86項
ロゼを追うため、セイランと会うため。エクソルティスへと向かったソラたち。
―――だが、しかし。
何とか南方都市にはたどり着けたソラたちは。早速思わぬ足止めを食らっていた。
「エ、エナバがなぁいッ!!?」
周囲に響き渡るような大声を張り上げたのはレイラだった。
彼女の金切り声に耳を塞ぐソラとカムフ、キース。
そんな三人の反応を後目に、レイラは集団移動用車乗り場の受付をしている男に掴みかかった。
「何でエナバがもう出発しちゃってんのよ? 発車時刻まで後5分もあるじゃない!?」
少女に胸ぐらを掴まれた受付の男は精一杯の苦笑を浮かべ、苦しそうな声を出しながら答えた。
「ま、まあ乗客がいないと判断した場合には…よくある、ことなので……」
「はあ? 5分くらい待っときなさいよ! それが仕事じゃないのよ!」
「も、申し訳、ございません!」
レイラに身体を揺さぶられ、ずれ落ちそうな眼鏡を守るべく必死に押さえている受付の男。
と、そんな彼に助け舟を出すように、カムフが制止に入った。
「まあまあ、落ち着けってレイラ。今の時間も時間なんだし…もう乗客は来ないだろうって判断しても無理はないって」
そう言うとカムフはおもむろに空を見上げた。
現在は夕方も過ぎ、夜へと変わる時刻だ。
この時間帯になると、集団移動エナ車でも半日近くも掛かってしまうエクソルティスを目指す者は早々おらず。
集団移動用車の運転手が早めに切り上げて発車してしまうのも仕方のない状況であった。
「けどさっきの最終便を乗り過ごしちゃった以上、今日はもうエナバ出ないってことなのよ? そうなると後はこのユキノメで宿を取るか、歩いて王都まで向かうしかないじゃないのよ!」
ここで足止めを食らっている間にも、ロゼはもう既にエクソルティスに辿り着いているかもしれない。そんな焦りがレイラを苛立たせているようで。
彼女はしきりに「どうすんのよ」とぼやきながら舌打ちを洩らしていた。
と、そんなレイラの両肩を、ソラは突然がっしりと力強く掴んだ。
「もう止め止め! ここで苛立ってるだけで時間潰す方がもったいないよ。とりあえず、出来る限りは徒歩で進んでさ、もう限界! ってなったら近くの町とかの宿で泊まればいいじゃん!」
意外にも落ち着いた様子で語るソラ。
実際のところ、彼女にも焦燥感も苛立ちもある。だが、そんなことよりも一刻も早く目的地へ向かいたいため、なるべく冷静に努めていたのだ。
が、しかし。そんな大人しい態度のソラに反して、レイラはご機嫌ななめのままだった。
「体力バカのアンタはそれでいいでしょうけどね、こっちはもうずっと歩き詰めで足はパンパンだしすっごく疲れきってんのよ? キースだって見なさいよ! くったくたな顔してすっごく疲れてるじゃない!」
レイラのケンカ腰な口振りに、それまで大人しくしていたソラもあっという間に耐え切れなくなってしまい。
即座に大声を張り上げて反論した。
「それはキースがレイラの荷物を代わりに運んでたからでしょーが! しかも邪魔な荷物をやっと家に置いてきたかと思えば…また新しい荷物増やして、結局プラマイゼロにしてんだもん! キースが可哀想じゃん!」
そう言い合いながら二人は後方のキースを同時に指差した。
南方都市で暮らすレイラとキースは一旦、荷物を置きに自宅へと戻った。
そして新たにエクソルティスへ遊びに行くのだいう適当な理由をつけて、両親たちから外出の承諾を得て来ていたのだ。
だが、その際に置いてきた荷物に代わって、レイラは新たにケース3つ分の荷物を持ってきたというわけだ。
「キースが紳士だから持ってくれてるの! それに知らないの!? レディの荷物は多いって決まってんのよ! アンタの片手荷物程度と一緒にしないでよね!」
「あ、あたしだってそれなりの荷物あるし! そもそも、荷物取り替えてた時間のせいでエナバに乗り遅れたと言ってもいいんだけどね!?」
「わたしのせいだっていうの!? どうみても時刻を守らずさっさと発車したエナバの方が悪いじゃない!」
気付けばいつも通りのいがみ合いが始まる始末。
カムフは頭を抱えながら深いため息を吐くと、これまたいつものように二人の仲裁に割って入っていった。
「まあまあ二人とも落ち着けって! ここで言い争っててもしょうがないのは確かだし……とりあえず、一旦腹ごなしに何処かの店にでも入ろうぜ? で、これからどうするかちゃんと方針を決めた方がいいって。な?」
カムフの提案にソラとレイラは口をへの字に曲げながらも渋々了承する。
そうして、ソラたちは騒がしいままに集団移動用車乗り場を後にしていった。




