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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空
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67項

    







     

「お、おい! なんじゃなんじゃ! 空の向こうが真っ赤じゃぞ!?」


 誰も動けずにいたそんな中。騒々しく食堂へ駈け込んで来たのはノニ爺であった。

 

「もしや火災じゃないのか? じゃ、じゃとしたら避難を…い、いや、その前に家宝を安全な場所に持ち出さねばならん……!」


 いつも以上の騒がしい声でその場を右往左往するノニ爺。

 彼の慌てふためく様子を見兼ねて、カムフがその肩を掴んだ。


「と、とりあえず落ち着けってじいちゃん! 村の様子はロゼさんが見に行ってくれてるし、ロゼさんの話だと風向き的に此処はひとまず安全だって言ってたから家宝を移動させるのは後回しだ!」

「そ、そうなのか…?」


 今にも心臓が喉から飛び出してしまいそうな状態のノニ爺。

 そんな彼を見たせいかなのかお陰なのか。

 ソラたちもまた幾分かの冷静さを取り戻していく。


「わたし…やっぱりじっとなんてしてられないわ! 誰かが怪我してからじゃ遅いもの!」


 そう切り出したレイラは、カムフが持って来ていたバケツを代わりに手に取る。


ツモノ湯(ここ)が安全だって言うなら村の人たちをツモノ湯(ここ)へ誘導して来るわ! いざ火の手が来たとしても裏手には小川もあるし…そこに飛び込めばいいんだもの!」


 彼女の言葉に阿吽の呼吸でキースも賛同し、バケツを握り直していた。

 二人は村の中心部へ飛び込んでいく気満々であった。


「あ、あたしも……」


 一緒にいく。

 そう言いかけたところで、ソラはある重大なことに気付いた。気付いてしまった。


「―――あ……父さん……!」


 脳裏に過った父の姿。

 ソラは急ぎ窓を見つめる。火の手が見えるその方角は、ソラの自宅がある方角でもあった。


「た、大変だ…助けに…行かなきゃ…!!」


 ソラの父は足を悪くしていた。歩くことは出来るものの杖を頼りにしてどうにか、というレベルだ。

 みるみるうちに彼女の顔は青白く変わっていく。

 そんな彼女に釣られるように、他の皆も不安感に襲われていく。


「ソラ―――」


 と、カムフが何か言おうとしたのも束の間。

 次の瞬間には、ソラはレイラたちよりも早く旅館の外へ出て行ってしまった。

 

「ソラッ!!!」


 カムフの制止の声も届かず、森林の向こうへと消えていくソラ。

 直ぐにカムフは彼女の後を追い駆けようとする。

 が、今度はレイラがそれを制止した。


「待ちなさいよ! アンタまで追いかけてってもしょうがないでしょ!?」

「だけどソラがっ!」

「大丈夫よ! きっとロゼが見つけて引き留めてくれる! だからわたしたちはわたしたちで出来ることをしないと…!」


 そうこう話している間に林道の向こうからは、ソラと入れ違いで旅館に逃げてくる村人たちの姿が見えた。

 聞けば彼らはロゼに促されてこの旅館を目指してきたのだという。


「あの真っ黒な格好の旅人が旅館(ここ)は絶対に安全だから逃げろって…」

「ああ、凄い強い口調で言うもんじゃから…とにかく逃げてきたわい」

「そっか…ロゼのおかげで皆無事なんだ! 良かった…」


 旅館へ駆け込んできた人たちの話によれば、火災は村より少しばかり離れた場所で発生していたようで。

 突然、爆発のように燃え上がった炎が辺り一帯の森を焼いていったのだと、目撃者は語る。


「わ、わしは見たぞ…そ、その火の手が上がった場所に……()()が居ったのをな……」


 と、老婆は息も切れ切れに話す。


「それって…誰かがわざと火を付けて燃やしたってこと?」

「一体誰がそんなことを…」

「よくは見えんかった…じゃが、村の者ではなかった…と、思う……ああ…何でこんな、恐ろしいことを……」


 そう話した老婆は身を縮こませ、祈るように両手を併せ続ける。

 彼女の恐怖心はその場にいた他の者たちにも伝染していく。

 それはカムフたちも例外ではなかった。


「本当に大丈夫だよな、ソラ…」

「大丈夫…そう思うしか、ないでしょ…」


 一抹の不安を振り払うかの如く。カムフたちはただ黙って窓の外を見つめ続けた。







     

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