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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
339/360

89項

     







 凶悪犯とはいえ灰燼の怪物(グリート)一人に対して、王都の門を全て閉鎖するという大げさなくらいの警戒心。

 そんな違和感にカムフが行き着いたある推測。

 と、彼は隣に何も知らない人間(ジャスティン)がいることに気付き、聞かれては困ると慌てて口を噤む。

 するとジャスティンは眼鏡を押し上げながら言った。


「案ずる必要はない。ロゼ()らが扱ったという面妖な力についてはルーノ殿から少しばかり報告を受けている。勿論、他のアマゾナイトには伏せてあるがな」


 そう話すジャスティンは何処か半信半疑の様子で。

 だがカムフ自身も、ロゼや灰燼の怪物(グリート)が扱っていたという異能力についてはソラから聞いただけでこの目で見たわけではなく。彼の心情も理解出来ると思っていた。

 

 

「しかし、『エナ使い』とは……まさか冒険家ウミ=ズオ氏が生み出した単語がこうして生かされる日が来ようとは思わなかったな」


 意外な言葉を聞いた途端。カムフは目の色を変えてジャスティンを見た。


「ま、まさか、ブルックマンさんもウミ=ズオのファンですか? こんなところで同じファンの人と出会えるなんて…やっぱウミ=ズオは偉大ってことですよね! ちなみに『エナ使い』の名称が出されたのは初期の頃なんでもしかして結構前からのファンだったり―――」


 と、カムフが口早(ヒートアップ)していくところでジャスティンはわざと咳払いを一つ零す。

 その声で我に返ったカムフは再度口を手で覆った。

 

「私が言いたいのはな…国王の奴が『エナ使い』という存在を認め、更にはその危険性も把握しているだろうということだ」

「つまり…灰燼の怪物(グリート)が『エナ使い』だということも知っているからこそ、王都の門を完全閉鎖する…と?」

「そういうことだ。そして、そんな『危険な存在(エナ使い)』に君たちは首を突っ込もうとしている」


 彼が言う『危険な存在(エナ使い)』には、灰燼の怪物(グリート)だけではなく。ロゼも含まれているのだろうと推測するカムフ。

 ロゼが敵ではないと確信しているが、味方であるとも現状では断定できない。

 ジャスティンが危惧しているのはそういうところなのだろうと、カムフはそう思った。


「それでも君たちはロゼ()を追いかけるのか? 今なら強引に村へ引き返してやることも可能だぞ」


 そう話すジャスティンはバックミラー越しにソラたちを一瞥する。相当疲れきっていたのか、この心地悪い揺れの中でもぐっすりと眠っている。

 仲良く寝息を立てる彼女たちをカムフも確認すると、苦笑を零しながら答えた。


「俺に説得しても無意味ですよ。皆……特にソラは絶対に納得しないんで」

「…このご息女ならばそうだろうな。立場上、一応釘は刺しておくが…くれぐれも! 無茶なことだけはしないように…何かあっては私の立場としても困るのだからな。と、彼女に言っておいてくれ」


 そう言って眼鏡を押し上げあげるジャスティン。

 そんな彼を横目で見つつ、カムフは苦笑を浮かべて答えた。


「はい。ありがとうございます」

「……全く…これもまた、手の上で踊らされている人間の運命(さだめ)というやつだろうか…」

「何か言いましたか?」


 ジャスティンの囁きは生憎と騒音にかき消されてしまい、カムフには聞こえず。思わず尋ね返したのだが、ジャスティンは「なんでもない」と言っただけで、それ以上何も囁きも呟きもしなかった。


「―――ところで、ブルックマンさんて国王様のことを()とかって…案外国王様に辛辣なんですね」

「案外は余計だ」

「いや、そこは辛辣の方を否定しないんですか」


 ソラたちを乗せたアマゾナイト用車(エナカー)は、停車することなく王都(エクソルティス)へと向かっていく。







 車内に朝日が射し込み始めた頃。

 ソラたちを乗せる(エナカー)王都(エクソルティス)の門前まで辿り着いていた。

 王都内へ入るための大きな門の前では、ジャスティンの忠告通り封鎖の準備なのか。アマゾナイトによって検問所が設置され、それによる人だかりが出来ていた。

 ソラたちだけでここへ来ていたら、おそらく王都内へ入ることは困難だったかもしれない。

 だが、アマゾナイト(ジャスティン)の顔パスによってソラたちは難なく王都に入ることが出来た。

 一応、|アマゾナイトじゃない人間《子供》が乗車していることがバレないようにと、後部座席のソラたちは布切れに隠れて荷物のふりをし、カムフはジャスティンの予備の軍服を上着だけ借りて誤魔化した。

 




「おじさんって意外と凄い人だったんだね!」


 検問所を無事通過出来たところで、ソラはケラケラと笑いながらそんな言葉を投げる。


「その発言は三十代になったら確実に後悔するからな! それに()()ではなくて()()だ!」


 投げつけられたジャスティンはバックミラー越しにソラを睨みつけつつ、眼鏡を押し上げた。


「だけどこんなにも早く王都が封鎖されるなんて思わなかったな…これじゃあ封鎖の御触書(おふれ)が出回る前に王都内外が大混乱になるぞ」


 カムフはそう呟きながら、窓から門の方を見つめる。

 現段階で既に王都は封鎖されているようなもので。門の通過が許されているのはジャスティンのようなアマゾナイトくらいだった。

 その他、住民や旅行者どころか、物資を運ぶ商人さえも通れないようであった。

 何人かの商人は憤りにアマゾナイトへ奴当たっていたり怒鳴り散らしていたりしていた程だ。


「こりゃあ灰燼の怪物(グリート)対策のためって説明する以前に暴動が起こりそうだな…」

「私としては灰燼の怪物(グリート)一人を捕まえるためだけに各地のアマゾナイトが召集されかねん方が由々しき事態だと思うがな…」


 カムフのそんなぼやきを耳にしたジャスティンは、人知れずそう呟き、眼鏡を押し上げていた。







     

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