままのジャスティンに、ソラはおもむろに尋ねた。
「あ、あのさおじさん…」
「だからおじさんではなく、アマゾナイト南方支部総隊長補佐官ジャスティン・ブルックマンだ」
「ロゼ…見つかると思うかな…?」
意外な質問を投げかけられ、ジャスティンは目を丸くする。
少女が見せた、刹那ほどの不安。だがそれを幼なじみたちではなく二、三度出会った程度の他人にまで聞くとは―――刹那に見えて、実際は相当根が深い不安なのだろうと、ジャスティンは思案顔を浮かべ、眼鏡を押し上げる。
彼は暫くの沈黙の後、口を開いた。
「……どうせ、私が何を言ったとて、君はまるで嵐のように他人も巻き込み突き進む娘なのだろう? ならば自分の信じるままに吹き荒れていればいいだろう。もしかするとその勢いに巻き込まれて、ひょっこりと出会えるかもしれんしな」
「そ、その例え誰から聞いたのさ!? もしかして父さん!?」
「…まあそんなところだ」
そう言って笑みを見せるジャスティンへ、ソラもまた返すように笑みを浮かべた。
「けど…そうだよね、ありがとう! おじさん!」
「だーかーらー…私はアマゾナイト南方支部総隊長補佐官ジャスティン・ブルックマンだ!」
と、訂正するジャスティンを他所に次々と下車していくソラたち。
先ほどの笑みから一転して眉を顰めつつ、ジャスティンは彼女たちが全員下車したと同時にアクセルペダルを踏んだ。
ソラたちが何か言うよりも早く、アマゾナイト用車は一気に彼方遠くへ去っていく。
「何だかんだで良い人だったね」
「良い人って言うよりは、チョロい人って感じもしたけどね」
「いないからってまたそんな失礼なことを…」
そんな会話をしつつ、おもむろに歩き出すソラたち。
すると、レイラは顎下に指先を添えながら、意地悪い笑みを浮かべて言った。
「だってさ、ああ言うタイプの男性って…奥さんの尻に敷かれてそうじゃない?」
「それは…まあ否定は出来ないけど。そもそも、ブルックマンさんって独身だって言ってたぞ」
「え、そうなの!?」
いつの間にやら話に花が咲き、徐々に声量も大きくなっていくソラたち。
シマの村でのいつもの風景をここで取り戻そうとするかのように。
彼女たちはその後も騒がしく煩く話しながら、街中を進んでいった。




